第104話 笑うしかない

 病院が完成したので、お披露目をするのだが、さてどう切り出そうか?


 確定してるのは怒られる事。これはしょうがないから諦めているが、それでもそれを和らげたいというのが人情でしょ。


 そこで先ずは1人味方に付ける事にする。適任者はやっぱりニック? フランク? ニックは医者に大賛成だから、病院も理解してくれるだろう、フランクは何といっても新しいもの好き、どちらがいいかな?


 え~い、味方は多い方が良いに決まってる。この際だから二人に最初に見て貰おう。授業の終わりに二人を呼び出し、拠点の裏に案内する。


「ユ! ユウマこれは何だ? こんな建物以前は無かったぞ」


 ニックは拠点の事に詳しくないから無反応だったが、フランクは違う。拠点を建てる時や襲撃もあったから拠点の事には詳しいから、知らない建物があれば当然驚く。


「まぁ驚くのはまだ早いから、説明は少し待ってくれる。先ずはついて来て」


 どうせ病院を見ればこの程度では済まないから、説明は後にすると強引にトンネルに案内した。


 トンネルを抜けて地上に出たとたん、二人はただ固まった。当然口は開いているが声は出ない、暫くその状態が続いた後。


「ユウマ! 今度は何を作った!」


「ユウマさんこれはなんです?」


「これは病院です! どう立派なもんでしょ、自信作だよ」


 病院という聞いたこともない言葉に理解が出来ない二人


「病院ってなんだ?」 


「病院ってなんです?」


 では説明を始めますか、病院とは患者を医者が診察、治療する場所で、一時期的に住む場所だと説明した。

 そしてここに全国から治療不可能とされた患者を集めて治療と医者の研修をさせると説明した。


「それで、私に治せなかった患者の数などを聞いていたんですね」


「そうです、ただ病院に来ても全員治るとは言い切れません。それは改良型上級ポーションでも、新薬でも治せない程病気が進行していれば無理です」


 それは当然である、そうでないのならこの世界では老衰以外では人は死ななくなる。

 それでも前世よりは病気や怪我で亡くなる人は少なくなる。

 元々衛生面でも十分ではないのだから、治療する前に亡くなる人も多い世界だ。


 それに人口が今の3倍になっても問題ないぐらい余裕がこの世界にはある。


 しかしいずれこの世界でも、未知の病気が流行するかもしれない。その時に特殊な鑑定を持っている、俺が居なければ治療薬も発明できないかも知れない。今は遅れ過ぎてるのだから少しずるをして、進めても問題はないと思う。


 ペニシリンが発明されただけで生存率がとんでもなく上がったからね前世でも……


「あははは~~ 此処まで来ると笑いしかでないな、ユウマのする事は想像を遥かに超えているから」


「何かそれって馬鹿にされてるような気がするんだけど?」


「馬鹿になんかしてないぞ、ただ俺には理解できないだけだ」


 フランクの言う事に違和感はあるが、確かに普通の人は1人で病院なんか作らないし、作れないから変人扱いされても仕方が無いとは思う。 

 変人アピールをしたのも自分だから余計に文句が言い辛い。


 施設を一通り案内した後に、この病院を公表して患者を集めるにはどうしたら良いか2人に相談してみた。


「公表は何時頃を予定しているんだ?」


「今の薬師が卒業する時期に公表しようと思っています」


 これは薬師が医者を目指すための研修施設でもあるから、その時期に既存の薬師も同時に募集するためだ。


「そうすると、患者の誘致もその時期に合わせると言う事ですか?」


 ニックがそう聞いて来たのは、それだと今現在苦しんでいる人を見捨てるという事でもあるから、薬師として思う所があるからだろう。


 俺だってそれは考えた。しかし患者を今引き受けても人手が足りない。それに医者を国家資格にしたのだから、それなりの知識を持ったものじゃないと研修もさせられないから、本来は今までの卒業生や既存の薬師でも厳しいのだ。


 しかし、今回の卒業生だけに限定すると、これは差別に成ってしまうから、形だけでも募集はしなくてはいけない。


 医者に成る一つの条件に細菌やウイルスに対する知識は必要不可欠なのです。

 細菌やウイルスについて本でも作れれば、それで勉強してもらう事も出来るが、やはり顕微鏡などで実物を見るのとそうでないとでは実力に差が出る。


 だから、今現在細菌などを学んでいる生徒が卒業するまでは研修させられる人がいない。


 俺が一人で全部治療すれば問題ないのは解っているけど、それをやると本末転倒なんだよね。それに俺が出来るのはあくまでこの国の中だけだ。世界を見ればもっと多くの患者がいるはずだから、結局は見捨ている事には変わりがない。


 このような内容をニックに話して、納得は出来ていないようだけど、何とか了承してもらった。

 卒業生がスキルを全員が発現していれば、1~2か月ぐらいは公表を早められるかもしれないとは、言っておいたが……


「公表に関してはそれで良いと思うが、患者をどうやって集めるかだな」


 フランクの言う通り、これが一番難しい、時期、誰が、どうやって?

 この病院が辺境にあるというのも問題、搬送方法も大きな問題の一つだ。


 搬送に関しては解決策が無い訳ではない。全国の領主にお願いして、改良型の馬車で搬送してもらうことだ。


 馬車はかなり浸透してきているので、上物を改良してベットが幾つか置けるようにすれば、なんちゃって救急車で一度に2~4人ぐらいが搬送できるだろう。

 ただこれは費用を領が負担することにならるから、賛同が得られるか分からない。


 そうすると一番確実なのが、国の予算でやって貰う事、学校が国立に成った事でうまく機能したから、今回も国立の病院にして貰えれば上手くいく可能性が高い。

 国立にすれば、搬送だけでなく、誰がどうやっての部分まで解決する。


 時期だけは、こちらの準備と国の準備が整い次第と言う事に成るだろうが。


 あ! これはグランにまたビクターの所に行って貰わないといけない。この間行って貰ったばかりなのに……


 味方を付けたので2人の協力と共にグランや拠点メンバーにお披露目をしたが、怒られるというより呆れられた。


 そして国立病院の話を聞いたグランはただ引きつったような顔で笑っていた……

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