第118話 引きこもりのユウマ

 賢者計画も医者育成も順調に進んでいた時、またとんでもない通達が国から送られてきた。


 なんでもエスぺランス王国に駐在する近隣諸国の大使が団体でゾイド辺境伯領全体を視察に来るという。


 この国に駐在してるのだから、この国の情報は持っているでしょうから、この国が今異常に発展してきている事には気づいている。


 当然、自国も遅れるわけにはいかないから詳しく知りたくなる。


 何時かはこういう日が来るとは思っていたが、今回も前回の国絡みと同様に時期が早過ぎる。


 せめて賢者計画は無理でも、初めての医者の育成が終わってからにして欲しかった。


 何でこういつもいつも計画の途中で来るかな?


 しょうがない、今回は本当に魔境の森に引き籠ろう。


 今度の相手には前回の手は全く通用しないからね、こういう時は逃げるが一番。


 見られて拙い物はない。ただ俺が表に出たくないだけだから、俺が引っ込めばいい。


 大使の視察だから、今回もそう長くはないだろう、まして辺境伯領全体なんて見て回れば、一か所に長くはいられないでしょうから、余裕を見て1か月引き籠れる準備をしましょうかね。


 もう慣れたものです、一度経験済みですから。


 どうしようかな? 一人で引き籠るか、何人か連れていって強化合宿も兼ねるか?


 き~めた! 今回は1人で引き籠る。


 そうと決めれば善は急げ、2日で準備して家に帰ります。


「いや~~前世も含めて初めての1か月の休暇だよ」


 高校生の時を最後に、就職してからは一度もこんな長い休暇を取った事が無い、思わず独り言がでる。


 帰宅後……。


 今日から一週間は本当にのんびりしよう、拠点周りの整備でもして過ごせば退屈もしないだろう。


 兎に角今までは義務や時間に追われていたような気がする。それが嫌だと言う訳では無いが、人間こういう時間も必要だよね。


 畑の草取りでも義務でするのと、暇つぶしにするのではやってる事は同じでも精神的には全く逆の効果がある。


「さて、今日は例の物を作ろうか。やっと素材も準備できたから」


 誰もいないのにこんな言葉が自然と出てくるぐらい興奮してる。


 今日作るのはミスリル合金の「日本刀」。


 ミスリルはずっと人工的に作り続けている。


 フランク達が使った剣に使われてるミスリルはごく少量ですが、今回は日本刀の材料の全部を賄えるぐらいの量があるので、半分を使って配分を変えて3本の日本刀を作るつもり。


 残りのミスリルは合金にして、配線に使って離れた所にスイッチを付ける実験をする。


 言い訳に聞こえるかも知れないけど、これは楽しくてやっているから趣味なんだよ。


 今回の休暇の間に人工ミスリルの製造装置も造る予定。この構想はずっと前からあったんだけど、中々時間が取れなくて実行できなかった。


 この装置の製造が可能になったのは魔法陣で魔道具が造れるように成った時。


 装置と言ってもそんなに複雑な物じゃなく、魔法陣の中の魔石に魔力を外部から取り込んだ魔力を補充するだけ。


 魔石の魔力ってほんの少しづつですが自然放出されている。


 その放出分を魔法陣で常に補ってやるので魔力がなくならない。


 魔力が無くならない魔石の傍に銀があると、銀がその魔力に当てられて変質する、それがミスリル。


 それなら普通に銀を放置してもミスリルに成りそうだがそうはならない。


 魔石の放出魔力は普通の魔力より濃厚なのです。


 凝縮されてると言ったら良いでしょうか。


 だから天然のミスリルが存在するとしたら、物凄く魔力が濃い所という事に成ります。


 ミスリルって特殊な金属で、魔力を通したり、魔力によって硬くなったりするので、魔力を使わないと元の銀と性質は変わらないので脆いのです。


 だから日本刀を作る時の配分が難しい。


 多すぎても良くなく、少なすぎると殆ど鉄と変わらなくなる。


 日本刀を作るには玉鋼が必要ですが、これももう準備できています。


 ここまで来るのに本当に長い期間が必要でした。


 だからもうワクワクが止まりません、男のロマンですよ。


 何と言ってもミスリル合金の日本刀ですから、魔剣ならぬ「魔刀」です。


 この響き「魔刀」たまりませんね!


 三日掛けて三本の魔刀を完成させました。


 配分は7:3、8:2、8.5:1.5 玉鋼7に対してミスリル3という事ですね。


 フランク達に使わせた剣の配分は9.5:0.5に届いてるかどうかの剣です。


 これ程少量のミスリルでもあれだけの効果がありますから、今回の魔刀はどうなるか見当もつきません。


 翌日、早速試し切りに向かって魔物に使ってみましたが、切れ味自体は三本とも変わらないのですが、ミスリルの配分が少ないほど魔力消費が多いという事が解りました。


 俺ぐらい魔力があればどれを使っても特別不自由することは無いでしょうが、魔力の少ない人なら高配分が使いやすいでしょう。


 始めて造った魔刀ですから、この三本に名づけをしようと思います。


 高配分の魔刀から、「雪華せっか」「雪月せつげつ」「雪風ゆきかぜ


 雪風だけ呼び方が違うって突っ込まないでね……


 ミスリルの配線に関しては、これは高配分どころか殆どミスリルじゃないと意味が無かった。


 魔刀の配分で魔力消費が違うのが判明した段階でこの結果は予想できていた。


 この結果から不純物が多いほど抵抗があるということだけど、配線の強度を保つためには最低限の不純物は必要なので、これからの研究はこの不純物を鉄以外で研究する事かな。


 剣や刀と違って、配線だから少しの強度で良いから鉄でなくても良いので抵抗が少しでも減る金属を探し当てればミスリルの配分を減らせる。


 電気と同じで、金とか銅が良かったりして? まさかね……


 はい、その予測通りでした……。


 何でこういうところだけ前世と同じになるかな?


 ただ金だけ、銅だけだと魔力抵抗が大きいのは不思議、ミスリルとの合金に成ると性質が変わるのかな?


 それでもミスリル6の金4、ミスリル7の銅3という配分が限界みたいです。


 まぁ鉄だとミスリル9.8の鉄0.2ですから比べられないくらい、抵抗は少ないんですが……。


 本当にこうやって一人で物作りをしてると楽しいな。


 嬉しい事にひと月も休暇はある。 明日は何作ろうかな? 作りたいものはいくらでもあるんだけど、こうやって時間が急に出来たから順番に悩む。


 人付き合いが嫌いというわけではないんだが、元々の気質は一人を好むんだろうな。


 だけど! だけどだよ! 今度の人生では絶対に結婚したい!


 矛盾してるようだが、これが人というもの。 人は欲望の塊なんですよ。


 引きこもりたいけど、一人は寂しい。本当に俺って我がまま。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る