第103話 異世界医学部

 国から医者の国家資格が承認されたので、俺は次の行動に移っていた。


 薬師の生徒に医者という新しい職業について説明して、その資格を取るためには、もう1年学ぶ必要がある事を告げ、希望者は卒業までに申し出るように通達した。


 これで正式に医学部の設立がスタートする。医学部と言っても前世の医学部とはかけ離れている。ポーションがある世界なので手術というものが必要ない。


 ポーションは異常な物を正常に戻すという効果なので、例えばガンのような病気があったとしても、がん細胞を正常な細胞に戻すので手術して取り除く必要が無い。


 この時まではそう思っていたが……


 この世界ではどちらかというと薬師がメインの医者なのです。ポーションの効かない病気を薬で治すのが医者の仕事、言い変えれば細菌やウイルスが関係した病気を治すのが医者の仕事と言っても良い。


 だからこの医学部では細菌やウイルスについて学ぶと同時に研究して新しい薬の開発もする。


 そこでユウマはその研究を進めやすくする為に、医学部付属病院を作ろうと思っている。そこに全国からポーションや光魔法、薬で治らないと判断された患者を集め、研究と同時に治療をしようという思惑、正に一石二鳥の妙案である。


 病院を作るとなると、病棟と看護する人も必要になる。それに集まって来る患者は多くが細菌やウイルスに関係する病気なので、二次感染も防がなくてはいけない。


「病棟を作るにしてもどれぐらい必要だろうか? 今度ばかりは入院出来ないから来年と言う訳にはいかない。人の命が掛かってるのだから」


 そこで、どのくらいの患者が予測できるか経験豊富なニックに聞いてみる事にした。


 薬師として多くの患者を診て来ただろうから、治せなかった患者やそういう人がどのくらいいたか、正確ではないにしても参考にはなるだろう。


「ニックさん、聞き辛い事ですが、ニックさんが覚えている限りで良いので、治せなかった患者の数、病状、潜在的にそういう患者がどのくらいいるか予測でいいので、教えてくれませんか」


 俺にこう聞かれた時ニックは自分の力及ばず助けられなかった人達の事を思い出したのだろう、寂しい様な悔しい様な何とも表現しづらい顔をして考えていた。


「そうですね、結核を覗けば私が治せ無かった患者は年に1~2人ぐらいでしょうか、王都には多くの薬師がいますからその人達も同じぐらいだとすると、50人~100人ほどですかね」


「病状は色々ですね、一口では言えないくらい沢山ありました。潜在的にはそう多くないと思いますよ、薬師の薬は比較的安いので薬師に相談しない人は生きるのもやっとのような貧困の人ぐらいですから」


 ニックの話は非常に参考になった。流石は経験豊富な薬師だ。王都のように人口が多い所で100人ほど、それ以外の町や村でそれぞれ3~5人、衛生環境が悪い所で10人ぐらいと考えると、多くて1000人ぐらいだろうと予測できた。


 本当はもっといるかも知れないが、病状次第でここまで来れない人、間に合わない人もいるだろうから、1000人が妥当だと思う。


 これは詭弁かも知れないが、全ての人を救う事は出来ない。俺は神様じゃないんだから……


 しかし1000人か、これは学校をもう一つ作るレベルだ。作るのは俺一人でも出来る、しかしレンガではなく、魔法を多用すればの話だ。


 そうすると俺の能力がばれてしまう可能性が高い。ある程度は気づいている人もいるだろうが、病院規模を短期間で作れば国に気づかれる。


 拠点や学校は作った後に視察があったから何時から作り始めたが曖昧だからそう気にされなかったが、今回は医者の国家資格の件で国に話が行ってるから、病院の完成から逆算されると建設期間の予測がたってしまう。


 これはどうしようか? 本当に悩む……


 出した結論は、魔境の森に作るだった。


 魔境に少し入った所に秘密裏に俺が魔法全開で短期間で作ってしまうという物。


 冒険者は魔境の森には殆ど入らないから、入る時に使う様な場所を避けて作ればほぼ見つからないだろう。

 少し不便ではあるけど、病院が完成した後に通いやすくすれば良い。


 そうと決めれば早速場所を決めて、建築に取り掛かった。


 薬師の授業はニックにお願いして、空いた時間や夜間も出来るだけ作業をして病院は2か月で完成した。


 今回はレンガは殆ど使っていない。全部土魔法で防壁も建物も全て建てた。


 他の人にはレンガの上を拠点のように塗っていると言えばある程度は誤魔化せるだろう、レンガも少しは使って見えるようにしているから。


 今回の建物は1つの建物に入り口が複数設けてある。その入り口ごとに内部は別れていて繋がっていない。


 一種の病気別の隔離病棟のような物、厳密には出来ないだろうが、二次感染は出来るだけ防ぎたいからこの造り。


 建物は3階建て、魔境の森の外から見えない高さでそれを20棟建て、他にも病院に必要な食堂、風呂、職員の宿舎なども必要数建てた。


 本来は20棟もいらないと思う、患者は一斉に来るわけでもないし、長期入院する人もそんなには居ないだろうから。


 研修生には勿論、研究はさせるが患者は全て俺が鑑定で病名を把握して、適切な薬も作る予定。


 それを直ぐ教えるのではなく、答えに近づくように指導し、間に合いそうもなければ俺の薬を投与する。


 このやり方なら長期入院は殆どでないだろう、だけどもし前世のコレラ、ペスト、天然痘、などの様な感染症やこの世界ならではの感染症が流行した時の為に規模を大きくしておいた。


 最初に後から通いやすくするというのは、トンネルを掘って対応した。


 拠点の裏手に密かにトンネルを通して、そこにトンネルの入り口が見えないように建物を建てて、病院をお披露目する時に同時に公開する。


 今回は誰にも言っていないから、相当に驚かれるだろうしグランかフランクには多分怒られるだろう、でも今回はそれも覚悟の上です。


 怒られるだけで済むなら安いもんですよ、人の命と引き換えならね。


 こんなことして、目立たないというのがどこまで守れているか分からないが、これも俺の人生! 自分で決めたことだ。

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