第165話 教師

 サラに子供達三人の教育を任せる話をして、数日で教科書を何とか作り上げて、教育を始めようと思った矢先、フランクとスーザンからストップが掛かった。


「ユウマ、子供たちの教育は俺達がするから、教科書を渡せ。サラさんはお前から離れて貰っては困る」


 信用ねぇ~~ どうしても俺が信用できないみたいだな。


「ユウマさん、この教科書は見習いの人にも有効みたいですから、これを使って見習いと子供たちを一緒に教育します」


 それならそれでも良いんだけど、サラが関わらないなら、一つ提案しておくか。


「それは良いですけど、俺はこの教科書の他に、子供たちにスキルを覚えさせる予定だったんだけど、それもやってくれます?」


「ボスコとキャロンは良いとしても、キースにはまだ早いだろう?」


「キースに覚えて貰うのもちゃんと意味があるんですよ。将来的に子供たちの学校を作る上で必要なんですよ」


 俺は小学校の計画を話した。それに魔法とスキルについても……。


「お前がいう事は理解した。確かに俺達が今やっているのがダブルスキルの取得や魔法の可能性の研究でもあるからな。しかし、親としてはな……」


「それと、もう一つあります。出来たら希望者を募って、学校の普通科の生徒から小学校の教師を目指す人を探して欲しいんです」


 これからは人に教える人を増やさないといけない。学校の教師役も拠点メンバーから、他の人に変えていきたい。


 学校も病院も国営なんですから、最終的に全て国で運営して貰えるようにしたい。


 拠点メンバー、賢者候補が完全に手を切りたいのです。その為に冒険者の属性魔法使いも雇ったのですから。


 職業科はどんどん縮小して行き、最終的には魔法学校にしたい。その授業内容は今の普通科と冒険科を合わせた内容にする。それに小学校があればこの国での教育体制が充実するだろう。


 職業の専門学校と新弟子制度があれば、職業スキルも問題ない。


 魔法学校は基本1~3年制、3年制の卒業生の希望者は大学部門を作って、そこでも3年は在学出来るようにする。合計最高6年。これ以上研究をしたいのなら、後は自分でやるか、大学に講師として残り、魔法学校で教師をしてもらう。


 1年制は普通科、2年制は冒険科、3年制は魔法科。


「分かったが、そう簡単にはいかんぞ。これから国との話し合いもしなくてはいけないだろうし、ロイスやスーザンの話から、近いうちに諸外国が動きそうだからな」


 そう言えばそんなこと聞いたな。ロイス達が国際会議後に諸外国の代表や大使に根掘り葉掘り色々聞かれたらしい。大使の視察で情報は持っているはずなのに、それでもしつこかったようだからな。


 聞く内容も、自国でも同じことをやりたいから、その為の情報収集という感じだったと言っていたから、グーテル王国同様、留学生を送り込んで来そうだ。


 これが一番穏便な方法で、最悪の事も考えておかないといけない。教師役に学校の卒業生や拠点メンバーの拉致なども可能性としてはある。


 そうしない為にも、門戸は開いてますよというのをアピールはしておかないとな。


 いっそのことこちらから、留学生を募集するのもありか? それで諸外国の意気込みも分かるし、この国との距離感も分かるだろう。


 フランクに留学生の件を伝えたら、お役御免になったので、俺はサラと一緒にお父さんの屋敷を訪問することにした。以前からお父さんの希望を叶えるために……。


「こんにちは、どうですか屋敷の住み心地は?」


「良いに決まっておるわ。これで悪いなんて言ったら、王に殺される」


 殺されるは大げさだろうが、そう言いたくなる気持ちも分からんではない。王がこの屋敷を見れば、嫌味を思いっきり言われるのは確実だからね。


「それで今日はどうしたのかね? 二人揃って?」


「今日は以前お父さんが言っていた、身体強化の魔法の訓練にお伺いしました」


 取りあえず早いうちにお父さんの望みを叶えて置けば、何事も安心だからね。機嫌を損ねるわけにはいかんのよ。サラが板挟みになると可哀そうだからね。


「それで、今から魔境の森に行きたいんですが、お父さんの都合はどうですか?」


「わ! わかった! 今すぐ準備させる」


 わぁ~ やっぱりこの人脳筋だよ。魔境の森と聞いて興奮してる。まぁ普通、貴族が魔境の森に入る事なんてないだろうからね。


「ユウマ君、護衛は少なくて良いと言われたから、5人しか連れてこなかったが、大丈夫なのか? サラもいるからもう少し多くても……」


「大丈夫ですよ。サラに護衛は必要ありませんし、いざとなれば私が全力で守ります」


「う~~ん、しかしな~」


 どうしたもんか? 気持ちも分かるんだけど、お父さんはサラの実力知らないからな。


「サラ、あそこにホーンラビットがいるから仕留めてくれる? 簡単でしょ」


「はい、ユウマさんお任せあれ!」


 サラはそういうな否や、身体強化で俺が教えた場所に一気に向かい、あっという間にラビットの首をはね、首と胴体を持って戻ってきた。


「な! な! 何故? サラが……」


 お父さんもそうだが、護衛に来ている騎士達も、目の前で起きたその光景に驚愕して、殆ど声が出なかった。


「それじゃあ、身体強化習得のために先ずはレベルを上げましょう」


 俺は敢えて、サラの事には触れずに、先を進めようとした。が! やっぱりそうは問屋が卸すわけがない。


「ユウマ君、サラのあの動きは身体強化だよな。何故? サラが使える?」


「何故と言われましても、覚えたとしか言いようがありませんが」


 普通に考えて、少し前まで死の淵を彷徨っていた娘が、身体強化を使えたら聞きたくなるよね。ましてサラは公爵令嬢。


「お父様、気にしたら負けですよ。ユウマさんはこういう人ですから、それに私も頑張ったんですよ。褒めて下さらないと」


「いや、凄いぞサラ、良くやったな。良くやったんだが……。わしは……」


 これってもしかして嫉妬? 娘に先を越されて悔しい? ここは素直に褒めて終わりましょうよ。お父さんって本当に、サプライズ好きもそうだけど、子供のようなところがあるよな。


 まぁ変に拗らせた自己中ではないから良いけどね。俺の貴族のイメージは正にそれだからな。幸いなことに今までそういう人に会った事もないし、直接関わっていないけど、この国で関係してる人にそういう人は居なかった。俺はね……。


 実際には、そういう人もいて、俺以外の人は苦労している。特にスーザンがね、二度も切れてるからな。


「それじゃあ、先ずはレベルを少しでも上げて、身体強化を覚えやすくするために、魔物と討伐して貰います。注意しておきますが、この魔境の魔物はスライムでもレベルが高いので、動きが早いので注意してください」


 それから、時間を見つけては魔境にお父さん達と入り、討伐しながら身体強化を伝授した。


 そして、希望通り身体強化を取得したお父さんは、身体強化を使いたいが為に、それから毎日のように魔境に入り続けた。その結果、その行いがお母さんの逆鱗に触れ、正座させられて説教という結果を生んだ。


 何事も程々にしておかないとね。俺も気を付けよう……。










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