第323話 王都エデン

 村の視察も終えて、仮住まいの自宅に戻って来たが、物凄く疲れて戻ったので、サラが心配して声をかけてきた。


「あなた、酷く疲れているようですが何かあったのですか?」


「――実は村の視察のついでに賢者たちが何をしているのか見て回ったんだけど、皆が皆とんでもないことをしているし、俺を見つけたとたんやってる事で困っていることを質問してくるから、それに答えていたら数が多過ぎて疲れたんだよ」


 俺だって普通の質問ぐらいならここまで疲れない。質問の内容と数が物凄かったから、今の状態なんだ。


 まぁこれも自業自得なんだけどね。俺が賢者たちにこれまで俺が研究して分かった事や今まで秘匿していた成果を全て暴露したから、彼らの研究内容が飛躍的に高度に成ったからなんだ。


 魔石の属性、魔石の属性変化、魔石の合成、真珠の色の関係、ミスリル銅線、スライム銅線、ミスリルの人工製造、魔力と寿命の関係、魔物との感覚共有などを教えた結果、島でふらふらに成るまで研究していたのを更に進めているから質問内容が高度に成っている。


 俺でもやっていないことをやり始めているから、答えようがなく、一緒に実践したものもある。例えば魔石の属性と魔石の合成からヒントを得て、火属性の魔石と水属性の魔石を合成したらお湯が出せるかなんて言う研究。今までなら魔方陣を使ってドライヤーのように風と火の魔法を調整して使っていたのを、直接魔石の合成で出来ないかという研究のようなもの……。


 ただ結果は良い物ではない。魔方陣を使った方が効率が良いのです。直接魔石の合成をすると確かにお湯は出せるのですが、魔石の魔力を直に消費するので、直ぐに魔力が切れてしまう。でも魔法陣なら、魔法を発動させるエネルギーとしての役割なので、消費が遅く長時間使える。


 他にも真珠を粉にしたらなんていう研究もしていた。魔石を粉にして使うというのは俺もやったが、流石に真珠はもったいなくてやっていなかった。


「成る程、お疲れ様です。皆さん色々とやっているんですね。私も頑張らないと」


 あぁ~~、疲れていたせいもあるだろうが、何時ものようにブツブツ言ってしまったようだ。


「サラは駄目だよ! 今はそんな事より、体が最優先だから」


「あなたは気にし過ぎですよ。農家の奥さんなんて家事をこなしながら、普通に臨月まで畑や田んぼ仕事しているんですから」


「そうは言ってもやっぱり心配なんだよ」


 前世を含めて俺に妊婦の知識は無いから、この間シャーロットに怒られて以来、俺は敏感に成っている。妊婦に適度の運動は必要という事ぐらいは知っているけど、適度の度合いがどのくらいかなんて知らないから、殆どやらせないようになってしまう。


「あんまり心配ばかりするようなら、出産まで別に住みますか?」


「いやいや、流石にそれは勘弁してよ」


 人というのは我儘なもので、ずっと一人で暮らしているとそれに違和感も覚えないし、寂しくもないんだけど、一度誰かと住んでしまうと隣に誰かいないと凄く孤独感を感じてしまって寂しい。


「傍にいるから気に成るんです。毎日出掛けるようにすれば気に成りませんよ。何かを作って、それに集中するのも良いんじゃないですか? 地図を作った時みたいに」


 作るね~~、今、そんなものあったかな? 魔刀? でもあれはフランクが戻らないとミスリルが足りない。新婚なんだから新しい魔道具? でもここに家はない……!


 そうだ! 家がないなら作れば良い! どうせ作らないといけないものだ。だってここを王都にするんだから。


「サラ! 良い事を言ってくれました。そうです! 作れば良いんですよ!」


「急にどうしたんです。いったい何を作るんですか?」


「それは出来てからのお楽しみという事で秘密です。その方が面白いでしょ」


 サラにそう宣言した翌日から、皆には内緒で俺はある物を作り始めた。


 どんな物にしようかな? あれにしようか? それとも意表をついてあれも良いな……。ん~~~、やっぱりこの世界に合った物の方が良いよね。奇抜過ぎると顰蹙ひんしゅくを買いかねない。



 それから数日、カルロス達が帰って来た。飛行船を降りて、王都エデンに向かう為、山を下っていたら、見慣れない巨大な建物らしきものが彼らの前に姿を現した。


「あ! あれは何だ! まだ途中みたいだが何かを作っているようだ」


「島に行く前には無かった物ですから、そういう事をやるのはユウマしかいないけど、今度はいったい何を作ろうとしているんだ?」


 俺が作っているのは西洋のお城、此処が王都に成るし、俺達が住むための家が無いから、王が住むにふさわしい物を作っているのです。この世界の王宮は木造だからお城と言えるような物じゃないから、彼らには今の状態では理解できないだろう。


 どうせ作るんだからと前世で一度だけ一人寂しく行った、ディズニーランドのシンデレラ城を記憶にある限り思い出して再現するつもりだ。四隅に塔があるような簡素な造りではなく、四隅は勿論、城本体にも塔がいくつもあるような城です。


「あそこに居るのはユウマさんです。やはりこれはユウマさんが作っているんですね」


「ユウマ殿はいつもこんな感じなんだろうね。今までも突然こんなもの作りましたということが多かったから」


「そうですね。そのお陰で私も苦労しました。あぁ勿論最終的に迷惑したのはカルロス様やビクター様ですが」


 カルロス達が戻って来て俺が城を作っているところを見ているなんて知らないから、思いっきり魔法を使って、城の外観を作っていたら……。


「お~~い! ユウマ~~、今度は何を作っているんだ~~」


 この声は? フランク? 帰って来たのか。フランクが帰って来たとなれば、カルロス達も一緒だから、また説明が面倒だな。どうせ近いうちにお披露目するからいいけど、サラや他の人には内緒にするように頼まないといけないな。


「お帰り、島はどうでした?」


「島の話で誤魔化すな! これはいったいなんだ?」


 まぁこんな事で話をはぐらかせるとは思っていないけど、一応抵抗はしないとね。


「これですか、何だと思います?」


「だ・か・ら、誤魔化すな! 分からないから聞いているのを分かっていてやってるだろうお前」


 これ以上やったらフランクが本気で怒りそうだから、この辺で止めておくか。


「これですか、これは俺の城です。いや、俺達の城かな? ユートピアの王都エデンの城です」


「王都エデン? 城……」


「ユウマ殿、それはこの村が王都エデンという事ですか? 領都だったエジンじゃなく?」


 まぁ普通驚くよね。王都と言えば普通一番栄えているところだからね。でもこの人達は気づいていないが、ダンジョンがあるところに王都を作っているのは自分達なんだよ。だからダンジョンに直ぐ行ける場所であるここが王都に相応しい。まして此処はミル村からも近いからね。


「そうです。この村をエデンと名付けて、王都にしました。ついでに言うと島も国の持ち物という事にして、パラダイスと名付けました」


 この村をエデンと名付けた時に、実は他の村の名前も考えようとして、ファースト、セカンド、サードにしようかと思ったんだけど、これでは第一村と変わらないと思って考え直して今は検討中。決してバカにしてるつもりはないんだけど、名付けって意外と難しいのよ。だからこの世界に無い言葉だから、ファーストでも良いかなと……。


「エデンにパラダイスどういう意味だ?」


 やっぱりフランクは聞いてくるか、どうしよう? 例の別大陸の出身を使うか? いやそれは止めておいた方が良いよな。もし別大陸に人が住んでいなかったら俺が嘘をついたことに成るからな。


「俺が作った言葉です。ユートピアもそうですよ。ユートピアは理想郷、エデンは理想郷の園、パラダイスは楽園という意味です」


「作った……?」


「そういうイメージに合う言葉を考えたんです」


 これで納得してくれ。これ以上は説明が難しい。一応ひとつ考えている答えはあるが、それで納得するかどうか分からないから、最終手段に取って置いてある。


「まぁお前が決めたんなら良いんじゃないか。確かエスペランスも自由という意味で付けたはずですよねカルロス様」


 へぇ~~そうなんだ。それは知らなかった。 ん? それってもしかしてこの世界には大昔他の言語があったという事か? でもそれじゃ何故、この大陸の言語は今同じなんだ?


 この人達はこの事を疑問に思わないのか……?




 




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