第122話 病院で事件です
細菌の説明をして、それが原因の病気が複数存在し、その病気をこの病院では完治させていると話した時……
「そんな病気聞いたことも無い! 王都で、はやっていた病気はたまたま薬が効いただけの事だろう。治癒魔法で治せない病気など存在しない」
嫌々、治せない病気はあると教会関係者本人が言っていましたよ。
確かに原因が細菌でも軽症の病気ならハイヒールとかエクストラヒールで治る可能性はあるでしょうが、重症患者は絶対に治らない。
それにハイヒールやエクストラヒールを使える人は少ないんだから無理があるでしょう。
「嫌、それっておかしいでしょ? 魔法で治療できたんならなぜしなかったのですか?」
「それは偶々高位の治癒魔法使いが不在だったのだ」
この人自分で暴露しちゃったよ、高位の魔法じゃないと効かないと……。
「ごちゃごちゃうるさいですね。確かロッテン神聖国の大使さんでしたね。それに治癒魔法も使えるとか、それなら患者の治療をやってみてくださいよ」
これを言ったのは、な! なんと! スーザンその人でした。
立場的にスーザンは学校と病院の責任者と言う事に成っていますから、発言しても問題ないのですが、流石に文句があるならやってみろ的な発言は日頃のスーザンからは想像もできなかった。
「スーザン、それは不躾ではないかい?」
割って入って来たのはカルロス、実はカルロスはスーザンの事を良く知っている。
カルロスの下の息子と同級生なのだ。それにスーザンの親とも仲が良くスーザンが小さい時から知っているから、スーザンの親からも頼まれたこともあり、学校の責任者に抜擢した。
「不躾も何も失礼な事を言ってるのはこの人です」
「いや、しかしだな~ これでも一応一国の大使だからね」
「一応とは何ですか! 失礼な」
「それを言うならあなたも一国が運営してる施設に、いちゃもんを付けてる自覚はあるんですか?」
スーザンの言う通り、国が運営してる施設を馬鹿にするなんてもってのほか。
馬鹿にするならやってみろ、至極まっとうな返しですね。
「どうするんだ? 私としても我が国の施設を馬鹿にされていい気分ではないのだよ。これは言うまいと思っていたが仕方が無いのう」
カルロスは病院での実績は、スーザンや王宮薬師からの報告で知っていたから、この病院で完治した患者たちの診療前の症状や状態を大使に伝えた。
「そ! そんなばかな! 曲がった足など元に戻せるわけがない」
細菌などは理解できていないから、何とでも言うだろうが、流石に自分も見たことのある症状の患者を完治させたと言われれば、納得できない。
「そこまで言われるなら、ロッテン神聖国は病院の視察は必要ないですね。後の行程は参加しないと言う事で、お引き取り下さい」
「本当に要らぬ時間を使ってしまったようだ。では失礼」
ロッテン神聖国の大使は捨て台詞をはいて、病院を後にした。
この判断が後に大事に成るとも知らず……
「お騒がせしましたが、皆さんにはこれからこの病院の目的をお話ししようと思います」
ここからは、ニックが代わって使節団に病院を作った目的を説明していった。
未知の病気の解明と今まで治療困難だと言われていた病気や怪我の治療など、医者という新しい職業に就く為の研修をしているというところだと。
「医者というのは病気と怪我、両方を治療できる者の事です」
「ちょっと待ってください。病気と怪我? 病気は薬師、怪我は教会かポーションでしょ。それなのに両方?」
「そうですよ、薬師がポーションも扱うのです」
ここでやっと大使たちは気が付いた。薬とポーションを医者が使えば教会の治癒魔法はいらなくなる。
医者VS治癒魔法では当然医者に軍配があがる。
「つかぬ事を聞くが、その医者に成るのにどれぐらい掛かるのですか?」
「薬師のスキルを持っているなら1年。持っていなければ2年ですね。但し医者と名乗れるというだけです。本当の意味で使える医者に成るには3~5年というところでしょうか」
1~2年で資格を取り医者に成り、そこから1~3年経験を積むと言う事。前世の研修医を経験すると言う事ですね。
「取りあえず医者に成るだけなら、1~2年と言う事ですか? そんなに早く」
「そうですね、良い機会ですから、我々もまだ修行中ですが研修の一つ手術をお見せしましょう」
本来の視察の行程にはなかったが、練習用の魔物は毎日届いているから、出来ない事はないので、急遽予定にいれた。
「皆さん、今からこのホーンラビットの腹を切って、内臓を一部切除、ポーションによる回復後、また傷を治します」
手術の基本中の基本、手順を覚える為だけの手術。
事前に説明したとおりの手術を終えてニックは
「どうでした? これが手術です。この応用で曲がった足も治せます」
「おう~ そういうことか、それなら納得できる」
「この手術は基本を学ぶための物です。本当の病気や怪我にはこれが出来るだけでは駄目なのです」
大使たちはその日の日程を全て消化してから、拠点の宿舎でそれぞれ考えを整理していた。
翌日視察団は予定通り王都に帰って行ったが、誰一人他の国の大使と会話することも無く、思考を巡らせていた。
ただ一人を除いては……
この視察を境にユウマを取り巻く環境がまた変わって行く、ユウマが変わるかはまた別の話だが……
只今、スーザンは正座をしてローズに怒られています。
「スーザンさん、ユウマさんがいない時に何問題を起こしてるんですか?」
「いやね~ ローズさん聞いてよ、いけ好かない変態親父が病院を馬鹿にしたからついね」
「ついじゃないでしょ、仮にもスーザンさんは学校と病院の責任者でしょ」
「仮にというか、正式に責任者なんだけど」
「聞いた話だと、もう少しでぶん殴りそうだったと聞きましたよ」
「嫌~~ 流石にそれはね~~」
「スーザンさんはレベルも上がってるから殴れば相手は大怪我しますよ」
「まぁ怪我しても病院だから、生きてりゃ治療できるでしょ」
ユウマとのスパルタ合宿後、スーザンは一皮むけたというか、本性が出てきたというか、ラロックに来た当初とは人が変わってしまった。
「スーザンさん、ユウマさんが帰ってきたらしっかり怒られてください。場合によっては再度合宿も検討してもらいます」
「いや~~ それだけは勘弁して。あれは流石にきつい、お願いだから、ね! ローズ先輩」
どちらにしてもユウマには賢者計画がありますから合宿はこれからも定期的に行われるんですが、この時のスーザンもローズもそれを知る由は無かった。
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