第76話 スキル発現

 学校が始まって半年が過ぎたある日、一人の生徒にスキルが発現した。


 薬師科のミシルという女生徒だ。


 この学校の基本的実習の考え方は、失敗してもいいから兎に角作らせる。


 座学で知識を詰め込んで後はひたすら実習、半年経てば知識は十分にあるから後は努力(経験)や適正次第。この適正というのは鑑定の様な絶対にスキルが生えないと言うものではない適正の事。個人差です。


 このミシルという女生徒は、週に一度の学校が休みの日でも実習棟に通っていた。


 薬草類はどれだけ使ってもいいように俺がいつも補充していたから使いたい放題。本当に薬を作ることが好きなんだろう、授業終わりにはいつも俺の所に来て質問攻めだった。


 その結果がスキルの発現だ。その発表があった日は学校中で大騒ぎになった。


 普通どんな職業でも何年も修業しないとスキルは発現しない。それがたった半年で発現すれば騒ぎにならないわけがない。


 それまではこの学校でスキルを発現できることにまだ疑心暗鬼だった人もこれでは目の色が変わって当然だ。


 それからというもの放課後も学校が休みの日にも実習棟に通う人ばかりに成り、材料の確保の方が大変になる始末。休んでも卒業までには殆どの人にスキルは発現するから大丈夫だと言っても聞く耳を持たない。


 俺はこの学校のカリキュラムを組む時に多くの職人に話を聞いた。スキルの発現までにどんなことをしていたか、どんなものを作っていたかなど本当に詳しく聞きだした。


 そうすることで条件が見えてきた。錬金術の抽出、分離、結合の様な職種別の条件が。だからそれらをカリキュラムに全て入れて条件の反復をさせている。


 ただ発現の早さには個人差がある。それが適正だけなのか何か他にあるのかまだ解らないから、たまに違う事もさせている。


 スキルの発現条件がもっと解明されれば効率がもっと良くなるから、一種の人体実験の様で申し訳ないけど色々やって貰っている。


 親方の中にはこの条件に気づいている人もいるだろうが決して教えない。


 低賃金の働き手がいるのにわざわざ教えてスキルを発現させて、ライバルを増やす必要はないからだ。


 教えなくても時間が経てばスキルの発現はするのだから、技術の継承は出来る。

 そうやってこの世界は今まで回って来ていた。


 それには技術革新が無いのも要素の一つだ。作るものが少ないから技術者が増えすぎても仕事が減るだけ。しかし今からは違う、作るものがどんどん増えて行くのだ。


 今有る物だけでも生産が追いついていないのだから。


 初めてのスキル発現から1月経った頃にはスキルの発現者がどんどん増え学校全体の三分の一は発現した。


 この学校は学科ごとの定員制は取っていない。学科ごとに定員を決めてしまうと、全体で1000人集まらないからだ。


 その理由は応募してくる学科に偏りがある。錬金術が一番多く、次がガラス、後はあまり変わらず、一番少ないのが薬師。


 錬金術は化粧品の発売で人気職になり一番多い。ガラスもそれに近い。薬師が一番少ない理由は、薬は儲からないのに命を預かる職業だから敬遠する人が多い。


 化粧品販売の影響で錬金術科は半数以上が女性となり、男尊女卑が特に酷かった錬金術師の世界はこれから変わるだろう。


 この学校の授業には体育がある。体育と言っても普通ではない。そう魔物狩りである。

 この世界の人は冒険者や頻繁に町から出る人以外は中々レベルが上がらない。上げようとしないといってもいい。


 レベル上昇でMPが増えればやれることが増える。フランクのように錬金術師でもないのに錬成陣で分離が出来るようになっているようにね。


 スキルじゃないから魔力のごり押し? なんだろうね?そうとしか現状考えられないから……


 HPが増えれば体力も上がるが、当然力も強くなる。そうすると当然力仕事がある職種には有利。


 レベルを上げなくてもMPは加齢や生活魔法を使えば増える。しかしHPはある年齢まで行くと伸びなくなる。


 減りはしないからお年寄りでも力の強い人はいる。


 これらは申し訳ないが俺がラロックの町の住民を鑑定しまくった結果解った事だ。


 それにもう一つ解ったことがる。俺の鑑定EXは細かい数値まで見れるからラロックの住民や生徒、俺がパワーレベリングした人達の数値まで記録を取って分析してみると、数値によってスキルの発現速度に違いがある事も解った。


 もしかするとこれが個人差を生んでるんじゃないかと推測出来た。


 錬金術師のスキルの発現年数と知能を表す数値に関係性があった。錬金術師三人衆は発現年数が早かったがこの三人の知能は他の人より高い事が解った。


 木工や陶器などのスキルだと、器用が高い人はスキル発現までの年数が短かった。鍛冶スキルは力と器用。


 ガラスは未だスキルは誰も発現していない。これは拠点の職人も同じだ。ただ拠点の職人は耐熱スキルを発現してる。


 同じように高熱の職場なのに鍛冶職人には鍛冶スキルだけ、もしかすると鍛冶スキルには耐熱が含まれているのかも?


 俺に耐熱スキルはない。たぶんそれはレベルが急速に上がったことで、熱に普通に強いからだと思う。


 熱に耐えたから習得するスキルだろうから、俺は余程の高熱にさらされない限りこれからも耐熱スキルを獲得することはないだろう。


 俺とガラス職人の作るものに差があるのもレベルの高さ故の数値の差だろう。人類最高に近いレベルだから、器用もそれだけ高い。


 0から1に成ったものはスキルは期待できないかな? 職業としてのスキルは発現しないが、別の物が発現する可能性はある。


 ガラス職人に耐熱スキル。羊皮紙職人に解体スキルのようにね。


 商人なんて商人スキルはないけど、鑑定や計算、中には直感とかいうスキルを持ってる人もいる。直感スキルの発現条件なんて解るか?


 これからは職種スキルの発現しない職種が増えるかもしれないな。その代わり職業に関係するスキル持ちが増えるかも。


 紙職人なんてどんなスキルが発現するかな?冬でも水を使うから耐冷スキルとか?


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