第133話 王宮魔法師

 ビクターがグラン達から魔法と魔法陣に付いて報告を受けてから、オックスの件も含めて、王と宰相に報告に行ったことで、王宮は大騒ぎになった。


「ビクターよ、おぬしはわしを殺す気か?」


「な! 何を仰せですか! 滅相もございません。決してそのようなことは考えてもおりませぬが、王のお気持ちはお察しいたします」


「ビクター殿、これは世界がひっくり返ることですし、先ず王宮魔法師が黙っていませんよ」


「それは承知しております。その魔法師をどうするかもご相談いたしたく思っております」


 この国の王宮魔法師というのは、プライドの塊のような連中ばかりなのだ。そのような連中に新魔法などと言うことを説明しても、まず信じないだろうことは想像できる。


 もし信じたとしても、その先がさらに問題なのだ。俺が貴族や王宮と関わりたくない人物だから、気安く呼び寄せる事も出来ないし、魔法師達をラロックに行かせることも出来ない。


「ビクターよ、そちはその魔法を見たのだったな?」


「はい、ティムの魔法はその場では無理でしたが、スリープの魔法は見ました」


「それなら、ここにおぬしに魔法を披露した者を呼んで、王宮魔法師達の前で披露させればどうであろうか?」


「それは可能かと、そのものは王もカルロス様もご存知のグラン商会のフランクですので、問題ないと思います」


 あちゃ~~ フランクがとんでもない事に成りそうです。ラロックでは視察が来るものと思って準備しているのに、これでは計画が狂ってしまう。


「それでは急ぎこちらに来るように伝えよ」



 嫌々ながらやってきました王都に…… いや王宮に……


 フランクが王都からの知らせを聞いた時、物凄い大きな声で


「何で俺なんだよ~ ロイスの方が適任じゃないか~」


 ここでローズと言わないのは当然だし、ロイスの方が魔方陣を使わずにティム魔法が使えますから適任なんだが、流石に王に会う可能性があるのに、一従業員では失礼に当たる。


 それに魔方陣なしの魔法を説明しても多分理解できないでしょうから、魔方陣ありきの方が良いのです。


 魔法はイメージだと魔法士たちに言っても、反論されるのが関の山です。


 魔方陣も同じでしょうが、緩いイメージでも発動するので、練習次第では魔法士の中にも発動できる人は居るかも知れません。


 だから、今回はフランクが適任なんです。それでも宥めるのに苦労しましたよ。あまりに嫌だったのか、絶対無理なことなのに俺に行けとまで言いましたからね。


「フランクよ、今までの視察の時のようにしておけば良いから、そう緊張するな」


「しかし~~ ビクター様、今までは商品の説明やそれに関するものでしたが、今回は魔法の専門家に魔法を見せるという、ある意味こちらが教師のようになるのです。緊張するなは無理です」



 ビクターに連れられてやってきたのは、魔法士たちが魔法の訓練をしてる王宮内の広い空間だった。


 そこに現れたのが、王を筆頭に宰相のカルロス、その後ろに王宮魔法士と思われる人が数人。魔法士と思われる人たちは王の命令では仕方がないというような表情で現れた。


「そちは、確かフランクと申したな、今日はよろしく頼むぞ」


「は! 王宮魔法士の方々に魔法をお見せするなど、お恥ずかしいのですが、精一杯務めさせていただきます」


 緊張しながらも王にそう言われてはやるしかないとフランクは覚悟を決めた。


 今回の魔法披露のやり方は、先ずスリープの魔法を披露して、次にティムの魔法を実演するという段取りだ。


 スリープの魔法は今回人には掛けず、捕まえてきたホーンラビットで行う。そしてそのまま、ティムの魔法もホーンラビットに掛けて、オックスの飼育が出来ることを証明してしまおうということらしい。


 小さくても攻撃性の高いラビットが命令に従うなら、大人しいオックスなら可能だということの証明にはなる。


 フランクは魔方陣を使ってラビットを眠らせ、そのままティムして見せた。


 この世界のティムの魔法は命令が増えるたびに掛けなさなければいけない。

 言葉を理解しているわけではないの当然だ。


「魔法は掛け終わりました。 今回は人間を襲うなと動くなだけ命令しました」


「お~~~ 本当に動かず、襲っても来ないな」


「ま! まさか! そんな魔法が存在するわけがない」


「それにその羊皮紙に書かれた奇妙なものはなんだ?」


 王やカルロス、それにビクターは魔法の効果に感心していたが、魔法士たちは案の定信じるどころか、魔法の存在を否定し、魔方陣を奇妙なものと言った。


「魔法は存在しますよ。 ないと言われるなら、今の状態をどう説明されます?」


「そ、それは……」


 当然答えることはできない。万が一魔法の代わりになりそうなものがあるとすれば、薬ぐらいだろが、その形跡がないのに、目の前でつい先ほどまで檻の中で暴れていたラビットが眠りにつき、目が覚めても暴れないのだ。


「良いか、魔法は存在する。これは王であるわしが認める。だからこの魔法を使えるようになれ! これは命令である。良いな?」


「御意!」


「そう言えば、魔法士長の姿がないようだがどうしてだ?」


 王のその言葉でその場にいた魔法士たちは凍り付いた。


 このような場合、当然王からの命令なのだから、魔法士長がこの場にいるのは当然なのだが、やはり傲慢な魔法士たちの長であるだけあって、どうせそんな魔法は存在しないと高をくくり、部下に全て任せてしまっていたのだ。


「まぁ良い、最近のこの国の変化に気づきもしない人間には、これからは厳しい世の中になる。そなたらも肝に銘じておけ、変化についてこれないものをわしは重用しない。よいな!」


「御意!」


 その数日後、宮廷魔法士長の解雇が通達された。


「ところでフランク、報告は受けているのだが、オックスが1000頭以上すでにティムされて、ラロックにおるそうだな?」


「はい、ですので出来ましたら、そのうちの500頭以上を国と辺境伯領で引き受けていただけないかと思っております」


「しかしのう……直ぐには無理じゃぞ。それにその乳製品というものがどんなものか分らぬから、こちらとしても動きようがない」


 当然だよね、どういうメリットがあるか理解できないから慎重になるのは仕方がない。


「それでしたら、本日はその乳製品の一部を持参しておりますので、試食していただきたく思います」


 実はラロックに王都から知らせが来てすぐに、俺が必要になるだろうと日持ちのする、チーズとバターを作ってフランクに持たせていた。


 その日の夕食に出されたバターはパンにつけて食べられ、チーズはワインのつまみとして食べられて、あまりの美味しさに王から牧場建設の命令がその場で下された。










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