第167話 世界が動き出す

 学校の変革の準備に追われている時に、また国からとんでもない事が通達された。


 国から学校の変革はすんなり了承されたのですが、届いた通達には二つの問題も書かれていた。


 一つは海外からの留学生受け入れ。

 二つ目はこの国のエルフ、獣人、ドワーフの生徒受け入れ。


 留学生の受け入れは予想通りだから問題ないが、エルフ、獣人、ドワーフの受け入れは想定外だ。


 ドワーフは物作りが好きだからなんとなく理解できるけど、エルフは? まして獣人の目的は何だろう?


 国としては存在していない彼らがどうして? どこの集落から来るんだ?


 通達には受け入れをするようにだけ書いてあったが、人数は何人なんだろう?


「スーザンさん、通達は理解しましたが、具体的な人数やどこから来るのかなど何も分かりませんが、聞いていますか?」


「それが私も気になったので、今問い合わせているところです」


 スーザンは学校と病院の国側の責任者だから、気にして当然だよな。


「来期の学校と病院の生徒数は報告しているんですよね?」


「勿論していますよ。学校は職業科が大幅に減って、150人程です。普通科と冒険科は新規入学の普通科生徒が400人、冒険科に進学した人が120人、魔法科に進学した人が100人程です。病院は今年国家試験に落ちた人が殆ど留年という形で残りましたし、新規での入学も薬師科の卒業生が8割と既存の薬師が少し入学してきて全部で150人程です」


 普通科の生徒が異常に増えたのは、今までは国の役人や貴族が主だったのが、各領の役人、役人候補や騎士、騎士候補が入学してくるから。


「病院は患者が少ないのを考慮しなければ大丈夫ですが、その人数だと学校は残り100~150人ぐらいしか余裕がありませんが大丈夫なんでしょうか?」


「そうなんですよね。学校はそれで定員になりますし、病院も150人ですから、多くても後50人が限界だと思います。患者は諸外国から送られて来るでしょうけど、その人数も分かりませんからね」


「それにドワーフなどの異種族がどの科を希望するのかも分かりませんから、対応のしようがありません」


 こちらの状況は報告してあるのだから、無茶なことは言ってこないと思うが、さてどうなる事やら?


 俺とスーザンが対応をどうするか考えている頃、国の会議室では各国の大使が送り込む留学生の人数の攻防を繰り広げていた。


「皆さんの希望は分かりましたが、学校も病院も定員がありますから、全ての人を受け入れられません。ですが病院は希望する国が5か国ですので各国10人ということで了承してください」


 この会議の議長は宰相のカルロスが務めていたので、病院に関してはこれで結論付けた。


 この大陸には7か国あるが、神聖国は病院への入学を希望していないので、この国以外の5か国で平等に10人で割り振りできた。


 神聖国は自国のプライドがあるのだろう、医師には興味が無いらしく入学を希望しなかった。神聖国の薬師には希望する人もいるのだろうが、国の方針では希望する事すらできないでいた。


「学校の方は全ての国が入学希望ですので残りの定員150人を割り振るしかないのですが、皆さんの希望を全て叶えることは出来ません。そこで各国25人で平等に割り振りして、そのうちの5人は異種族を含めてください」


 そう議長のカルロスがいうと、猛反発する国があった。


「我が国には異種族が殆どいないので5人も含めることは出来ない。そこはそれぞれの国の裁量に任せて貰わないと困る」


「そうですね。そこはそれぞれの国の事情が違いますから、国の裁量に任せるのが良いと我が国も思います」


 初めに反論したのは神聖国の大使、次が帝国の大使。どちらの国も俗にいう人族至上主義の国、奴隷制度はないからそこまで酷くはないが、色々な面で差別はされている。


 これ以外の国でも異種族は独自に集落を形成しているところが多いが、差別まではされていない。ただ文化や風習などが違うので、分かれて住んでいるだけ。


「それでしたら神聖国と帝国はそれぞれ21人として、8人を残りの4か国で均等に割って2人追加で異種族を7人にしてください」


「それでは不公平ではないですか? 我々だけ21人なんて」


「そんなことはありませんよ。他国は異種族を含めなければ20人なんですから、1人多いでしょ」


「しかし……」


 こう言われては反論できない。人種だけなら確かに1人多いのだから……。


「希望する学科はそれぞれの国に任せますが、これだけは必ず守ってください。学校や病院では身分の差は認めますが、権力の行使は一切させません。これは学校や病院が出来た時からの方針ですので、これに違反したら退学していただきます」


 特許の法律でもそうだが、あくまでこの国の学校なのだから、この国の方針に従ってもらう。それが嫌なら留学しなければ良い、それだけの事。


 その結果、その国が世界の流れから外れても問題ないならだけど……。


「それでは留学生の事はこれで決定とします。次は病院の患者についてですが意見や質問はありますか?」


「我が国は貴国から一番遠いので、患者を輸送するのに困難だ。だからどうしたものかと悩んでいる。何か良い方法はないだろうか?」


「それは我が国も同じだ。我が国は縦に長い国だから、南の方から患者を運ぶのは無理がある」


 ロッテン神聖国

   

                     魔境の森

         グーテル王国

           

 ビーツ王国      エスぺランス王国    ザリウス帝国 



                マール共和国



              フリージア王国 



 今度はフリージア王国とビーツ王国の大使から意見が出た。


「確かに患者を搬送するには遠すぎますね。でしたら両国には我が国の医師を派遣しましょう。患者の治療はその医師がして、その間に医師の資格を両国の薬師にこの国で取得して貰うという事ではどうでしょうか?」


「それは大変ありがたい話だ。是非お願いしたい」


「我が国もそれでお願いする」


 エスペランス王国は今回の医師試験に合格した薬師がそれなりにいるので派遣しても何も問題がない。これは国としても外交上借りを作る意味でも有意義だ。


「それは不公平ではないか? 他国だけ患者を搬送するのは、それなら全ての国に派遣するべきでしょう」


 文句を言ってきたのは共和国、確かにその通りなのだが、こういうことまで損得で物事を考えなくても良いと思うのだが、商売人の国だから当然なのか……。


「そうですか、それなら共和国にも派遣しましょう。ですが条件としてフリージア王国の関税を無しにしてください。フリージア王国から輸入したいものがありますので」


 エスペランス王国としてはビーツ王国やフリージア王国からは輸入したいものが多くあるから、外交上の借りは作っておきたいが、共和国からは輸入しなくてはいけない物がないので、交換条件を出して当然。


「それは横暴ではないか? なぜ我が国だけそのようなことをしなくてはいけない」


「ビーツ王国とは以前から貿易をしていますから、この先我が国にメリットがありますし、フリージア王国は南国ですからこれから輸入したい物も多くありますから我が国にとって重要です。ですが共和国とは貿易も殆どないですから、派遣するなら条件を出して当然でしょ」


 患者も出さないのに自分の国も同じように派遣しろは虫が良すぎる。患者の派遣が病院への留学の条件でもある。


「それなら我が国は患者を搬送しましょう」


「患者の搬送には我が国から搬送用の馬車を貸し出しますのでそこは安心してください。 ビーツ王国も北部の方は患者を搬送してください。医師の派遣はあくまで南部のみです」



 この時の交渉が後に俺にとって物凄くありがたいことになる。














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