第100話 顕微鏡

 教会に行ってこの世界の医療のルールがある程度推測出来たので、薬師をもっと変革できないか考えてみた。


 以前拠点を襲撃した医者は光魔法と薬師のスキルを持っていたから医者を名乗っていた。そうすると薬師がポーションを使えば医者という事だ。


 光魔法とポーションは同じ効果だから、菌やウイルスの病気が治せる薬師がポーションを使えば、前世の医者と薬剤師が一緒になったような存在だ。


 それには薬師に菌やウイルスの知識が必要になる。その知識があれば色んな病の研究が進む。


 と言う事で、顕微鏡を作る事にしました。


 流石に顕微鏡ではウイルスは見えませんから、細菌を見せてこれより小さなウイルスがいるという説明しかできないでしょうが、細菌だけでも見れれば理解度は進むでしょう。


 顕微鏡は、主に対物レンズと接眼レンズ、鏡筒、ステージ、反射鏡で構成されています。

 ガラスで対物レンズと接眼レンズを作る。出来れば倍率の違う物が作れれば、

 尚OK。鏡筒を上下できるようにして焦点を合わせられるようにする。

 ステージは問題ないけど反射鏡をどうするか?


 良く考えたらこの世界ガラスが無かったんだから、鏡も無いよね。

 鏡は銀の薄い膜とガラスで出来るから、銀を薄く延ばすか銀を溶かして薄く塗るかだな。


 これ作っちゃうとまた世の中の女性が……やばいかも……


 光学レンズを作るには純度の高いガラスが必要だけど、錬金術で材料である珪砂を不純物無く分離できるから、前世のレンズより良いものが出来る。

 問題は研磨皿だ、これの出来がレンズの精度に大きく影響する、こればっかりはどうしようもないので、沢山試作あるのみ。


 液体研磨剤はもったいないけど、滝つぼで見つけた、ルビーやサファイヤを粉にして使おう。


 粉にするのも大変だけど、ダイヤの次に硬いからね。


 納得できるレンズが出来たのは2週間後、これだって使えるっていう程度だからね。

 材料が良い光学ガラスでもレンズにするのは技術だから、素人がそう簡単には出来ない。


 前世の職人なら1時間ぐらいで作るそうだけど、俺には無理。


 その他の部品も作るのが、今のこの世界の技術力では無茶苦茶大変だった。

 パイプなら俺も作ったことがあるけど、鏡筒のような細い物はそう簡単には作れない。


 部品ごとにあーでもないこうでもないと試行錯誤して、最終的に顕微鏡が完成したのは2か月後、マジ暫くこんな作業したくないと思ったね。


 この顕微鏡は薬師の為に作ったけど、本来ならここまで本格的な物でなくても大きな菌なら見せる事が出来る。それなのに敢えてこの顕微鏡を作ったのには理由がある。

 ガラスがあれば鏡が作れる。レンズが出来れば眼鏡が作れる。精度の必要な細いパイプが作れれば大きなものは簡単に出来るように成る。


 顕微鏡1つでこれだけの事が少なくとも出来るようになる。出来た後だけでなく、作る過程にも意味があるのだ。


 鏡やメガネが出来ればガラス職人の仕事が増えるし、鏡を専門に作る鏡職人やメガネやレンズを専門に作る職人が生まれるかもしれない。


 実際レンガが出来たおかげで左官業、左官職人が生まれたのだから。


 今は錬金術師が多くの物を作っているが、これも専門で一つの物を作るように成るかも知れない。実際学校の卒業生は化粧品を多く作っている。


 ただこれにもデメリットがある。スキルの習熟度を上げるには多種作った方が良いスキルと専門でやった方が良い物がある、錬金術は多種の方だ。


 ポーションだけ作って来た錬金術師の習熟度は上がるのに時間が掛かっている。

 一方、ガラス職人はスキルは無いがガラスを作る事だけしていた方が技術は上がる。ガラスに関係するからと鏡やレンズを作っていたら元に成るガラスの製造技術が伸びない。


 顕微鏡が出来たから、薬師のカリキュラムを少し変更する必要がある。


 それでもそう大きくは変更できない。学校の第一目標はスキル発現だから、出来ても知識を増やす程度、薬の開発は卒業後の個人の研究に頼るしかない。


 これでニックが学校に残る魅力が増えただろう、薬の研究をしながら教師をやってもらおう。 これって前世の大学教授みたいだな。


 此処までは言い、問題なのは鏡やメガネをどうするかだ。勿論、顕微鏡も卒業生は欲しがるだろうからこの問題も放置できない。


 後からばれたら一番怖い鏡は早急に何とかしないといけない。特許登録する前に在庫はある程度作っておかないといけないが、拠点のガラス職人の仕事がハードになる。これはフランクに相談かな?


 反射鏡は俺一人で作ったからガラス職人も見ていない。見ていたら今こんな状態ではいられ無かっただろう。


 ただ、今から自分でその状態を壊すんだけどね……


「フランク、こんなもの作ったんだけど売れるかな?」


 間違いなく爆発的に売れるのは解っているが、敢えてとぼけて言う。


「何を作ったって?」


「これ」


 フランクに見せるように普通サイズの鏡を作って来ていたので、鏡にフランクの顔が移るようにして見せた。


「おい! おい! なんていう物を作るんだ。どうするんだよ? こんなの売れない訳がないだろう。お前は馬鹿なのか? そうだな、そうに違いない。だからこんなもの作るんだよ」


 言うに事欠いて、酷い言われようだが、鏡がどういう事を引き起こすのか分かっていて作ったから、言われても仕方が無い面もある。


「で! どうする?」


「どうするもこうするもあるか~~~ 作って売らなきゃ俺がシャーロット達に酷い目にあう」


 そうだよな、化粧水の時でも作らなきゃって、悪寒が走ったぐらいだからな。商品の事まだ言ってもいなかったのに……ロイスがばらしたんだけどさ。


 それにしても鏡が無かったのに女性たちはどうやって化粧してたんだろう?

 貴族は侍女にやって貰えば出来るけど、他の人は水かがみかな?


 それからはフランクと職人が鏡を作って、俺が木工スキルで枠を作り、上半身が映る鏡を50枚、手鏡を50作った。


 全部貴族向けに装飾入り、特許が登録されれば卒業生の職人も作ってくれるだろうから、それまで一番怒らせてはいけない王家や貴族を黙らせる量があれば良いと言う事でこの数。


 当然、グラン一家の女性陣や拠点の錬金術師には別に装飾無しで早急に追加で作りました。


作らないと一番怖い、存在だから……

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