第325話 この世界は……

「凄く変わった国を作るようだな」


「そうですね、いざ作るとなったら色々なアイデアが出てくるので、それを纏めるのが大変です。でも一つだけは考えの基本にしています。民の為の国、これが基本です」


 かっこいい事言っているようだけど、ただのパクリ。

 【人民の、人民による、人民のための政府は不滅である。】エイブラハム・リンカーン


 この言葉って色んな訳し方があって、人に寄って違うんだよね。日本だと、人民の人民による人民のための政治と訳してるのが多いけど、本来は聖書の一文から来ている言葉なので、人民の人民による人民のための統治が正解だと言われている。


 そして元日本人としては日本国憲法に影響を与えたこの言葉を基本にしたい。ちなみに日本国憲法の国政は国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。という部分に影響を与えている。


 俺はリンカーンが凄く好きで色々調べたことがあったからこの言葉だけは良く知ってる。ただリンカーンは50代で撃たれて死んでるから、そうならないようにしないといけないけどね。


「民の為の国か……。そうであるべきだとわしもそう思うが、宰相などという役職にいると、そういう所が疎かになる時がある。貴族というのは本当に厄介だからな」


「その点この国には貴族がいませんから、そういう所はあまりないと思いますよ。それに議員は選挙で選ばれますから、民を蔑ろにするれば次は落選ですから」


 そうだ、任期も決めていないし、リコールできる制度も作らないとな……。いや~~ほんと、法律や制度を考えると次から次と色々出てくるな。まぁ前世の六法全書の厚みを考えればそうなって当たり前か。


「国作りも変わっているが、この城も変わった作りのようだな」


「まだ途中ですが、分かりますか」


「そりゃ分かるだろう。物見櫓の様な塔が既に4本以上あるんだぞ。俺はこんな城見たことも聞いたことも無いぞ」


「それに木造でも無いからな……」


 何、その羨ましそうな目は? 王宮もビクターの屋敷も木造だからそういう気持ちになっても仕方が無いとは思うけど、止めて欲しいな。俺は土魔法で作っているけど、頑張ればレンガでも作れるんだから作れば良いんだよ。滅茶苦茶時間は掛かるだろうけどね……。


「わしも引退したらラロックに住むから屋敷を建てて貰えないかなユウマ殿」


「カルロス様! それはズルいですぞ! それならゾイドの私の屋敷が先です」


 何を勝手な事言っているんだこの二人は? 俺は作ると一言も言っていないし、自分達で作れと思っている位なのに……。それにビクターはまだ分かるが、カルロスは自分の屋敷の前に王宮でしょうが。


「お二人とも俺は一応国王に成るんですよ。その国王に屋敷を建ててくれなんて普通頼みます?」


「それはそうなんだが……。ラロックのグラン商会の拠点での暮らしが快適だったから……ついな」


 ついじゃないでしょうが。確かにラロックにある施設は全部俺が建てたし、ここユートピアの学校や病院も俺が建てたから、言いたい気持ちは分かるが、それでも一国の宰相と辺境伯が言う事じゃないと思う。


 まぁ一番はお義父さんの屋敷が羨ましいんだろうけどね……。


「レンガ職人も左官スキル持ちも増えていますし、土魔法士も道路建設で習熟度が上がっていますから、俺よりは時間は掛かるでしょうがもう建てられる筈ですよ。それにその位の予算はあるでしょう? 相当輸出で儲けている筈ですから」


「それを言われると確かにそうなんだが、この城を見てしまうとな……」


 あぁそういう事ね。デザインがこの世界の職人や魔法士だと良い物に成らないという事だ。でもそれって自分で考えれば良い事でしょ。他人に全部任せるからそうなるだけで、自分でデザインして職人に設計させれば良い事。


 この世界の人の考え方も大分変って来たけど、まだまだこういう所が駄目だな。デザインの部分だけ自分でやるという発想に成らないんだよね。職人間の協力は少しづつだが進んでいるけど、そこに魔法士も加えるという発想にもまだなっていない。


「それならご自分でどんな屋敷を建てたいか考えたら良いんじゃないですか?」


「わしらがかね?」


「そうです。ご自分で描くのが嫌ならお抱えの絵師に描かせても良いじゃないですか」


 これで何とか俺が作るという事は回避できるだろう。これ以上言ってきたら今後一切ユートピアには入らせない。出禁だ!


「もうそろそろ城の話はいいですね。それで島はどうでした?」


「おうそうだった! ユウマ殿に頼みがあるのだ。ダンジョンが成長するまでの間、ダンジョンに我が国から人を派遣させてくれんか?」


「許可するかどうかは、何が目的かによりますね」


 ダンジョンが成長するまでと言っている段階で目的はマジックバッグだと分かるけど、一応訳を聞いてみた。


「それは、マジックバッグだ。今なら数を確保出来そうだからな」


「数は確保できても今のバッグは容量も多くないし、時間経過も少しはありますよ」


 今の状態を見ているとダンジョンが成長してもっと深く成れば、マジックバッグの性能も良くなりそうだと思う。もしくは今の性能の物か少し下がった物が今の階層で出続ける可能性もあるが、魔物は全体的に強くなるかも知れない? ただダンジョンは生き物だから人の思うようには成長してくれないという事を忘れてはいけない。


 それに今の性能のマジックバックなら十分魔法付与で作ることが出来る。俺とサラしか知らないけどね。


「それでも良いのだ。マジックバッグは本当に貴重品だから、どんなものでも手に入れられる時に最大限確保したい」


 ん~~、これじゃ神の思惑から外れる訳だ。神は自分達で作って欲しいという思いで、ダンジョンという場所で試練と共に渡しているのに、これでは作る事は永遠にないな。


「マジックバッグがそれ程欲しいなら、こちらで用意しますよ。だからその為の受け入れは出来ません」


「なぜだ?」


「ダンジョンはそういう目的で存在していないからです。ダンジョンは神からの啓示であり試練ですから」


「啓示? 試練?」


「ダンジョンはこういう物が作れるよ。これを研究しなさいという啓示です。それを作るためにはレベルを上げないと作れないからレベルを上げなさいと言う試練です」


 この世界がレベルやスキル制であるという事は、本来全人類がこれをあげる世界であるという事。一部の者だけが上げる世界では世界が歪に成る。極端な言い方をすれば冒険者のような職業が生まれたことで、世界が歪に成ったとも言える。


 もう一つそれを証明しているのが、この世界に動物がいない事。動物がいないという事は何を倒してもレベルやスキルに影響するという事になるからだ。


 更に最近分かった魔力スポットの弱体化、これも人類の成長を促すための物だった可能性がある。魔境が減ったおかげで、魔物が弱体化して人類が魔物を倒しやすくしてレベルを上げやすくしている。


「そうは言うが、今更そんな事出来ないだろう」


「そんな事はありませんよ。実際賢者は出来ているじゃないですか。彼らは一人も冒険者じゃありませんでしたよ」


「そうですよカルロス様、学校を思い出してください。学校の生徒は何をしていましたか? スライムでレベル上げをしていましたよね。普通科や魔法科の生徒は冒険者のように魔物を倒していましたよ」


 フランクの言うように学校はこの世界の縮図のような物。レベルやスキルを上げる事で出来る事が増える。


「確かにそうだな……」


「時間は掛かると思いますが、今考え方を変えないと何時までも今と変わりませんよ。それに魔境がもし今より広がったら人類は滅びますよ」


 物凄く極端なことを言っているように聞こえるかも知れないが、無いとは言い切れない。


「人類が亡ぶ? それは流石にないだろう」


「お二人とも魔力スポットの事は聞きましたよね。今弱まっているスポットが復活したらどうなります?」


「魔境が広がる……」


「ダンジョンに挑む人が減ったらどうなると思います? ダンジョンは魔力を使わなくなりますから、その周りの魔力を消費しなくなるか、消費して魔物を増やし過ぎてダンジョンから放出、スタンピードを起こします。全て人類が成長する為の物なんですよ」


 今までの考え方は全て神の恩恵という考え方だけど、答えは真逆、試練なんだと認識を変えないと、人類が亡ぶか、成長は無いという事。


 今この世界が成長してるのは俺という異物があるから……。
















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