第245話 いよいよ
「サラ、新婚旅行は大陸一周だけど、最後に島とユートピアに寄りたいんだけど良いかな?」
「勿論いいですよ。でも最後で良いんですか?」
サラが言いたいことは分かる。ユートピアの現状を知りたい気持ちは確かに俺にもある。だけどそれを新婚旅行の前に持ってくると、間違いなく新婚旅行に行くのが遅くなる。それが分かっているから、敢えて最後に持って行こうとしてる。
一度気になりだしたり、一度干渉したら最後までとなりかねない。そんなことしてサラとの一生の思い出を台無しにしたくない。俺だってそういう所は弁えているのです。
「一度立ち寄ったら直ぐには旅立てなくなるでしょ。だからちゃんと対応するには最後の方が良いんですよ」
「確かに、前回がそうでしたからね。ちょっと立ち寄るつもりが独立宣言ですもんね」
嫌々、あれは偶々起きたことで、俺にそんな気持ちは無かったのだから、同一視は止めてもらいたい。
それからのひと月ぐらいは結婚式に準備と新婚旅行の計画でアッというまだった。
計画自体はそれほど難しくなく、前回と同じく山脈伝いに南下して海に出たら今回は東に進路を取って左回りで大陸を一周する。
途中魔境の地域に入ったら適当に内陸に少し入って調査をする予定だ。それに関してはサラも同意している。前人未到の場所だから、サラも当然興味がある。
もし、そこでドラゴンにでも出くわしたら……。
それはフラグか? 嫌、そんな事は無いはず。いくらなんでもそれは当たり前過ぎるだろう。偶然があってもワイバーンぐらいで済むと思うな。だってドラゴンは知能が高いという話だからそう簡単には人を襲わないでしょう。
人語は理解出来ないでしょうが、好戦的な相手以外には絶対強者の貫録で相手にもされないというのが、本当の所ではないかと思います。
流石に俺もドラゴンに勝てるなんて思っていませんよ。そんなに己惚れてはいませんから……。
ただ、ひとつだけ気になっている事はあります。魔力が濃い所にドラゴンは生息していることは分かっているんですが、その濃い場所が気になるのです。
魔境の森の魔力が濃い場所が森の何処なのか? もし魔境の森の中心だとしたら、そう言う場所がこの星には何か所もあると言うことになると思うんですよ。そうじゃないと魔境の森がこの星の中心のように成ってしまうから。
ただこれはあくまで魔力に関してです。気候とは関係ないのです。この大陸の南に行けば当然気候は温かくなりますが、魔力は薄いのです。ですが島は魔力が濃い?
やはりこれからすると魔力の濃い場所はいくつもあると思ったほうが正解なのかもしれません。
魔力スポットとでも言うのでしょうか、そう言う場所が何か所か在ってそこから近いと魔力が濃いというのが俺の推測です。そうなると本当に何処で出くわすか分からないというのも事実、大陸の外周だから安全ということも無いと言うことです。
まぁ後は運任せ、凶と出るか吉と出るか……。
またフラグを建てたような気がするけど、気にしたらどんどん気になるから、日程を決めて話を進めよう。
「サラ、日取りは正式に決めた?」
「はい、両親とも相談して2か月後の11月の3日に決めました。貴族の準備には時間が掛かるし、今回は移動も遠いのでこれ位が丁度良いと言う事と、この日は亡き祖父の命日でもあるので、一緒に祝ってもらいます」
こう言う所は前世と違う。前世ならひとの命日とかは避ける傾向にあるが、この世界では命日にやる事で一緒に祝うという受け止め方をする。ところ変われば価値観や風習は違うもの、俺はこういう考え方も好きだ。
式の日取りも決まり、新婚旅行の計画も大体決まったが、俺が必要としてる物がまだ手に入っていない。前回の休暇の時に本来は手に入れる予定だったのですが、色々あり過ぎてそこまで時間が無かった。
そう、鶏の魔物ガルスとその卵がまだなのだ。俺がこれに拘るのは、勿論!ウェディングケーキの為が一番で、その次が食の発展の為。鶏肉と卵なんて、前世では当たり前のようにあったものだ。
まして日本食にはこれらを使った物が多い。醤油や味噌、それに米も見つけたのだ。そうなれば当然、TKG食べたい! 親子丼も良いよね……。
「そうと決まれば、また少しで掛けましょう」
「え! どこにですか?」
「ビーツ王国とフリージア王国です。」
「さっきユートピアには新婚旅行の最後に寄ると言っていたじゃないですか、それなのにどうして?」
ユートピアには寄るつもりはないのですよ。だってあそこで聞いても情報が無かったんです。ガルスについて聞いても誰も知らないというのです。まして鑑定EXにはちゃんとビーツ王国の南部に生息しているというのに誰も知らない。それなら答えはただ一つ、誰も知らないと言うことは人目に付かない所に生息してると言うことです。
そこで俺は考えたんです。アクイラの捕獲の時に山の中腹のあたりに、小さいけど沢山の魔力反応があったと言ってたことを、多分ですがこれがそうなのではないかと思っています。
人が入らない場所、あの山脈にはめったに人は入らない。ユートピアの人達に聞いても、麓の森で十分食料は手に入るから、山の中腹まで行くような冒険者もいないと。というか、ビーツ王国の南の果てで魔物を倒しても持って帰りようが無いんです。勿論、領都辺りなら少しは素材として使う事もあるでしょうが、それでも量はいりません。だから、誰も山に入ろうなんて言うもの好きはいない。
「ユートピアには行きませんよ。正確に言えばビーツ王国の山脈とフリージア王国です」
山脈に行くのはガルスの件ですが、フリージア王国は何しに行くかと言えば、これはユートピアと関係があります。
結婚式までと結婚式が終わって旅行に出れば、ユートピアに行くまでに最低でも3か月以上先に成ると思うので、形として独立国を宣言してるユートピアが孤立しないようにフリージア王国側に伝手を作っておきたいのです。
山脈に開けたトンネルを使って交流をさせる事で、この先お互いに良い事があると思う。
ユートピアからもこれからは情報発信されて行く事になりますから、その時にどちらかというと、この大陸で孤立気味のフリージア王国にとっては大変有利になる。
ユートピアの本国は文明の発達した国というイメージを持たせることも出来ますから一石二鳥です。それに文明の進んだ他の大陸があるということも良い刺激になるでしょう。
今まではこの大陸の中だけで競争意識を持たせようとしてきましたが、知識がラロックからこの大陸中には広がりつつありますが、それでは前回のような帝国のような行動に出る国も出てくるでしょうから、外にもそう言う国があるんだぞ思わせたい。
そうすれば、この大陸内で争っている場合じゃないと思わせられる。実際、ユートピアが出来たのですから……。
「フリージア王国には何しに行くんですか?」
「視察と商売ですね」
視察はただ単に見て見たいと思っただけだが、商売の方はビーツ王国で売ることが出来なかったクーラーを売ろうと思っているからです。
あんな事にならなければ、ビーツ王国に売るつもりだったのが、あれですから売ろうにも……。だからガルスの捕獲ついでに同じ南国のフリージアで売ろうと思ったのです。
ましてそれをユートピアからと言うことにすれば、共和国への牽制にもなります。共和国は物流に高額の税を掛けてフリージア王国を孤立させて儲けているので、それを壊してやろうと思っています。
商売人の国なら商品と商売の技量で勝負しろと教えてやるのです。
サラに今回の目的を全て話したら、サラも了解してくれたので、出発の準備をしたら、直ぐに出かける事にしました。
勿論、フランクには直前まで言いません。前もって言えばどうなるかは明白なので教えません。
今回ばかりは二人だけで行くつもりです。二人だけと言っても完全に俺とサラだけではありません。エリーを連れて行きます。
だって結婚前ですから、二人切りなどになればそれこそお義母さんのまた餌食になりますから……。
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