第117話 7人の賢者

 世界の仕組みを少しづつ解明していくことで、産業だけじゃなく魔法やスキルも進化してきた。


 この世界って本当に全てが遅れているんだな。


 これを一人で進めるなんて無理だ。そこで今俺が取り組んでいる分身造り。


 この分身計画を賢者計画と命名した。


 賢者って一つの分野に特化してる人や何でも知ってる人どちらでも使われる言葉だけど、俺の目指してる賢者はこの中間。


 知識は幅広く持っているが、得意分野もあるという賢者、言うなれば日本人かな?


 この世界にとっては日本人って賢者なんだよね。基礎的知識は義務教育で網羅しているし、職業に就くのに複数の資格を取っている人もいる。


 勿論、欧米人や他の国にも同じような人は沢山いるから地球人と言ったほうがいいのかもしれないが、そこは俺の拘りって事で日本人と表現する。


 始めは数人の賢者でもその弟子、そのまた弟子というようにネズミ算式に増えて行けば世界のレベルが上がる。これが俺の計画。


 最初の賢者候補がスーザン、ローズ、ミランダ、エマ、フランク、ロイス。


 この6人は現状レベルも高いし知識もそれなりにあるから最有力候補。


 他にも拠点メンバーやグラン一家は候補、当然病院関係のニックも候補に入る。


 そこでまず始めたのが、拠点メンバーによる学校の運営、教師や監督役の交代である。


 学校の科は現在、錬金術、薬師、ガラス、鍛冶、陶器、木工、普通、冒険です。


 その中の薬師、木工、鍛冶、陶器、冒険は既に教師が賢者候補以外に成っている。


 冒険科の教師のサイラスの伝手で2人ほど元冒険者を呼び寄せてもらったので、現在はフランクもロイスもお役御免に成っている。


 残るは、錬金術、ガラス、普通の教師を賢者候補以外の拠点メンバーで担当できるようにすれば、学校運営から俺も含めて賢者候補は外れる事が出来る。


 問題なのは普通科と冒険科の魔法担当、監督官です。


 監督だけといっても魔法の知識は必要なので、今これが出来る人は賢者候補の錬金術師三人衆しかいないから、拠点の錬金術師に魔法や魔法理論を教えて監督官が出来るようにする。


 ここまで出来れば、賢者候補だけを集めて拠点と病院で俺が集中講義をする。


 集中講義は一日2時間、それ以外の時間は兎に角自分のスキル以外のスキルの修練をして貰う。


 2時間しか取れないのは俺が病院の運営から離れられないからです。


 それも2~3年もすれば医者が増え、病院の患者も減るでしょうから離れられるでしょう。


 当分は俺を含めた7人が中心になるので、言ってみれば7人の賢者。


 ニックや拠点メンバーが育てば俺と交代して俺は大賢者にでもなるかな……。


「大賢者と愉快な7人の仲間たち」なんてどうだろう?


 冗談はさて置き、俺はこれから人数を絞って知識の伝達をしていこうと思う。


 そうすれば最終的に俺は森に引き籠れるし、この世界を旅することもできるようになるだろう。


 こんな感じでこれからの計画を立てて動いている時、いつも新しい事をする時は傍にいた、グランを最近見かけない。


「フランクさん、グランさんを最近見かけませんが、どうしたんです?」


 何時も迷惑ばかりかけてるからかも知れないが、事後報告が多い俺としたら、今回の事は事前に報告しておきたかったんだが、当の本人が居ないので出来なかった。


「父さんかい? 父さんは……」


 あれ? なに? 何か言いにくそうだけど?


「父さんは今、領都にいるよ」


 領都? グラン商会の領都店は従業員に任せてるし、もう雑貨屋の商売も殆ど行っていないはず。


 ビクター様にも連絡事項はないしな、今はスーザンが二重スパイ的にこちらに都合のいいように情報を流しているから、グランが動く必要はない。


「領都で何してるの?」


「そ、それがな父さんは今、領都の蒸留所で寝泊まりしてるんだよ」


「な! なんだって、蒸留所?」


「そうなんだよ、近々1年熟成物のウイスキーとブランデーが発売されることに成ってね、それで付っきりなんだよ」


 1年熟成ってまだまだでしょう。最低でも3年は熟成させないと、それなのに泊まり込みで監督してるの?


 領都の蒸留所は確かにグラン商会の物だけど、普段はドワーフを中心に運営されているはず、それなのに何でまた?


「1年物なんてそんなに気にするものでも無いでしょ?」


「それがな、父さんが拠点に酒の保管場所をユウマに作って貰ったろ」


「うん、作ったね。でか過ぎるほどの物をね」


「そう、そのでか過ぎる貯蔵所に頻繁に通っていた父さんが、1年物を試飲したのが今回の行動の原因」


 ん? 1年物の試飲が原因?


「何でそれが原因なの?」


 フランクが言うにはその1年物が異常に美味しかったから、そのまま売り出すと直ぐに在庫がなくなりそうだから、未熟性の蒸留酒とブレンドして少し美味しい程度に調整しているそうだ。


 勿論、貴族や王家にはブレンドしてない通常の物を売るそうだが、これっていいの?


 確かに前世でもウイスキーなんかはブレンドして美味しくしてたけど、これはそうじゃないからな。


 しかしなんでそんな事するんだろう?


 普通に売り切れごめんでいいんじゃないのかな?


「なんでそんな事するの?」


「それが~~1年物の半分を拠点の父さんの貯蔵所に移動したから」


「????ちょ! ちょっと待って、それってグランさんが買い占めたって事」


 嫌々、グランさんの貯蔵所には大量の1年物があるでしょうが、ケインの店の分でさえ、領都からわざわざ運ばせて、拠点の在庫は減っていないんだから。


 まさかグランにこんな一面があったとは……。


 しかし1年物がね。俺は森の拠点で10年や20年物を飲んでるから分からないけど、この世界には今まで熟成酒なんて無かったから1年でもそう感じるのか?


 いや? ワインはあったでしょ? まさか1年かからずに全部飲んでた?


 確かにドワーフなんていう種族がいる世界だから、なくもないか……。


 これは絶対グランに10年物とか飲ませられないな、とんでもない事に成りそう。


 しかしこれじゃ折角賢者計画を始める前に、報告しようとしたけど無理だな。日頃やらないことをやろうとすると上手くいかないもんだ。


 こんなことが続くと結局また事後報告ばかりになりそうだから、グランの苦労は終わることがないんだろうな。だから今のうちは自分の趣味を楽しんでくれ。

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