第134話 逃亡

「フランク、そんなに急がんでも良いではないか?」


「何おっしゃいますビクター様、あの人たちは尋常じゃないんです。早く逃げないと一生領地に帰れませんよ」


 領主に向かって「よ」は使ってはいけないが、フランクは自分の言葉使いがおかしいのにも気づかないくらい焦っていた。


 さかのぼること、魔法の実演の翌日。


「フランク殿、この魔方陣とやらはどのようにできているのですか?」


「それは私も良く知らないのです。今はまだ日々研鑽してるところなので」


「では、どなたがご存じなのでしょう?」


「それはお答えできません。その事については答えなくても良いと王様より許しを貰っておりますので」


 こうなることは初めから予想できたので、フランクは魔法の実演の前に王様の許しは貰っていた。

 俺の存在はこの時点で国も秘匿することを半ば了承してる段階だったので、すんなり了承された。


 王たちは俺に会いたいだろうが、強制すれば逃げると言われればどうする事もできない。


 だからこそ、魔法士たちに余計なことは聞かせないように前もって釘を刺したのだ。


 それでも、魔法についてはそれは恐ろしいほどの追及をされた。一日中そばを離れないのだ。フランクが行くところには何時でも何処でもついてくる。


 フランクが食事に行くと言えば一緒に食べようと誘ってくる。本当にフランクが落ち着けるのは、夜寝る前だけだった。


 このような状態が何日も続けば流石にフランクも逃げたくなる。その結果が今の状況。


「フランクよ、おぬしの気持ちは分からんでもないが、流石にこの時間には追ってこないだろう?」


 そう今は早朝、やっと空が白み始めた時間。普通の貴族が出発する時間じゃない。それでも強行したのだ。フランクは……


 余程、魔法士たちの行いが怖かったのだろう。それにこのままでは本当に返してもらえないような状況だったので、ビクターに土下座までして頼み込んだ。


 ビクターに置いて行かれる可能性もあったのです。ビクターは辺境伯だし、魔法については全く関係がないので、フランクを置いて帰ることもできた。それでも帰りたいフランクは後から問題にならないように、逃亡に見えないようにビクターに同伴してもらったのです。


 どう見ても逃亡なんだけどね。だって魔法士たちには何も言っていないから。


 フランクはただ逃げたいだけだったから、後のことは考えていないけど、これ絶対後から色々問題が出てくるだろうね。


「戻ってこれた我がふるさと安寧の地。ラロックおう~ ラロック……」


「あなた何を言ってるの? お疲れ様。 余程のことがあったみたいね」


 シャーロットにそう言われたので、フランクは王都であったことをそれはもう矢継ぎ早に、もの凄い形相でシャーロットに説明した。


「それは大変でしたね。 まぁ帰ってこれたんですから、良しとしましょう。でもそれだと問題は片付いていませんね。どうするんです?」


「それなんだよ。恐らくだけど魔法士が規模は分からんけど此処に来る可能性があるんだよ」


 俺としては初めから視察ありきで準備してたから、問題はない。


「それだったら大丈夫よ。ユウマさんは準備してたから」


 視察がないと分かった時点で準備は止めてもよかったのだが、これから先のことも考えて、魔方陣については賢者候補に覚えさせていた。


 賢者には俺の分身になってもらうのだから、魔方陣ぐらい人に教えることが出来ないと困る。


 魔方陣も色々と研究が進んで、魔道具に使える文字や法則、簡単な魔法の文字や法則は解明できているので本にして賢者候補たちに覚えてもらっていた。


 まぁ本にできている時点で誰が来ようと、俺はそれを渡して森に引き込めるのでもう問題は解決している。


 それでも長く魔法士たちに居座られても困るので、賢者候補に教師が出来ぐらいまで教育した。


 それをフランクに話したら、非常に憤慨していた。だったら初めからそうすればよかったじゃないかと。でもそれは無理だったよね。王宮からの呼び出しだったから……。


 それから一週間後、案の定魔法士がラロックにやって来た。それも10人。聞いていた話だと王宮魔法士は全員で13人だという話だから、ほぼ全員で来たということ。


 何を考えているのだろう? 王宮魔法士がそれだけの人数王宮を離れていいのか?


 まぁ戦争をしている訳でもないし、この世界の魔法士の魔法は確立されているから、普段は魔法の訓練しかしていない。


 訓練が研究のようになっているだけなのだ。使える魔法の種類を増やす。使えるようになったらひたすら使い続けて習熟度を増す。これが結果的にMPを増やしたり、一度の魔法で使うMPを減らすことになる。


 これがこの世界の魔法士の日常。魔法を改良する、新しい魔法を作るということは一切していない。


 そこが本当に不思議なのだ。確立してるといっても、その確立されるまでは魔法が開発されていたはずなのに、今はだれも開発をやっていない。


 思い当たることは、この世界の魔法は自然現象がイメージの基本になっているから、普段目にする自然現象がなくなれば開発もストップしてしまう。それが一番しっくりくる答えだ。


 それに引き換え、俺の魔法は前世の知識や化学や物理現象もイメージして作っているから、かなりの数開発できているし、これからも、もっと増えていくだろう。


 魔法士たち、いやこの世界の魔法が進化するには、やはり科学や物理とまでは行かなくても、それなりの教育をしなければ進化しないだろう。


 魔法はイメージというのは今現在学校で広めているが、そのイメージを広げる意味で知識は絶対に必要だ。


 俺が飛行船の為に作った重量軽減魔法は、重力、質量の知識がないと作れない。


 この世界に重力という知識はない。重さの知識はあっても……。


 これはどう考えても基礎学力をつける義務教育は必要なんだよね。今、賢者候補に教えていることを体系化するしかない。


 それで教育すれば、将来改良や研究が進んで魔法は進化する。恐らくそれだけじゃない。科学や物理、生物などの知識から数多くの魔道具も開発されるだろうし、俺が作っている飛行船のようなものまで作られ、この世界の文明が進化する。


 魔法ありきの未来世界、一種のSF世界が出来るかも知れない。


 流石にその時まで俺は生きてはいないだろうが、見てみたいものだ……。




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