第324話 建国宣言はまだ先

「エスペランスが自由ならグーテルはどんな意味なんですか?」


「グーテルは確か信愛だったかな」


 ん~~~、益々分からんぞ。別の言語が本当にあったのか? 


「それじゃ他の国もそれぞれ意味があるんですね」


「いや、無い国もあるよ。確か響きが良いからと皇帝が付けた名前がザリウス、共和国は建国の地マールが名前だったかな。今の都とは違う場所だけどね」


 これって別の言語が存在したことの肯定にも否定にもなっていないな。単なる造語? 俺の場合は前世の言語を使っているから、造語でも言語由来だけど、エスペランスやグーテルは別の言語が無ければ、俺が皆に嘘を付いたようなイメージした言葉という事になる。


 こういう事は長寿の種族エルフに口伝として残っていないかな? あ! エルフに言語があったら、エルフ語という事はないかな? ん~~、それだと他の種族の言語という事あり得るか? 長寿だからエルフ語というのは無理があるな。ただ記録が残りやすいという点だけはエルフが一番だから、調べてみる価値はある。


 言語学……、こんなものにまで手を出したら俺は本当に大賢者だね。他種族の移住が決まっているから、ユートピアに来たら一緒に研究してみよう。


「話は変わりますが、異種族の移住はどうなりました?」


「あぁ~~~、それね。本当に揉めに揉めたけど何とか合意したよ」


「それじゃ、大半はエスペランスで引き受けるけど、一部はこのユートピアで良いんですね」


「そうなんだけど、ユートピアに来たいと言う人達が意外に多くてね。受け入れは可能かい。その事にも関係しているんだ今回の視察は……」


 100人や200人そこらならどうにでもなるけど、それ以上だと今の現状では無理だな。そもそも異種族は全部でどのくらいいるんだろう?


「移住してくる異種族は全部で、どのくらいいるんですか?」


「確か異種族の代表に貰った資料だと、エルフが約10万人、獣人が約7万人、ドワーフが約8万人の全部で約25万人だよ。あくまで海外に出ている人を除いてね」


 各国に集落を築いている人達だけで、25万人……。


 エスペランスは人口が100万人以上でもあれだけ土地が余っているから、25万人全部引き受けてもまだ余裕はあるけど、ユートピアで5万人とか言われたら無理だ。いったいどれくらいの人が来たいと言ってるんだろう?


「それで、ユートピアに来たいと言っている人は何人ですか?」


「実は……、半分なんだよ」


「は! 半分! いやいや、それはいくら何でも無理があるでしょう」


「わしらもそれは無理だろうと初めから思っていたけど、どのくらいまでなら可能かを今回の視察で調べるつもりだったが、1万人どころか、1000人でも厳しいと分かったよ」


 それにしても、どうして半分もここに来たいと言っているんだろう? 学校や病院はラロックの方が充実しているし、拠点もあるからエスペランスの方が発展している。まぁ確かに学校の改変は行われるから、色々とこれから変わることは確かだけどね。


「それが分かって貰えたなら良いのですが、だいたいここに来たい理由は何なんですか? ここは今から建国する国ですよ」


「それはユウマ殿がいるからだね。彼らだって独自の情報は持っているから、貴殿の事は調べ上げているよ」


 そう言われてもな……、困ったな……、確かにミル村の方なら人はある程度住めるが、それをやってしまうとミル村の畜産、養鶏事業が出来なくなるし、そんなに人を入れたら食料も足りなくなる。


「話は戻るが、エスペランスが全ての人を引き受けることは可能だが、それには準備も必要だから、元々の移住計画を段階的にすることは出来ないかという提案をしたんだけど、そこで揉めたんだよ。出て行くなら一度に行けと言う国が多くてね。仕方がないから、断念して引き受け体制作りをグーテルにも協力して貰ってやって入る」


「だから、今、我が領ゾイドでも急いで受け入れ態勢を整えているんだよ」


「分かりました。でも1年待ってください。それまでに来たい人全員引き受けられるようにします。ですからそれまでは先行して200人だけ引き受けます」


 かなり思い切った返事をしてしまったが、全く当てがないならこんな事は言わない。一つは最悪、エスペランスの魔境を開拓すれば良いと思ったからだ。俺の家の近辺を開拓すればそれなりに住める場所は作れる。魔境なら作物も良く育つから、食料の心配もないしね。とんでもなく飛び地の国土には成るけど……。


 他にも別大陸や島の発見があればそこに移住させることも出来る。人口が増えることは国に取っては良い事なんだから、土地がないなら増やせばいい。俺にはそれが出来る手段も力もあるからね。


「そんな事が出来るのかね? どう見てもそんな土地は無いようだが」


「色々考えはありますが、最悪魔境にある俺の家の付近を開拓すればどうにかなります」


「ユウマ殿がそういうのなら出来るんだろう。それなら、わしらはそれを彼らに伝えれば良いだけだ」


 建国前にこの事は聞いておいて良かったな。カルロス達も俺に言い難かったのかな? あまりに数字が大き過ぎて……。


「それでユウマ、城を作るのは分かったけど、肝心な国作りは進んでいるのか?」


「えぇ、今ロベルト達に戸籍を作らせています。それが済んだら役人の試験や議員の選挙をします」


「戸籍? 試験? 議員? 選挙? 何だか政治の世界では聞きなれない言葉ばかりだね」


 確かに政治の世界で使われるのは議員と選挙ぐらいだけど、それを使っているのはマール共和国だけだからね。試験もあるにはあるが、殆どの国で役人は世襲の所が多く、一部試験で採用している部署がある程度。


「戸籍ってなんだ?」


「戸籍というのは家族単位で名前や年齢、スキルや住所を記録することです」


「住所?」


 この世界に住所という概念はあるが、それは単なる住んでいる場所=町や村、貴族や商人なら名前や商店の名前で住んでいる場所が細かく特定できるけど、それ以外は町や村単位でしか分からない。


「口で説明するのは難しいので、これを見てください」


「な! 何だこの精巧な地図は!」


「この地図に振られている番号がこの町の住所です」


「こ! これは凄い! これなら手紙が町の名前と番号を書けば確実にそれぞれの家に届く。今までなら庶民は店の店主や各ギルドに代行してもらうしか手紙を届けてもらえなかったからな」


 この事は本当は言いたくなかったけど、いずれバレる事だから言ったが、これが何を招くかは想像は出来ている。地図を作ってくれだ! だが、この地図は俺がその場所に行かないと作れない。それを言う事が出来ない状態で、この人達を納得させられるか……?


「何です? その目は? 作りませんよ。時間を掛ければ自分達で作れるものですから、頑張って作って下さい。これは単に手紙とかが便利になるだけじゃないんですよ。ここのように住宅より農地が多い所なんかだと、その土地が誰のものかも分かるし、税金も徴収しやすくなります」


「税金と言ったか、税金は……」


 気付いたようだね。エスペランスでは人頭税で徴収し人口で貴族に配分される。でもこの戸籍だと住んでいない人の税金は徴収しない。だって冒険者や行商人は各地を転々とするから、そこで税金を納めているから二重取りに成る。一番苦労するのはそこに残って住んでいる人だ。


 これが絶対に悪いとは言わないけど、人の動きを阻害することは確か。冒険者でさえ地元を離れられない傾向にある。国を跨いで冒険者活動をする人なんて稀だし、仕送りをしたら、税金の二重取りに成ってしまう。まぁ離れても離れなくても二重取りはしているんだけどね。ただ人が動くという事は経済も動くから、国は栄えるよね。


「税金の二重取りはしないという事です。まして農家なら土地に対する税金が多くて、人頭税は少なくします。勿論収穫量によっても調整はします」


 前世で言うと市民税は安くするけど、その他の所得、売り上げ、収穫量に寄って税金を変えるという事です。まぁ俗にいう累進課税ですね。物を高く売って儲けてもその分税金で持って行かれるという事。


 まぁこれでも不正をやるやつはいると思いますが、徐々に仕組みを作って、税金逃れはさせないようにするつもりです。当然複式簿記の導入は欠かせませんが……。


「それには住民が読み書き計算が出来るように成らないと無理だろう」


「勿論そうです。ですから最低でも5年は少ない人頭税だけ徴収するつもりです。国の予算は他で確保できますから」


 金鉱山があるからな……。
















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