第170話 海の幸

 冷蔵の方は馬車的には問題がなく、積み荷の改善と輸送期間の短縮が出来れば問題はなさそうである。国内輸送なら十分過ぎる結果だ。


「ジーンさん、今回は魚介類は全て冷凍輸送にしましたから、腐るという事はないですが、問題は冷凍による味の変化ですね」


 この世界の冷凍魔法は瞬時に凍るので前世とは違った結果が出ているし、解凍する際にも違いが出ている。


 前世ほど、野菜の冷凍、解凍での食味の変化は小さいが、それでも生よりは落ちる。だから野菜や果物は敢えて冷蔵輸送に拘った。


 野菜などの変化が小さかったので、前世でも元々冷凍輸送での変化が少ない魚介類なら、もっと小さい可能性がある。


「ユウマ君、リストにあった物は全て持ち帰ったよ。だけどビーツ王国では食べられていない物が殆どだったよ。本当に食べられるの?」


「大丈夫です。リストと同じものなら食べられます。ビーツ王国でも食べられているものはそのまま冷凍庫に移しましょう」


 ジーンに聞いた話だと、リストの魚介類は全て食べられていないそうだ。網に掛かるようなものは廃棄されているし、素潜りで採るようなものは全く見向きもされていないから、異常に繁殖していて困っているらしい。


 タコ、イカ、カニ、エビ、ナマコ、アナゴ、ウニ、海藻は全てあった。海藻は別にして残りは見た目的に食べないのでしょうね?


 こうなると後は、解凍して料理するしか皆を納得させられない。タコ、イカ、ナマコ、アナゴ、ウニは別の機会にして、今回はカニとエビを料理することにした。


 この世界で刺身はまだハードルが高そうだし、醤油と味噌のお披露目がまだだから、カニの塩ゆでと、焼きカニ、エビの焼いたものを塩で食べてもらう。


 シンプルな方が素材の味が良く分かっていいだろうしね。


「今回は量的に少ないですから、賢者候補とグラン一家だけで試食会をしましょう」


 本当は料理人のケインや拠点メンバー、輸送部門のメンバーも食べさせたいけど、そこまでの量がない。今回はサンプル的に持ち帰って貰っただけだから……。


「今から、試食会を始めます。遠慮せずに意見を言ってくださいね」


 今回は現物がどんなものか分らないようにした状態で試食してもらう。


 輸送されて来た時に現物を見ていない人は、たぶん料理後の物では先入観無く味の評価が出来るでしょうし、逆に見た人の意見はこれからの販売方法に対する貴重な意見になる。


「はじめにこれから試食してください。ビーツ王国ではガニと言われているものです。次はあちらのテーブルのエピをお試しください。どちらも塩ゆでと焼いた物に少し塩を振っただけです」


「これがあのガニですか? 見た目からは想像できない鮮やかな色合いですね」


「美味しい~~ このガニという物は食べたことない食感と味ですが、美味しいと感じます」



 今までの隣国との貿易の商品は塩や砂糖のような物だけだった。最近は漸くこちらから輸出するものが出てきたけど、それらも腐るものではない。


 今回のように生鮮食品の取引は初めてである。商人たちも殆ど国外に商売に行くことはなく、言ってみれば貿易は国の仕事だったのだ。


 この国では国がまとめて買い付けてそれを国内の商人に分配していたから、海外に出る人はいなかった。


 商売人の国、共和国でさえ、商人の商売相手は国内の生産者と消費者で国外との取引は国として行っていた。


 前世の大航海時代が来ていないのだから、別の大陸まで商売に行くこともないし、移動手段が低速で沢山の荷物が運べない馬車だけだったのだから、当然国内だけの商売が殆ど。


 他にも理由はある。特産となる商品が限られていたからです。砂糖や塩、鉱物ぐらいしか貿易の対象になる商品が無かった。


 だから高位の貴族であるサラでさえ、国外の食べ物など口することは殆どなく、海の幸を口にしても塩漬けの魚くらいだろう。


 味の評価は殆どの人が美味しいという評価だった。見た目を知っているジーンでさえ美味しいとと言った。


「ユウマ君、ガニとエピは本当に美味しいね。あの見た目からは想像できない程に」


「でしょう~ 美味しいと思って頂いたようなので、最後にこれも食べてみてください」


 最後に俺の極大サプライズ。どうしようかと悩んだけど、今回お披露目することにした醤油と味噌を使った料理。


 味噌はガニとエピの殻を使った味噌汁。醤油はガニとエピの刺身。どうせ披露するならとことんやってやろうと思い、刺身を食べさせることにした。


「ユウマ君、これは……」


 試食会メンバー全員が引いている。現物を初めて見た人も、現物を知っているジーンも……。


「騙されたと思って食べてみてください。食べ方は俺が見せますから、同じように食べてみてください」


「な! 何だこの芳醇な濃くのある味は?」


「こ! これは! 生ですか?」


「この黒い物は何です? 塩からいのに、なんと言ったら良いのか分からない味?」


 味噌や醤油のうまみについて表現できないから味とだけ言っている。


「どうです? 美味しいですか?」


「美味い! 今まで食べたこともない味だ。だがそれでも美味いという事は分かる」


 グランの表現はしょうがない。うまみという味覚は前世でも近代になって初めて認識された物だから表現のしようがない。


「ユウマさん、これ生ですけど食べても問題ないんですか?」


「大丈夫ですよ、ガニとエピなら。魚も生で食べられるものがありますが、そちらは気を付けないといけない物もあります」


「え! 魚も! それなら燻製にしてる川魚も食べれるんですか?」


「それは調べてみないと分かりませんが、食べれる物もいると思いますよ」


「それならなぜ今まで教えてくれなかったんですか?」


「それは……」


「ユウマ! それってこの黒い物が原因か?」


 鋭いなフランクは、味噌と醤油を広められていなかったから、刺身は広められなかった。川魚だと酢味噌などで食べると美味しい物もあるから躊躇していた。


「皆さんが疑問に思っていることの説明から始めますから、最後まで聞いてから質問してください」


 何時ものように全員から矢継ぎ早に質問されても答えようがないので、これもいつものように説明をしてから、質疑応答の形を取ることにした。 


 醤油と味噌のお披露目は早まったかな……。



 俺は今回の調味料、味噌と醤油について材料から作り方まで一から説明した。そしてこの調味料には使い方が多くあることも。


「この味噌と醤油を最終的には大量生産、販売をしたいと思っています。ですが皆さんの口に合わないようなら断念するつもりで今回お披露目しました」


 日本人の口には合っても、この世界の人の口に合うかどうかまでは分からない。前世のラノベやアニメなどでは普通に受け入れられているが、必ずしもそうなるとは限らない。


「ユ・ウ・マ…… お前というやつは…… 何度言えば分かる? 何かする時は報告しろと言ったよな……」


「いや、これは何年も前から作っていたもので……」


「な・ん・ねん・も・まえからだと……」


「いや、それは……、 違うようで、違わないというか……」


「こんな美味しいものを独り占めしていたという事か? これは絶対に売れるだろうが、なぜ教えなかった? ケインが知ったらお前……」


 そうなんだよね、ケインがこれを知ったら大変なことになる。料理バカのケインが黙っている訳がない。下手すると俺を裏切りもの扱いさえしそうだ。


 質疑応答どころか、それからは嫌という程、皆に説教というか、お叱りというかどちらとも言えないことを延々と言われて、最終的にグランの一声で生産、販売することが決まった。


 また忙しくなるな……。























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