第75話 羊皮紙ギルド

 学校視察の時にもう一つカルロスから要望があったが、こちらは事情を説明したら納得して直ぐに引き下がってくれた。


 それは紙、鉛筆、ガリ版印刷の事。


 教科書を見せれば当然食いつくよね国の宰相なんだから。国の運営には当然記録を残す書類が必要だから高価でも羊皮紙は欠かせない。


 それに置き換わる安価な紙が登場すれば直ぐに欲しいと言うのが道理。


 紙とガリ版印刷があれば書類も統一できるから仕事が楽になるし、書類がかさばらない。良いこと尽くめ。


 それでも今回は引き下がってくれた。売らないと言う訳では無く、時期を遅らせるというだけだから。


 その理由が羊皮紙ギルドに配慮しての事だからカルロスも強くは出れない。


 事前の取決め通り、開校と同時に紙関係の特許を登録し、羊皮紙ギルドに通告した。


「なんだこれ! こんな物が売られたら羊皮紙が売れなくなる」


 この国の羊皮紙ギルドのギルド長全員の殆どの認識がこれ。勿論職人達も……


 しかし誰もどうしようもなかった。


 特許は登録されたから誰でも作れるようになっているのだ。特許は国が管理してるから今更特許を取り消せとも言えない。


 猶予は三か月、そこからの動きは様々だった。


 現物を見ていないから危機感が少なくあまり動じない者、商業ギルドに特許の確認をする者、職替えを検討する者など動きに違いがあった。


 羊皮紙の職人には殆どスキルが無い。一部の職人が解体スキルを持っているだけ。


 これはレンガ職人と似ている、レンガ作りだけではスキルが生えないのと同じで、羊皮紙を作るのに皮を剥いでなめすだけではスキルが生えない。


 解体スキルを持っている人は他にも条件をクリアしたからたまたま生えたんだろう。


 もしかしたら皮を使って何か作っていたら皮加工のスキルが生えたかもしれない。


 通達があって少しして、商業ギルドに特許の確認をした人達から追い打ちとなる情報がもたらされた。


 鉛筆とガリ版印刷の特許情報だ。通達には当然紙の事しか書いていないから危機感が無かった人達も流石にこれが何を意味するのか理解出来た。


 そう羊皮紙が消える運命だという事を……


 多くの親方は廃業を決意する。年を取ってるから今更転職はしたくないし出来ない。


 それでもまだ比較的に若い親方は紙を製作する事を選んだ。特許は登録されたばかりだから新規参入は出来ると考えたからだ。


 廃業を選んだ親方についていた職人達は路頭に迷う事になる。


 この世界の住人じゃなかったら、紙、鉛筆、ガリ版印刷という新しい物の可能性に気づいて色々な行動に移せただろうが、路頭に迷った一部の人が紙の製作を選んだ親方のもとに行っただけだった。


 そんな時、国中の商業ギルドに求人募集があった。職種は印刷と鉛筆製造。


 求人元はグラン商会、国中に求人を出したが国中から集めるつもりはない。これはこういったことが出来るよという情報提供の意味がある。


 鉛筆は普通にこれから確実に売れるからやったらという意味だけだけど、印刷は本が作れるよという情報提供。


 職種は印刷だけど目的は本の製造と明記したからね。この意味に気づけた人は既存の羊皮紙の本を紙に作り替えたら売れると考えるでしょう。


 特許はこう使うんだよと教えてあげているのだ。自分で本は作れなくても既存の本を紙にすることは出来る。印刷の使い道の一つの方法を提示することで視野を広げさせようとした。


 本当はここまでする必要はないのだろうが、働き手が欲しいのも事実なので、ついでに特許とは可能性だと言う事を世の中に広める意味も込めて羊皮紙職人の救済を行った。


 この事が功を奏したのかは解らないが、羊皮紙ギルドの関係者からの報復はなかった。


 その後グラン商会では人手が出来たことによってグラン一家の女性陣による世界初の絵本が発売された。


 題名  「スライムの恩返し」


 世界初と言えば今俺は思案してる。紙や印刷があれば異世界あるあるの複式簿記も当然思いつく、複式簿記を提案するならそろばんもあった方が便利だけど、そうするとまた特許が生まれる。


 特許が全て俺で良いのか?いずれ誰かが考え出すかも知れないのに……


 学校では九九も筆算も教えるつもりだから今更感はあるけど、それでも考えてしまう。


 足し算引き算がレベル1、掛け算割り算がレベル2だとしたら、九九や筆算はレベル2.5、そろばんがレベル3、複式簿記はレベル4と言う感じだと俺は思うんだよね。


 現在2の物を3や4に進めて良いのか?


 今までの商品は多くが0を1にしたもの、化粧品は0を一気に3ぐらいまでにしたけど、化粧品は刺激剤や物事を進めやすくするための武器だったからこれは別にして、他は1進めただけだった。


 だからこそ進み過ぎた魔道具は公開していなんだよ。


 今の未完成だと言ってる魔道具なら0を1にしたぐらいだから問題ないだろう。魔法陣という0から1が生まれた後に魔道具が進化するならこれもギリギリセーフだろう。


 ラノベやアニメだと一気に車を作ったり、鉄道を作ったり、飛行船なんかまで進める物もあるけど、本当にそれでいいのか? 俺は作りたいけどね。


 この世界は俺が知ってるラノベやアニメからしたら遅れているぐらいだ。だから0を1にするものが多い、ラノベやアニメの防壁が木なんて言うのは村ぐらいだったのがこの世界では王都でさえそうなのだからかなり遅れている。


 中世のヨーロッパでも前期にかなり近い。物によってはそれよりもっと遅れているものもある。


 やっぱり複式簿記はまだ止めておこう。そろばんは時期を見てだな。


 そんな事を言いながら、ミスリル合金の武器は作ってるし、誰にも見せていないけど、魔法銃も完成している。勿論あるあるのクロスボウなんてとっくの昔に作っている。


 俺が死ぬまでこれらが世に出なかったら、いつかオーパーツのようになるのかな?


 そうか俺が結婚して子供が出来れば知識や物を引き継げばいいのか?だけど苦労を引き継がせることも事実だから躊躇するな。


 結婚出来なかったらオーパーツまっしぐらか……

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