第327話 困ったもんだ

「わしは決めたぞ! 国に帰ったら宰相の職は辞して、ユートピアの大使に成る!」


 はぁ~~~、急にどうした。世界の仕組みを知った事がどうしてそれに繋がる? カルロスの急な宣言に俺を含めた6人は唖然として、それに反応出来なかった。


 今回の視察にもフランク達の従者はついて来ているから6人なんだが、この従者二人も自国の宰相の変貌ぶりに驚いていて、尚且つ、何故カルロスがあのように成っているのか全く理解出来ないようだ。


「カルロス殿、どうしてユートピアの大使に成るのですか?」


「勿論! ユートピアに居た方が面白いからだよ!」


 これはあれか? グラン二世か? 新しい生き甲斐を見つけたとかいうパターンなのか? グランは燻製から始まり、今は酒、典型的なのんべいの傾向だ。ではカルロスは? 魔道具が好きなのは知っているけど、世界の仕組みとどう繋がる? 新しい物好き? それだとグランよりフランクに近い性格なのかもしれない。いや、行動力という面ではグランだ。二人を混ぜたような性格だとこれほど厄介な性格はない。


 今まではラロックと王都という距離がカルロスとの関りを少なくしてくれていたから、実感していなかったが、もしユートピアの大使になったら付き纏われる可能性が大だ。これは拙いことに成りそうだ……。


「カルロス殿、大使に成ると言われていますが、まだ建国もしていないし、国として本格的に機能するまでにはまだ時間が掛かりますよ」


 これは暗に今すぐ大使に成ることは不可能だと伝えている。だから直ぐに宰相の職を辞しても意味がないと言っているのだ。それぐらいなら、今知った知識をどう扱うのか? どう人々に知らせるのか? それを考え実行して欲しい。


「ん~~、確かに今すぐは無理か……。でも! ユートピアに大使館が置かれるように成ったら、わしが必ず来る。それだけはここで宣言しておく」


 いや~~、そういうのは国王に言ってよ。ここで宣言しても意味がないよ。まさか俺を利用しようとしていない? 俺が了承してるとか言って……。


「まぁそういう話は国に戻ってから考えて下さい。取りあえずは、この世界の仕組みについては理解出来たようですから、ユートピアに戻りますよ」


「ユウマ、折角ここまで来たんだ。従者のこいつらのレベルを上げてやりたいんだけど駄目か?」


 またフランクが余計なことを言い出したよ。気持ちは分かるけど、今じゃないでしょ。ここには今カルロスとビクターがいるんだよ。確かにこれから人類はレベル上げをしていかなければいけないのは確かで、そのやり方の一つとして、パワーレベリングは最適だから、ヒントを与えるには丁度良いのは理解出来る。


 俺も以前考えたが、冒険者による一般人のレベル上げツアーをしたら良いと思った事がある。パワーレベリングを商売にするという事だ。そうすれば危険も少なくレベル上げが出来て、いろんな面で好循環をもたらす。


 例えば木工職人でもレベルが上がると、作業の効率が良くなって、物が早く作れるように成る。そうなると大量生産まではいかなくても沢山物が世の中に出回るように成るから、物価が下がる可能性がある。もしくはもっと高度な加工が出来るように成って、芸術性が上がるかもしれない。


「気持ちは分かりますが……、」


「何だねそのレベルを上げてやるとは?」


「カルロス様それは特殊なレベルの上げ方があるんですよ。その方法でこいつらのレベルを上げるんです」


「特殊な方法? そんな物があるのかね?」


「簡単に言えば、冒険科の生徒が冒険者の援護でレベルを上げているのをもっと極端にした方法です」


 ここまでフランクが暴露してしまっては、もう隠しようはないな。それならいっその事方法を教える方が良いだろう。


「フランクさん、それなら今回はフランクさんがやって見せて下さい。ここの魔物程度ならフランクさんとロイスさんで何とかなるでしょ。数は集めませんから」


「それなら良いんだな」


 流石にフランクも俺のビーム系の魔法や魔銃は駄目だと理解しているようだ。だからそれならという言い方をしたようだ。


 俺が許可を出したから、フランク達は飛行船から降り、魔物を倒す体制に入った。そこからは何時ものように、従者に飛行船から石を魔物に投げさせて、当たったの確認したら、フランクとロイスで倒すを3度ほど繰り返した。


 するといつものように急激にレベルが上がった従者達が倒れたので、それを見ていたカルロス達が騒ぎ出した。


「この二人が倒れたのはどうしてだね?」


「それはレベルが急激に幾つも上がったからです。レベルの高い魔物を倒しているので、一度に入る経験値も多いから、元が低レベルの人は一気にレベルが上がるんです。それに体の方が追い付かないので倒れるんです」


「それは石をぶつけたことで経験値がもらえるという事かね」


 あぁこの人達はそういう事も知らないんだ。自分一人で倒すことが多いのか、多くの人と倒すから実感がないのだろう。まして低レベルの魔物からの経験値は少ないからね。


「そうです。でもこんな事が起きるのはここだからですよ。魔物のレベルが高いから起きる事です」


「たった三匹の魔物を倒しただけで……」


「それで彼らの今のレベルは?」


「彼らの元のレベルは2、そこから上がって今は4です」


「2から4……、三匹で……」


 低レベル程レベルは上がりやすい。それでも2から4にあげるには魔境の入り口付近の魔物でもかなりの数を倒さないとそこまで上がらない。冒険者のベテランクラスで10~15ぐらいなんだから、普通の森やダンジョンの浅い所で入る経験値は少ないという事だ。


 カルロスは現在レベル3、ビクターはレベル4、ビクターのレベル4は年齢からすると結構優秀な方だ。それを一瞬で追いつかれたり、抜かれているのだから、驚いて当然。


「フランクさ~~ん、ふたりが倒れたから、一度戻りましょう」


 飛行船から下にいるフランク達に一度戻るように声を掛けたら、


「いや待ってくれ! わしらもやらせて欲しい。頼むユウマ殿!」


 やっぱりこうなるか……。ならない方がおかしいよね。こうなったらもう止めようがない。


「フランクさ~~ん、やっぱりそのまま続行してください」


 その後、結局カルロス達も倒れたので、レベル上げは終了。フランク達も飛行船に戻って来た。


「フランクさん、これ以上此処にいると、何時までも帰れそうにないので、今回はこれで終わらせてください。もうこの辺りならフランクさん達だけでも来れますから、また別の機会に連れてきてあげて下さい。何なら魔境の俺の家を使っても良いですから」


「お前の家! それってこいつらにあのオークとオーガの集落を壊滅させるようなことをやらせろと言っているのか?」


「いやいや、そこまでは言っていませんよ。家の近辺ならもう少しゆっくりとしたレベル上げも出来ますし、色んな知識を勉強することも出来るし、実践も出来るでしょ」


 魔境の俺の家なら、宿泊できる場所もあるし、何でも作れるほどの施設もある。拠点より揃っているぐらいだからね。だって飛行船が作れるんだから……。


 俺の説得で何とか、カルロス達が復活する前に、此処を離れることをフランクが承諾してくれたので、急いでユートピアに帰る進路を取ってその場を離れた。言うまでもなく、復活したカルロス達からは文句というか嫌味は言われたけどね。


「こういうレベルの上げ方もあるんだな。凄い方法だ」


「これはあくまでレベルを上げるだけです。レベルが上がったから強くなるという物ではありません。魔物を倒すにはやはり訓練は必要ですよ」


「戦いを生業なりわいにしていない者にとっては、安全で効率の良いレベル上げという事だね」


「それだけでは無いですよ。子供なら、体力も付くので病気になり難い。新人冒険者なら死亡率が下がる。行商に出るような人ならその人達の死亡率も下がります」


 普通に考えたらこの方法は誰にでも効果があるように思うでしょ。ですが唯一効果が半減する人がいるんです。それは称号に犯罪歴が付いた人なんです。そういう人はレベル上昇が遅くなるように経験値半減とか三分の一という効果が付く。その差は犯罪の重さで変わるようです。俺の創造神の加護の経験値100倍の反対のような効果ですね。


 犯罪者の称号は一生消えない訳ではないんです。罪を償って、何年か真面目に暮らせば消えます。ですから称号というのは神からの褒賞であったり、罰でもあるのです。


 褒賞の称号は滅多にありませんけどね……。






























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