第166話 医師国家試験
色んなことがまた変わろうとしているが、それでも変わらずにやって来る物もある。
いよいよ、初めての医師国家試験が行われる日が迫ってきた。この世界はスキルが全てのような世界だったが、医者というスキルだけでは成り立たない職業が生まれ、それを資格という形で認証しようという初めての試みだ。
これを皮切りにそういう資格というものが生まれてくるかもしれない。例えば錬金術師でも付与術まで使えたら特級錬金術師、上級ポーションまで作れるならA級錬金術師とかいうようにね。
そうなることで、競争意識が生まれ、努力する人が増える。今までならスキルを取得することが最終目標のようだったが、今は努力すれば作れるものが増えてきたから、能力の向上は必須になってきた。
努力しないとスキルを持っているだけでは、優秀な人に仕事を取られ、食べていけなくなる。それでも田舎の小さな村などでは食べるぐらいは出来るから、贅沢を望まなければそれもあり。
「ユウマさん、もうすぐ試験なんですよね? 試験はどんなことをするんです?」
「試験は筆記と実技ですよ。知識を問う筆記、技量を見る実技。それに点数をつけて90点以上取れば合格です」
何で俺がそんな事言ってるかは分かるよね。俺、先生だから試験問題作るんですよ。ニックも実力者ですが立場的にはまだ生徒でもあるので、試験問題にはかかわれない、というか受ける側の人だから……。
サラに偉そうに言っている俺ですが、試験問題なんて作ったことないから、絶賛、お悩み中……。
筆記試験は、薬学、解剖学、病気の知識、ポーションの知識……。
実技は、診察、診断、手術……。
そうだ! 医者と言えば、ヒポクラテスの誓い、これも教えないとな。
医の神アポローン、アスクレーピオス、ヒュギエイア、パナケイア、および全ての神々よ。私自身の能力と判断に従って、この誓約を守ることを誓う。
・この医術を教えてくれた師を実の親のように敬い、自らの財産を分け与えて、必 要ある時には助ける。
・師の子孫を自身の兄弟のように見て、彼らが学ばんとすれば報酬なしにこの術を教える。
・著作や講義その他あらゆる方法で、医術の知識を師や自らの息子、また、医の規則に則って誓約で結ばれている弟子達に分かち与え、それ以外の誰にも与えない。
・自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない。
・依頼されても人を殺す薬を与えない。
・同様に婦人を流産させる道具を与えない。
・生涯を純粋と神聖を貫き、医術を行う。
・どんな家を訪れる時もそこの自由人と奴隷の相違を問わず、不正を犯すことなく、医術を行う。
・医に関するか否かに関わらず、他人の生活についての秘密を遵守する。
この誓いを守り続ける限り、私は人生と医術とを享受し、全ての人から尊敬されるであろう!
しかし、万が一、この誓いを破る時、私はその反対の運命を賜るだろう。
何で俺がこんなこと知ってるのか? それは俺が一番聞きたい?
自分の事だろうと言われそうだが、しょうがないじゃないか、勝手に出来るようになったんだから。鑑定EXがまた進化したんですよ。
勝手というよりこの世界? 神様? が何かしたんだとは思うけど、以前の解析の検索範囲が前世まで広がったという事です。
以前の検索の内容にも前世との比較の様なものはあったけど、このような前世だけのことを検索は出来なかった。
飛行船のガスの時でもヘリウムを検索したら、この世界のヘリウムに似たものが検索出来て、ヘリウムとの違いが分かるだけだった。
それが少し前から、前世のネットを検索することも出来るようになったんです。それも突然ね。この間、米の事が分かったから、味醂も作れるなと思って、味醂の作り方が正確に分かれば、醤油や味噌を作った時のように試行錯誤しなくていいのになと思ったら、突然鑑定EXが発動したんです。
スキルには確かに常時発動してる物もありますが、殆どは使いたいと思った時に発動します。俗にいう「アクティブ」と「パッシブ」ですね。
鑑定スキルはアクティブだから勝手に発動なんてしないのに、この時だけは違った。
そして出てきた内容が、正に前世の内容だった。それで試しにと思って色々検索したら、全部出来たんです。
それも出てくる答えは最適解のみ。そこはネット検索とは違い、色々見れるわけではないので、制限というかそういうものはあるようです。
実際、このヒポクラテスの誓いの内容を見ても分かるように、どう見ても原文だよね。だって内容が日本ではOKになってる物もNOだから。
女性の中絶は一部の宗教では禁止ですが、日本などでは事情によってOKですからね。
それでもこの回答が出てきたのは、この世界の宗教も禁止だから、この原文が出てきたのかもしれません。最適解ですから……。
この世界の宗教何て全く知りません。教会が医療に関わっていることしか知らないのです。俺は元日本人ですから、どうしても八百万の神的な考えがありますし、この世界に転移させてくれた神様を創造神的に見ていますね。
ヒポクラテスの誓いもこの世界に合うように改変して、医者の基本理念にしよう。
今回は遅くなったが、次回からは入学と同時にこれを教えて行かなければいけないな。幸いなことにこの世界の薬師には非道な人は少ないようだから、今からでも問題ないだろう。犯罪者になったスベンのように驕った人は稀だから。
試験問題は試験の3日前に漸く完成した。マジで焦りましたよ、間に合わなかったらどうしようかと……。
完成が3日前だから印刷する時間が無くて、今回は急遽、創造魔法でコピー魔法を作り対応しました。異世界風に言えば、転写魔法ですね。
その事があった事で、また閃いたこともあります。印刷にスライムを利用できないかと、魔方陣のスタンプにスライムを使ったのに、なぜその時に思いつかなかったのか情けないのですが、スライムは硬さを調節できますから、金属で活字を作らなくても良いことに、その時気が付きました。
ただ、これを発表するとフランク達に自転車のフレームが作れることを知られてしまう。スライムが金属の代わりに出来れば、色々なものに利用できるけど、果たして本当に教えていいのか?
スタンプを広めるから、いずれは金属のようにも出来ると思いつく人も出てくるかもしれないのに、俺がその可能性を消してしまって良いのか?
俺が作る分にはどんなにオーバーテクノロジーでもいいが、世界に広めるものは急激にはしたくない。これは今までの基本的方針だから変えたくない。
やっぱり印刷にスライムを使うのは止めておこう。その代わり転写魔法は近いうちにお披露目する。魔力量に関係するから転写魔法は印刷には使えないからね。
出来るようになる人もそんなに多くなさそうだし……。
医師国家試験は2日かけて行われ無事終了した。結果は合格が6割、不合格が4割だった。得点的に見れば全員が70点以上は取っているのだが、合格点はあくまで90点以上。
正直70点取れていれば医師として働けるけど、それでは国家資格にした意味がない。
医者の資格は教会に対する牽制でもあるから、中途半端ではいけないのです。
医者とは凄いものだという格付けをしなければいけない。程々に出来るだけで、医者を名乗られると威厳がなくなる。
教会は神の代弁者、神の力の行使者というように威厳を強調していますから、医者にも威厳が無くてはいけない。誰でもが成れるものではないと……。
試験が終われば、卒業が近いという事。そうなると学校の変革も近いので、試験問題であれだけ苦しんだのに、相も変わらず変革の準備に追われている。
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