第169話 輸送テスト

 学校が始まるまでまだ少し時間があり、冷蔵庫と冷凍庫の最終テストも終わったので、物流に実際使えるかのテストに入る。


 馬車自体は上物だけを作るだけだから、直ぐに完成した。そこで運用テストとして隣国のビーツ王国に冷凍馬車と冷蔵馬車で買い付けに行ってもらう事にした。


 先ずはビーツ王国の北部に行ってもらって、魚介類は冷凍馬車で、それ以外の果物や野菜などは冷蔵馬車で運んでもらう。


 勿論、こちらから行く時に空荷はもったいないので、魔石を使わず、普通の馬車として石鹸、シャンプー、リンス、化粧品と改良ポーションを運んで売ってくる。


 これらを選ぶ理由はこの国の攻略と同じ方法を取るためです。化粧品類は女性の心をつかむのに一番効果がありますし、改良ポーションは現状の弟子制度や教会の力を削ぐのに必要だからです。


 他にも化粧品やポーションはガラスの容器に入っていますから、これも広められる。


 今は国の上層部だけがエスペランス王国の事を良く知っていますが、庶民は噂程度ですから、それを現実に知らせるという意味があります。


 如何に自国が遅れているのか? それを知ることで庶民の意識が変わり始める。


 当分はエスペランス王国からの輸入に頼るしかないでしょうが、留学生が戻り自国で活動し始めれば少しづつですが自国でも生産されるようになるでしょう。


 エスペランス王国としても海に面しているビーツ王国とは、これからも友好国であり続けたいですから、先ずはこの国を変える必要がある。


 これは国が考えてる事では無いですけど、大きくはずれていないと思います。あくまで俺が海の幸が食べたいから断絶などして欲しくないというのが本音ですけど……。


 それに米の生産地で鶏の生息地でもありますから、今は優遇してご機嫌を取っておきたいのです。


 このテストには俺がついて行きたかったのですが、それはフランク達に止められました。もう直ぐ学校も始まりますし、商売の話ですからこれからも関係が続くグラン商会の代表であるジーンが行くことになりました。


「ジーンさん、魚介類は取りあえず今回は数ではなく種類を多く運んできてください。現地の人が食べないという物もです」


「食べない物? 食べない物はいらんでしょう?」


「どう言ったら良いか分かりませんが、見た目の問題で食べないとかそういった物です。一応出発までには参考になりそうな物をリストとして渡しますから似たものがあったら必ず持ち帰ってください」


 この世界の海の幸にどんなものがあるのか分からないが、今までの考察から前世の世界と似ている物もあるので、前世基準でリストにすれば少しは当たりも引くでしょう。


 タコとかイカ、カニ、エビ、ナマコ、アナゴ、ウニ、海藻などは食べられていない可能性が大いにある。


 前世でもタコやイカは忌み嫌われていましたからね、欧州などでは……。


 前世の漫画などでもカニを海のクモとして食べないとかもありましたから、この世界でもないとは限らない。


 米や鶏の魔物の事も本来はお願いしたいが、これは俺が直接行って調達することにしている。鶏の魔物を捕獲するにはスリープの魔法が必要だし、米はこの国で生産したいですから、今はビーツ王国には知られたくない。


 普通に米が流通してるならこの国に少しは入って来ていたでしょうが、それがないという事はビーツ王国でも食べられていない可能性が大いにある。


 魚介類は海が無い国ですから知られてもエスペランス王国ではどうしようもないですが、この国でも生産や生育が出来るものをわざわざ教えてやって貿易の取引に使われるのは愚の骨頂です。


 ビーツ王国の北部まで改良馬車で往復2週間、今回は海岸沿いまで行ってもらうので、これぐらい日数が掛かりますが、冷凍馬車や冷蔵馬車が本格的に運用されるように成れば、両国の国境付近に物流拠点を作ってそこで荷物を交換するように成れば

 期間は大幅に短縮できる。


 今回のテスト運用が上手く行ったら、またグランの出番だな。国と交渉して拠点を作って貰わないといけないから……。


 その時には関税の話もしてもらわないといけないな。拠点での取引に関しては関税を安くしてもらう様にして、取引を活発にして薄利多売で両国が儲けるようにしてもらいたい。


 楽市楽座国境バージョンです。初めは小さな拠点からスタートしても将来的には一つの町のようになるでしょう。どちらの国の商売人も必ず拠点に店舗を設けてそこで貿易をするようになる。


 今までは自国内だけの商売が主だったのが隣国と商売が出来るようになる。日持ちするものなら、隣国どころかそのまた隣国との商売も可能になるから、目ざとい商売人は見逃さないでしょう。


 多分これによっても国際問題になる可能性がある。関税で儲けている共和国などからクレームが入るのと、フリージア王国が孤立する。


 そうなるとフリージア王国には援助が必要でしょう。恐らく共和国が締め付けをやって来るのが目に見えているから、エスペランス王国としてフリージア王国に技術移転や学校建設などの優遇措置をして発展の手助けをする。


 ちょっとやり過ぎのように見えるが、このエスペランス王国に逆らえば損をするよというように思わせるのが最終的な目標。


 どんな世界でもどこかの国がリーダー的存在にならないと世界はうまく回らない。実際前世でも国連なんか何の意味も持たないようになっていた。


 勿論、リーダーが腐れば意味をなさないが、俺が生きている間だけなら最低でも制御は出来る。


 その間に人の成熟、国の成熟が出来れば、将来的にも争いの殆どない世界が続くでしょう。


 ジーンが戻ってきたのは学校が始まる数日前、留学生もラロックの寮に入寮して開校を待つばかりの時。


「ジーンさんお帰りなさい。輸送に問題はありませんでしたか?」


「輸送は完ぺきだったよ。いきの荷物は腐るものでもないから、破損さえ気を付ければ良かったから何も問題ない。帰りの冷蔵と冷凍も予測した通りだったから、魔石の運用も上手く行ったし、温度管理にも問題はなかった」


「そうですか、それなら後は荷物の状態の確認だけですね?」


「あぁ~ それとユウマ君の欲しがっている物があるかどうかだね。言われたように本当に今回は手当たり次第にもってきたから」


 本当に楽しみだ。輸送に関しては成功すると思っていたから、後は状態確認とどんなものがあるかだな?


 ジーンにリストを渡す時に、鑑定EXの検索をやっているから、この世界にも前世と同じか似たものが存在することは分かっているので、ジーンが何を持ち帰ったかどうかだけなんですけどね。


 存在は分かっていても、それが食べられているかどうかまでは分からない。食用可という事が分かるだけだから……。


 輸送テストでの結果は冷蔵の物は腐っている物が多くあった。やはり野菜や果物の輸送は期間的に今回は厳しかった。


 拠点が出来て期間を短縮できれば違う結果になるだろうし、果物なども完熟前に収穫するようにすればまた違ってくるでしょう。


 ただこの世界の野菜や果物は前世と違って日持ちが良いようだ。これも魔力の影響だろうか?


 果物はビーツ王国でも南部が主な産地なのに、北部まで運ぶ期間を入れても全部が腐っていなかった。


 魔境の森の奥地では季節に関係なく果物が育つから、やはり魔力による影響は絶対にあるようだ。人の寿命にすら魔力が関係していそうだから、当然なのかも?




















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