第101話 医者

 鏡の特許登録と販売が始まった。販売前に王宮にだけは献上しておきましたよ。

 王妃の力は強いから、こういうのを献上するしないでは今後に大きく影響しますからね。


 鏡の販売は木工職人の仕事をまた増やしたので、多くの職人が悲鳴を上げて仕事しているそうです。


 スライムクッションの時も凄かったですが、今度は殆どの女性が欲しがるものですから、数が半端ないので過労死しなければ良いのですが。 女性の圧は凄いです。


 今日はニックに薬師のカリキュラムの変更について話す予定です。

 それと同時に医者についても話してみようと思っています。光魔法とポーションが同じ効果だから、薬師がポーションを使えば治せる患者が増えるという事を教えたいと思います。


「ニックさんわざわざすみませんね。今日は薬師のカリキュラムについて変更があるのでお呼びしました。変更の理由はこれです、これを覗いてみて下さい」


 何だいきなりと思いながらも、顕微鏡を恐る恐る覗いたニックは


「な! なんですかこれ?」


 今回、顕微鏡にセットしてる検体は肉が腐った物、見せてるのは腐敗細菌です。


「これは細菌と言います。目では見えませんがこの顕微鏡を使えば見えます。こういったものが体に入る事で病気に成ります」


 腐敗細菌にも種類がありますが、俺の場合は鑑定すればどれが何の細菌か判別できます。


 こういったものも図入りで本にすれば鑑定が無くても薬師は勉強できるようになるでしょう。あれ? これってまた俺の仕事が増えるパターン?


「これが細菌というのですか?」


「そうです。そしてニックさんが王都で活躍した病気の原因もその細菌です」


「え! あの病気の原因がこれ?」


 俺は細菌と結核について説明した。細菌には多くの種類があり、その中の一つが結核を引き起こす結核菌という細菌だと教えた。


「これがカリキュラムを変更する理由です。この細菌について生徒に学んで欲しいのです」


 病気の原因である細菌について学ぶことは薬師にとって、とても必要なことだとニックが少し引くぐらいに熱弁した。

 ニックは何も言わず俺の話を聞いていたので、一気に俺は本題に入る事にした。


「カリキュラムの変更も必要なんですが、本題はそこではないのです」


 ここからは、光魔法とポーションの効果について説明し、二つは同じ物で病気には効かない事が多いと教えた。しかし薬は今現在でも病気に一番効果があるもので、細菌の研究が進めばもっと効く薬が多くなると説明、そして薬師がポーションを使えば怪我も病気も治せる、医者に成れるとこれも熱弁した。


「医者?」


「そうです! 医者です。医者って凄いんですよ、こんな事も出来ます」


 医者の出来る事を例を使ってニックに話して聞かせる。


 先ずはニックに一番解りやすい結核を例に上げて、結核は結核の薬で完治するが、それまでに体力や肺の機能が落ちているので、暫くは静養しないといけないが、そこに初級ポーションを足す事で一気に回復させることが出来る。


 他にも怪我でもないのにひざの関節が痛むと痛み止めの薬を買いに来た人に薬師がポーションを出す事で治療できる。


 今まで患者が判断して、光魔法を使うか、ポーションを使うか、薬を使うかを判断していたけど、これからは薬師がポーションか薬か両方かを判断して治療するようになる。


 これをやる人の事を医者と呼ぶと……


「それは実に面白いですね。医者、医者か~」


「当然、医者になるには薬だけじゃなく、怪我や体についての知識も必要になります。勿論、細菌についてもです」


 カリキュラムの変更は薬師として細菌の知識を持って貰う為だが、医者に成るには、このカリキュラムの変更だけでは追いつかない。そこでこんな提案をする。


「先ほども言いましたが、医者に成るには薬の他に知っておかないといけない事が沢山あります。そうすると1年では足りないのです。そこで医者に成る事を希望する人にはもう1年在学して貰おうと思うのです。どうでしょう?」


 俺はこの時点で医者を国家資格にしようと思っていた。薬師のスキルを発現させて、薬の知識だけを学んだ人は薬師と名乗り、ポーションや怪我、体の知識まで学んだ人が医者と名乗れる、勿論、医者は知識の試験をします。


 だから薬師として経験を積んだ後でも知識の試験に合格すれば、後からでも医者には成れる。


「確かに、その必要はありそうですね」


 ニックは了承してくれた。そして自分も医者に成りたいと……


 この計画を進めるために、医者を国家資格にしてもらう必要があるので、グランにニックに話した内容と同じ事を説明して、国家資格にする必要性も話して、国に了解を取って欲しいとお願いした。


「また、ユウマ君は面白い事を始めるつもりですね」


口ではそう言ってるグランも本心は、こいつ少しは大人しくしていてくれと思っていたのだろう。 顔に出ていた……


 医者を国家資格にする必要性については医者の地位を保障することも理由ですが、一番は教会への対策です。


 錬金術師はポーションを作るだけが仕事です。基本販売には関与していません。貴族に直接販売するのは例外、だから直接患者を治療しているわけではない。しかし教会は直接患者を治療しています。


 薬師は基本怪我の治療は殆どしませんが、医者はポーションを使ってやるようになるので、教会とやることが、かぶってしまう。

 かぶるだけならポーションを売ってる人達と変わりませんが、医者は病気も治療できますから、教会に行く必要が無くなってしまうのです。


 当然これは教会にとって死活問題です、何らかの反発は必至なので国に医者の身分を保証させ、医者を守るのです。


 これで教会が今の態度を改め治療の代金を安くすれば患者も来るでしょう、勿論利益は減りますが、本来教会は人々の支えに成るべき存在です、それを神の代弁者のように振舞っている事が間違っているのです。


 これでも態度を改めないなら、改良ポーション投入です。

 一般の神父だとヒールやハイヒールぐらいしか使えませんから、改良初級ポーションなんて投入されたら、ほぼ初級ポーションの価格でハイヒール並の治療をされるから教会はもっと困ったことに成ります。


 教会も世界的組織ですから、いよいよ世界に喧嘩を売るのかな? ユウマは忘れていたが、もう既に砂糖の原産国には喧嘩を売っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る