第326話 意識

 カルロス達、いや、フランク達も含めて俺が話すこの世界の仕組みについて理解したのか、それとも困惑しているのか、暫く四人とも黙っていた。実際は六人だけど、賢者の従者に成ったばかりの人には何のことだか全く分からないだろうから、数に入れていない。


 まぁ俺達の会話を聞いている間中、顔が面白いように変化していたのは、見ていてある意味面白かった。それでもこの時期に世界の仕組みについて聞けたことは彼らの財産になるはずだ。


「ユウマ、俺は今物凄く、すっきりしている。全てが一本の線のように繋がったからな。今までは個別に色々学んできたが、それが全部繋がっているという事が分かった」


「そうですね。私も同じです。旦那様」


 賢者の二人は色んなことを今まで学び実践して来ているから、理解という結果に成ったが、多分残りの二人は困惑しているんだろうな。俺が言ったことは何となく分かるが、経験が足らないから実感できない。知識としては最近詰め込んでいるから、おぼろげに理解出来るが確証が持てない。


「お二人はまだここに滞在できますか?」


「どうかな? そろそろ厳しいかな?」


「そうですか、それでは仕方がありません。次回という事にしましょう」


「次回何をするのだ?」


「いえ、今の話を実感して貰う為に魔境に案内しようかと思っただけです。ですがお二人ともお忙しい方ですからしょうがないなと思ったので次回と言いました」


 俺が魔境と言った瞬間、二人の顔は行きたいという事を表すように変わった。それが高揚という言葉で表して良いかどうか分からないが、それぐらいの変化だった事は確かだ。


「魔境に行けるのか? どれくらい掛かる?」


「そうですね……、往復3~4日という所でしょうか」


 パラダイスからなら5日は確実に掛かるが、ユートピアからなら、3日で往復も可能だ。ただ行って帰るだけならね。


「カルロス様、私は行きますよ。この世界の仕組みを理解する為には絶対に必要な事です。これを今やらない何て言う選択肢は私にはありません!」


 まぁビクターは辺境伯だから、それぐらい帰りが遅くなろうと大きな影響はないだろうが、カルロスは違う。一国の宰相が長期に王宮を空けるなど普通にあり得ない。今現在でもかなり役人たちは困っているはずだ。下手すれば国王も困っているかも知れない。


「この際ですから、ビクター殿と呼ばせてもらいますね。ビクター殿お一人なら次回という事にさせて下さい。これから国作りで忙しくなりますから、そう何度も国を空ける訳には行きません。ですからお連れするならお二人一緒でお願いしたい」


「そう言われるとこちらも言い辛いな。建国が最優先というのも理解出来るからな」


「いや待たれよ! そういう事ならわしも行こう。この事を知ることは職を辞しても知るべきだと思うからな」


 ちょっと~~~待って~~~、職を辞する……。そこまでする必要はないでしょ。次回にすれば良い事なんだから、考えが極端すぎるよ。


「カルロス殿、それはやり過ぎでは? いくらなんでも辞める必要はないでしょ」


「そんなことは無い。世界の仕組みをいち早く知ることは、国の発展に大いに役立つ。わしの宰相としての最後の仕事に相応しい」


 最後の仕事? この人はもうそういう考えに来ているのか? グランが早期に商会をジーンに譲ったように、息子に譲る気なのかもしれないな。エスペランスの国王も以前そんな事を言っていたようだし、世代交代を考えているのかな?


 グランもそうだが引退してからの方が、人生を楽しんでいるからな。カルロスも元から魔道具には目がない程の収集家だし、こういう発明や発見には興味が元からあるのだろう。だからこそ、この機会はチャンスだと思っているのかもしれない。世代交代の切っ掛けに出来ると……。


「そこまで言われるのなら、一度ユートピアに戻って、準備をしてから魔境に向かいましょう」


 本当は城を早く完成させたいんだけど、建国宣言までに最悪完成すれば良いし、ロベルト達の調査もまだ時間が掛かるだろうから、その間に済ましてしまった方が、後が楽だ。集中できるからね。


 城の建設を止めて、フランク達とユートピアに戻り、それぞれ連絡するところには連絡を入れ、嫁さんや彼女に許可を貰う者は貰って、再び飛行船の駐機場に集合した。


 俺の方はサラが簡単に許可をくれたが、フランクとロイスは少し苦労したそうだ。まぁ今回も何で自分達だけなんだという事なんだけど、近いうちに連れて行くと約束することで何とか許可して貰えた。近い内というのは良いけど、今度の視察が終わったら、カルロス達を送らなければいけないから、また直ぐ出かけるけど、大丈夫なのか特にフランクは……。


「食料なども準備出来ていますから、直ぐに出発します。飛行船の旅も慣れて来たでしょうから、各自到着までは自由にしていてください」


「それなら、飛行船の操縦を教えてはくれないか? 何時かは飛行船を手に入れるつもりだからその為の練習をしたい」


「飛行船ですか?」


 ビクターからそう言われた時にフランクの方を見ると目をそらしやがった。こいつ喋ったな! 飛行船を増やすという話はサラと話した後に賢者には伝えてある。これから賢者が個人で動くことも増えるだろうからという思いでの増産計画をだ。


 その計画には飛行船を自分達で作るという事も入れているから、当然それ以降は自分達だけで製造も可能になる。だから国やビクターに多分フランクは売り込んだんだろう。まぁ売り先を間違えないなら、そこは好きにすれば良い事だがね。


「流石フランクさんですね。商魂はまだ残っていましたか」


 全てお見通しだぞという皮肉を込めてフランクに俺はそう声を掛けた。すると調子に乗ったのかフランクが今度はにっこり微笑みながらブイサインをしてきやがった。


 出発前にそんな事もあったが、出発から1日半で魔境の端の魔力スポット付近に到着した。


「ここから少し内陸に入ると、弱体化している魔力スポットが見えて来ます。そこにはワイバーンがいますのであまり驚かないで下さい」


「ワイバーン! 伝説に近い魔物だよ。そんな物をこの目で見れるなんて、やっぱりここに来てよかった」


 数十分後、


「あそこに見える山が魔力スポットです。そしてあの黒い点がワイバーンです。肉眼では点にしか見えませんが、これで見たら確認できますよ」


 カルロス達が目の強化が出来ないと思い、双眼鏡を渡した。


「おぉ~~! これは凄い! あれがワイバーンか!」


「ワイバーンも凄いがこれも凄いな。あれ程遠くのものがこんなに近くに見えるなんて」


 魔道具に目がないカルロスは、魔道具ではないが双眼鏡にかなり興味を示したようだ。


「カルロス殿、それは双眼鏡と言って、顕微鏡や眼鏡の応用みたいなものです。お二人が目の強化が出来れば必要ないんですけどね」


「身体強化は知っているがそんなことも出来るのか?」


「眼だけではありませんよ。耳だって出来ます。ただこれを使える人が増えると噂話、小声の悪口も聞こえますから、迂闊に何も言えなくなります」


 まぁ暗部には必須の強化だから、この二人なら帰ったら早々に取り組ませるだろうな。


「しかし、あの山の位置は恐怖だな。あんなに近い所にワイバーンがいるなんて」


「そうです。ですが、今は魔力スポットが弱いので、ワイバーンが森を出ることは無いです。でももし魔力が回復したら、その安全もなくなります」


 ワイバーンと最初の魔力スポットを見た後は、海岸沿いに魔力濃度の測定をしながら、魔境の上空を飛行して濃度の上がり具合を二人に教えた。前回皆がレベル上げをしたところぐらいまでしか行かなかったが、二人は驚愕していた。


「あの魔物のレベルが8……。ラロックの魔境の入り口付近の魔物がレベル3程度。それでも多くの冒険者は苦戦するのに……。ここを更に北上すればレベル20台がいるという」


「どうです? 魔力スポットが復活したらどうなるか予測できたでしょ。そして人類が住むところに何故ダンジョンがあるのか?」


「ダンジョンは魔力を消費して、人類の居場所を作っている。そう考えるのが自然だな。それに、ダンジョンから出る魔道具やそれに類似するものは神からのヒントであるというのも納得できる。ダンジョンは攻略して潰しても行けないし、ダンジョンに潜らないのも行けないという事だね」


「それだけでは無いですね。魔境を放置するのもいけない。出来る限り開拓していかないと、魔境が侵食してくるかもしれない」


「これから魔道具が増え、人類がレベルを上げて、魔力を多く使用するように成れば、スポットが回復してもその分を使うように成るから、今の現状は最低限維持できます。でもそれを怠れば……」


 これだけ現実を見せられれば、意識もかなり変わるだろう。後はこの人達がどうするかだ……。














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