第168話 変革
王都で留学生の割り振りが決まったことの連絡がきた。
人数的には定員を超えなかったので、こちらとしては問題はないが、案の定神聖国は病院に留学生は送ってこなかった。
一番こちらが気にしていた、異種族の留学生の希望学科だが、エルフは全員錬金術科を希望した。その理由はエルフの集落に錬金術師がいないからです。
今までの弟子制度の時にエルフなどの異種族を受け入れる人がいなかったのと、ポーションだけなら購入すれば良かったから、弟子に入って錬金術師に成ろうと言う人がいなかった。
しかし、現状錬金術師は作るものが増え、文明の進歩にエルフの集落だけが遅れていくことになって来てしまった。昔ながらの生活でも問題はないが、町に出ているエルフからの報告によって魔道具や化粧品が評判になれば自ずとこの結果になる。
ましてエルフは種族特性的に長寿命だし、魔力が多いのでこの職業には向いている。
出来れば、薬師から医師に成ってくれる人がいれば良いのだが、今回の留学生には希望者がいなかった。エルフには独自の薬の知識もあるというので、いつかは集落を訪れ勉強したい。
ドワーフは全く逆で示し合わせたかのように、普通科を除いた全ての学科に一人は留学させてきた。物作りが好きで種族特性的に向いているとはいえ、これはどう考えてもこの先を考えての行動でしょう。
残る獣人はなんと全員が普通科という思いもよらない科を希望してきたのには驚いた。理由を聞けばなるほどと思う理由だ、獣人のイメージ通り脳筋が故の知識の向上が目的だった。
今回の留学生はこのような割り振りになったが、多分来年はかなり変わるだろう。学校に入れば他の科の生徒とも交流があるから、情報がもっと広まることで、希望学科に変化が起きるのは間違いない。
それと共に、俺はひとつの懸念を抱いている。現状異種族は各国に分散して生活しているが、近いうちにまとまって国を作るか自治区を作るだろうと予測している。
特に人族至上主義の神聖国と帝国から異種族がいなくなるのではと思う。差別程度だから現状は移動するまでの不満はないだろうが、この2か国だけ異種族が文明から遅れ、尚且つ医療分野でも差別が酷くなれば、他国に行った方が種族が生き残れると思うように成り、移住する人が出てくるでしょう。
現状は横のつながりがあまりないから、何とか維持できているがエスペランス王国という共通の情報源が出来ることで、異種族間の連絡が活発になり、団結する可能性がある。その兆候がすでにドワーフには見えている。
荷物や人の移動が活発になれば、当然情報も広がる。今回の留学に異種族が入ったのはこの国の異種族の要望でもあったからです。
本来はこの国の異種族だけを入学させるつもりだったのですが、どこからかその情報が他国の異種族にも伝わり、最終的に全国から留学をさせることになった。
恐らくは神聖国と帝国の異種族が移住するまでには時間が掛かるだろうが、どこかで独立国や自治区が出来た噂が広まれば一気に加速するでしょう。
人族至上主義が存在するにもかかわらず、奴隷制度が無いというのは文明が進んでいなかったからというのもある。普通に考えれば文明が進んでいなければ、奴隷制度が当然のようにあるというのが前世の歴史だが、この世界では逆に存在しなかった。
それはひとえに魔法やスキルのある世界だったからです。種族特性という人種にはないものが存在したので、力による支配が難しかったから奴隷制度までには行かなかった。
人種は満遍なく魔法もスキルも使えますが、種族特性程有利では無かった。ドワーフはスキルを持っていなくても物作りが得意、エルフは魔力量が多いので魔法に長けていて、獣人は身体強化しなくても身体能力が人種より高い。
そこに旧弟子制度でスキルの発現が制限されていたり、この世界の特性で発明や改良が進まなかったから、力の差が大きくならず、奴隷制度が生まれなかった。
世界が変化するのに異種族が変わろうとしなければ、いつかは奴隷制度が出来ていたでしょう。
正直その可能性が神聖国や帝国では十分にあるので、早いうちに異種族の国か自治区が出来るように俺としては手助けしてやりたい。
「ユウマさんこれで来期の学校と病院の準備は出来ましたけど、魔道具の方はそろそろ出来上がりますか?」
「もう殆ど完成しています。今は最終テストの最中ですよ。これで問題なければ販売に移れますが、問題は特許の申請ですね」
国際特許が国際会議で決まったが、それぞれの国の法律が決まっていない。これが決まらないうちに特許申請はしたくない。
大きな問題は起きないだろうが、後だしじゃんけんのようになっても困るので、全ての国の法律が決まってから申請したい。
冷蔵庫と冷凍庫は物流に大きな革命をもたらす事だから、出来ればこの国が先行したいので、冷蔵庫と冷凍庫のついた特別仕様の馬車も秘密裏に製造して特許の申請と同時に運用を開始したいから、グラン商会の運輸部門の拡大と馬車ギルドとの連携を図りたい。
今回はジーンに活躍して貰おう。グラン商会の運輸部門は従業員に任せているが、馬車ギルドとの連携も関係してくるからグラン商会の店主であるジーンが動く必要がある。
国などとの交渉はグランが良いが、商売上の交渉はジーンにやって貰うようにしないとおかしくなる。あくまでグラン商会の店主はジーンなのだから……。
地下に作った工場もいつかは閉鎖して拠点での製造は一切なしにしなくてはいけない。
拠点メンバーにはこれから賢者候補の生徒になって貰いたい。学校の教師も出来るようになって来ているから、これからは大学の講師や助教のような立場になって研究を中心にやって貰うようにする。
職業訓練校を早急に各国に作ってそこでスキル発現は行うようにして、ラロックの学校は魔法大学に将来的にはしたいと思っている。
その為にはこの国の学校制度も近いうちに確立する必要がある。スキル発現や読み書き計算程度は各領で行ってもらって、この世界の魔法やスキルの研究をラロックの大学でするようにしたい。
勿論、病院も同じように研究所のようにするつもり。今は大学病院の機能が多いが病院としての機能は近いうちに王都に移したいと思う。国家試験も国が主導して王都で行うようにしてもらい、ここでは研究のみにする。
言ってみれば大学院のような感じかな?
それにしてもなんとか早く時間を作りたい。学校と病院の変革と特許申請が終わったら、絶対休暇を取ってやる。
でもな~~ やりたいこともそうだが、作りたいものが多いし、俺の今の欲望は底がないから休暇が休暇になるのか?
時間が出来たらサラとの結婚も考えないといけないだろうし、魔力量の研究もしないといけない。寿命に関係するから早いうちに確証を得て、もし確定ならサラの魔力量を増やすこともやらないといけない。
俺と違ってサラのレベルは簡単には上がらないから早いに越したことはない。
飛行船を完成させて、米も買いに行きたいしな~~ 米があれば今度は和食、味噌、醤油の製造販売。
わぁ~~~ 本当に俺大丈夫か? ポーションも魔法もあるから過労死はしないと思うけど、精神的に疲労が溜まりそう……。
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