第105話 病院と医者
物凄く嫌な顔をされたらしいが、グランの報告を聞いたビクターは国立病院の話を国に報告した。
その報告を聞いた国も、「またなのか」という感じで渋々応対したそうだ。
しかし内容は明らかに国の為になるものだから動くしかない。
搬送に関しては国の予算で馬車の手配をすることで早急に取り掛かったが、患者の募集をどうするかは色々検討されたが結論はまだ出ていない。
しかし進んだものもある。国のお抱えの薬師と王都の薬師から選抜した人を早急に病院に派遣し、それと同時に、王都で患者を募集して病院に送る事が決まった。
最先端の医療を先ずは王宮と王都に広めれば、各領地の領主も動きやすくなるだろうという目論見である。
当然と言えばそうなんだよね。王宮の薬師が医者じゃないなんておかしいから、病院の開業云々は別にして、一刻も早く研修は受けさせたいと思うよね。
病院の正式開業は学校の卒業に合わせるにしても、事前にある程度の患者と研修生が来る事は俺としても問題ないので了承して準備に取り掛かった。
今回は間違いなく俺は表に出てしまう。この世に存在しない知識を披露するのだから、苦しい言い訳だが、俺は結核の薬を伝えた、謎の薬師に手ほどきを受けた弟子と言う事にする。
今回の患者の搬送費や病院の費用は全て国持ち、なぜこんなにも予算があるかというと、スライムクッションや改良型馬車、紙などが国外に売れているそうだ。
国外に売れば技術が盗まれると思うだろうが、特許は国が管理しているので国外には出ない。
それに馬車は真似出来ても、スライムクッションやスライムタイヤが出来なければ、乗り心地を同じには出来ない。
スライムクッションも紙も加工法が解らなければ作りようがないし、見た目で真似できるのは馬車の台車部分だけだけど、これもかなりの技術が必要。
王宮と王都の薬師がやってくるのは良いのだけど、結局は研修生でもないんだよね。
細菌やウイルスの知識が無い以上、経験豊富な薬師というだけ。
確かに多くの患者や病気を診て来ているから、学生なんかに比べれば優秀なんだけど、逆に頭が固い可能性もある。
細菌は現物を見せれば納得するだろうが、ウイルスを信じるかも分からない。それにポーションを使ったことはあっても、普通は初級が殆どだから、中級や上級の使い方が理解できるかも未知数。
王宮の薬師なら上級のポーションや教会のエクストラヒールの事も見たことは無くても効果がどのようなものかは知っているかも知れないが、実際には経験したことは無いだろう。
今はこんなこと考えてもどんな人が来るかも分からないんだから、どのように医者として育てるか、その方法を考えるしかない。
この世界の医者の一番初めの仕事は診察、怪我なら程度、病気なら患部、進行状況、病気が細菌などが原因の病気なのかそうで無いのか、原因が細菌などと解ったら、どう治療するか?
????あ! 診察! これって魔法で出来ない?
前世ならレントゲン、MRI、胃カメラなどで体内がみれるけど、この世界では症状やけがの程度で予測するしかない。
魔法のある世界、俺の鑑定は別物としても鑑定で解る病気もあるだろう、勿論、習熟度で変わってくるだろうが……
ひ! 閃いた! これ無魔法で出来るかも?
これって魔力感知の応用じゃないだろうか? 病気の患部って多分だけど、魔力がないか薄いんじゃないかな? これは要研究だな。
これで何処が悪いか判別できたら、後はこの原因が細菌の様な物か、ガンや潰瘍のような細胞異常なのかが解れば治療方法が解る。
細菌やウイルスなら薬、それ以外なら特殊な物を覗けばポーションで治療。
検査は前世なら尿検査や血液検査だろうが、この世界では難しい。成分鑑定なんて出来る鑑定の習熟度はもうMAX位まで行かないと無理だろう、レベルは存在しないが……
また! 閃いた! これってもしかしてだけど、必要ないと言っていた外科手術もありかも?
病状が進行し過ぎて、エクストラヒールでも上級ポーションでも治療できない末期でも、開腹して直接患部に魔法かポーションを使えば治療できるかも?
それには闇魔法のスリープか麻酔薬が必要になるけど。
俺は単にこの世界の医者を薬師とポーションを使う人と思っていたけど、よく考えたら、前世の医者のやり方をこの世界のやり方に置き換えれば良いだけなんだよ。
だから検査のやり方も変えれば良い。血液検査は細菌やウイルスを見つけるのに必要だけど、尿検査に代わる方法を見つければ良いんだ。
そうだよね、いきなり前世と同じようには出来ないんだから、基本は前世の医者を参考にして、この世界なりの医学を模索すればいい。
細菌の場合で一番の基本はやっぱりペニシリンかな?
俺が鑑定すれば正直どんなウイルスでも対処できるとは思うんだけど、それでは何の意味も無いからね。
自分達で正解に辿り着かないと、でも何の知識もない所からいきなりやれと言っても無理だろうから、使い道の多い、ペニシリンを作らせればこの先の発展が加速するだろう。
他にも抗体やワクチンの研究もする必要があるな。これは動物実験ならぬ、魔物実験が必要になるな。
これは耐えられるか分からないが、使い道のないゴブリンが役に立つかも?
ゴブリンに人間の病気が再現できるかと臭いに対処できれば……
細菌に関してはこれは申し訳ないが、病名と治療薬は俺が見つける。
それを本にして関わった病気には対応できるようにする。
ニック親子との勉強会で、割と多くの病気については教えてもらっているから、病名を検索すれば治療薬は判明したので、それについてはある程度記録しているから、此処だけは答えを教えることにする。
この他にもマスク、白衣、消毒薬、手袋、手術器具……作る物が沢山ある。
段々マジで大学の附属病院ぽくなって来たな。これって1年やそこらで終わる話かな? 前世の医者は大学で6年、国家試験合格後2年の初期研修、その後3~6年の後期研修、一人前の医師に成るのには10年近くかかる。
でもこの世界は魔法の世界、前世とは違うからこれもあてにはできないな。
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