第102話 またか!勘弁してくれ

 医者について俺から頼まれたグランは、もう通い慣れたと言ってほどの、ビクターのもとにいた。


「ビクター様、今回もご相談があって参りました」


 ビクターはその時、グランの相談は、お願いだと確信していた。過去の出来事を考えれば当然の思考である。

 だからこそ、内容を聞くまでは気軽に返事は出来ないと思っていた。


「相談か? してその内容はどのような物だ」


 グランはユウマから聞いた内容をグラン商会が考えてる事にして、医者の国家資格についてビクターに説明した。

 勿論、そうする理由として教会の事も絡めて報告した。


「内容は分かったが、教会が相手ではそう簡単にはいかんぞ」


 ビクターはグランの話から医者の有用性は理解したし、それが教会と対立することも分かった。まして教会が腐敗してる事は領主としても以前から苦慮している事だから、何とかできるものならどうにかしたいから協力は惜しまないが、国家資格にしたぐらいで教会が引き下がるとは思えなかったからこの返事をした。


 当然グランも教会がそう甘くないのは分かっているから、切り札を出す事にした。そう改良型ポーションである。


「ではこれをご覧ください。改良された高品質なポーションです。これらを市場に出す予定です。勿論、医者もこれらを使います」


 ポーションを初級、中級、上級、毒消し、MP回復と全て並べて、効果の説明をした。20%と50%の効果UPの内容と共に……


「な! なんと20%と50%も効果が高いのか! 流石にこれを出されたら教会は成す術が無いな」


 これを出されたら教会の権威は一気に衰退する。教会でも使える人が少ないエクストラヒールより効果が高いポーションが市場に出れば対抗手段がない。


「しかしグランよ、良くそう次から次へと驚くような物が出てくるな。つい最近、鏡とメガネが出て来たばかりだぞ。鏡は我妻もたいそう喜んでいるし、メガネは父が喜んでいる。本当にお主の所はびっくり箱か? もうないだろうな?」


 ビクターがこのように言ったのには理由がある。グラン商会からもたらされたローム糖が今国際問題になっていて、国王はじめ宰相のカルロスが苦慮している事を知っているからだ。そこに医者と改良ポーションの問題が加われば、世界的組織、教会との問題も浮上するから、国の反応が予想出来ていた。 またか!


 自分が今そう感じているから……


 グランが帰った後、ビクターはこの事を手紙で送るか自分が王都に行って報告するか考えたが、やはり問題が大きすぎるので自分で行くことにした。

 

 その結果、ビクターから王宮に面会の申し込みが来たとたん、国王をはじめ、カルロス、役人に至るまで、背筋がぞっとしたという。

 ビクターが国王に会いに来てこれまで一度たりとも大事に成らなかった事がないから、そうなっても致し方ない。


「大体の話は理解出来ている。しかしとんでもない物をまた作ったな」


 ビクターは面会要請と共に書面でも報告を入れておいた。これは前もって伝えておいた方が、話がスムーズに進むと思ったからだ。


「はい陛下、まさかあのような物を作って来るとは、ローム糖だけでも頭が痛いというのに今度は教会ですから、大変申し訳なく思っております」


 そんなこと思っていないだろうという顔をされたが、ここは社交辞令としてそう言うしかビクターには無かった。


「しかし、細菌や医者の事は大いに国の為になる事だから是非やって貰いたいと思う。だから国家資格も国が認定しよう。だが問題は教会だな」


「その点についてですが、教会に関しては先ず医者の認定後どう出てくるかでポーションの導入時期を検討したいと思います。国の決定に否定的な態度を取るようなら、その時にとどめを刺すと言う事でどうでしょうか?」


 最終的にはポーションは導入されるから早いか遅いかの違いなんだが、教会に改心のチャンスを与えて、改心するようなら国が援助することも検討できるからだ。


 国王との話が大体終わった頃、慌ただしく部屋に入って来る人物がいた。


「ビクター殿またですか! もう本当に勘弁して欲しいのですが」


 そう言って入って来たのは宰相のカルロスだった。その顔は疲れ切っていて、顔にも勘弁してくれという気持ちが出ていたが、メガネが妙にそれを和らげていた。


「カルロス様、メガネが良くお似合いですね」


 カルロスは、最近老眼が始まっていた。まだそんなに酷くないのだが、羊皮紙に比べて紙は文字を小さく書けるので、仕事で目を通す書類の文字が見え辛くなっていた。


 近視のメガネだと正確に視力に合わせる必要があるが、老眼だとその必要がないので、何種類かのうちから自分に合った物を選べばよかったから、グラン商会に頼んで送って貰ったのだ。


 グラン商会のメガネで一番売れているのが今は老眼のメガネ。


「そんなお世辞は結構、もう王宮の役人を含め我らは限界なのです。頼むからもう暫くは自重してくれ、ローム糖の件もまだ完全に片付いておらんのだ」


 ローム糖の生産により、砂糖の輸入が減少すると同時に塩の輸入も問題が出る。


 今現在は岩塩が採れているから直ぐには問題にはならないが、岩塩の採掘量が年々減ってきているので、将来的に塩も輸入量が多くなる可能性がある。この塩の輸入先が砂糖と同じ国だから、砂糖で得られる利益が減れば、塩で補って来るのは明白なので、出来るだけ穏便に解決したいから、交渉が難航している。


 国は知らないが魔境の森には岩塩が豊富に採れる場所があり、俺はそれを知っている。

 俺に塩の問題が伝われば何とかするだろうが、この時点では伝わる可能性がまだなかった。


 医者の国家資格は国が承認したが、その発表は学校での成果が出てからという事に成った。

 医者が誕生する前に発表すれば教会が反発しやすいので、既成事実を作ってからというこに……


 ビクターが王宮から帰る時に、くれぐれも自重してくれと王宮ですれ違う役人全てからお願いされた。


 流石にビクターも、その役人たちを気の毒に思い帰ったらグランに自重するように手紙を書くことにした。

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