第244話 結婚式の前に

「サラ、新婚旅行は大陸一周にしようと思うんですが、どうです?」


 俺は悩みに悩んで、この答えに辿り着いた。何を悩んだかは言えないが……。


「大陸一周ですか! 凄いです! まだ誰もやったことないことです。それを私が出来るんですか?」


 この国というかこの大陸にある国の人の世界は狭い。大陸の三分の一しか人が住めないのだから。まぁそれ自体を知らないから狭いとも思っていないだろうが、サラやフランク達は知っているから、大陸一周という言葉の意味の大きさが良く分かる。


 俺だって鑑定EXで色々調べられるけど、それは調べたいことが分かるだけで、全てが分かる訳じゃない。だからこの大陸にドラゴンがいるという事は分かっていても、その他の魔物の事は分からないし、ドラゴンが何処にいるのかまでは分からない。


 もし、この大陸にいる魔物全てを知りたいと鑑定したら、脳がパンクするぐらいの情報が俺を襲うだろう。だから最強種はドラゴンと分かっているからそれだけを調べる。その分かっていているドラゴンでさえ鑑定で分からないことがある。


 では、なぜ分からないのか? それは……、ドラゴンのいる大体の場所というか方角は分かっているけど、この世界には大陸の地図が存在しないから、地名がない。だから鑑定EXも説明しようがない。人が認識したり、住んで初めて地名や山の名前、川の名前などが決められる。


 この大陸の名前も過去の誰かが調べきれない程大きいと思って大陸と認識し、それに名前を付けたという事だろうと思えるだけで、本当の事は分からない。実際、フランク達に聞いてもこの大陸の名前さえ知らなかった。


 結局はこの世界が過去の誰かの発言を記録したという事なのだろう? もしくは何処かにその名前が記録された本が存在するという事……。


 鑑定というのは魔法世界でしか存在しないもの。これ程不思議な現象はない。知識や条件が揃えばスキルとして発現するし、そして知識が無くてもその物の事が分かる。そして究極的には人のステータスまで見れるように成る。


 これって世界の知識? いや記録が見れるという事。だから魔法の魔方陣まで見れるように成るという異常なことが起きる?


 この鑑定に似てるのが、治癒魔法やポーションの効果。世界の記憶や細胞の記憶を使って治療している。そんな物人が記憶できませんから、本人が知らなくても世界や細胞が教えてくれる。


 どんな治療をしたいのかを世界や細胞にお願いしたら、それを教えてくれるというか手助けしてくれる。これが鑑定なら、知りたいことを世界に聞いたら世界が知っていることを教えてくれる。魔境には地名が無いから名前では教えてくれないけど、方角で教える。これが鑑定魔法……。


「ユウマさん!…… 今回は言葉に出ていませんでしたが、少し長い思考でしたね」


「ご!ごめんなさい。今物凄い事に気が付いたので、色々と思考、考察していました」


 この事はこの世界の人では決して思いつかない思考。生まれた時から魔法が有る世界に住んでいるから気にならない。そういう物だという認識だからです。でも俺のように別の世界から来た人間には当然のように疑問に思う事。


 前世に物理や化学に法則があったように、この世界にもこの世界なりの法則は存在する。だけどそれをこの世界の人は調べようとも、知ろうともしない。


 だから、スキルの発現条件でさえ今まで調べようとも、知ろうともしなかった。それが続いているから当然のように発展が遅れる。


「サラ、ひとつ質問です。鑑定スキルと治癒魔法やポーションはどうして知ることが出来たり、人の怪我や病気が治せるんですか?」


「どうして?」……


 何時ものサラなら分からなければ直ぐに分からないというのに、今回は何故か直ぐに答えようとしない。


 暫く待っても返事が返ってこないので、こちらからヒントを出してみる。


「怪我をしてる人に治癒魔法を掛ける人は、どのようなイメージで魔法を発動してるんでしょうね?」


 魔法はイメージだという事は何度も言っている事なので、サラにはこの質問がヒントになるはず。


「怪我を治す……。あ! それは元の状態に戻す。怪我をしていない状態に戻すです」


 う~~ん、惜しい。まぁ俺の聞きたいことには答えているんですが、イメージの内容としては少し違う。元の状態に戻す、これだけのイメージでは物凄く難しいので相当な練習と魔力量がないと発動しません。それが骨、血管、神経、皮膚、筋肉、細胞までイメージして元の状態に戻すというイメージなら発動するし、魔力量も少なくて済む。


「元の状態ってサラは知っていますか?」


 厳密に言えば俺だって元の状態なんて知らない。それでも魔法が発動するのは世界の記憶や細胞の記憶が助けてくれるから。


「元の状態は知りませんね。それじゃ何故?」


 ここまで話せば俺の説明で理解出来るだろう。そこで世界の記憶や細胞の記憶についてサラに話してあげた。


「世界の記憶、細胞の記憶……、あれ? それだとポーションは?」


 良く気が付いた! そうポーションはイメージしてないのに怪我が治る。それは何故か? 曖昧な細胞の記憶を魔法薬であるポーションが呼び覚ましているだけなのだ。


 曖昧だから、骨折の様な怪我の時に曲がったままつながるなんて言う事が起きる。そしてこの世界の治癒魔法も不完全だからポーションと同様なことしか出来ない。


 治癒魔法は本来教会が自慢しても問題ないぐらい貴重な魔法なのです。ですがその魔法が不完全だから出来る事が限られている。治癒魔法使い程、病院で人の体の構造や細菌やウイルス、病気の原因などの知識を身に付ければ、物凄い効果を発揮する。


 サラに治癒魔法とポーションの違いや仕組み、その結果起きる治癒魔法の可能性について説明したら、漸く世界の仕組みについて関心をもった。


「ユウマさん、ということは……、日頃私達が当たり前だと思っていることのすべてに法則があるという事ですね。あぁ~なんで今まで気が付かなかったのでしょう? スキルの発現だってルール、法則があるって私達は身近で見てきているのに……」


 今まではスキルの発現の条件という認識だったけど、それがこの世界の法則、ルールなのだと気が付いた。まして全てのものにそれがあると……。


「サラ、それじゃ鑑定の仕組みも分かるよね」


「それは、世界の記憶です」


「そう、そうじゃないと説明が付かないでしょ。今までそんな事気にしたことも無いからこの発想に成らない。それじゃついでに、もう一つ面白い物を見せるよ」


 俺は生活魔法ではない小さなファイアを作って見せた。それも青い炎……。


「な! 何ですかその火の色は?」


 これは俺もまだ完全には理解出来ていないこと。何故前世の科学のように酸素を効率よく供給すれば完全燃焼によって炎の色が変わると断言できないのか? それはこの世界の空気の中には魔素が存在するから。


 魔法はイメージで発動してるから、魔法で作った青い炎と実際に物を燃やしてそれに空気? 酸素を供給して青い炎にしてる物は同じか? という疑問があるのです。


 そこは今考えてもしょうがないので、青い炎の原理だけサラに説明した。


「ユウマさん、飛行船の浮く原理や飛行船に掛ける重量軽減の魔法、それに私が風魔法を使えるようになったことにもルールや法則があるという事ですね」


「そうです。サラも言っていたように全てのものにはルール、法則があるというのはそういう事です。島で見つけた真珠もそうだったでしょ。出来ること出来ない事がある。何故そうなるのか? が分かったらもっと色んなことが出来るように成る。それが普通に出来る人が多くいる世界にこの世界がなれば、世界はもっと発展する」


 やべ! この世界を強調し過ぎた。これじゃ俺がこの世界の人間じゃないみたいな言い方に成っている。まぁサラの場合は夢の話を知っているから気にしないだろうが、他の人だと奇妙に感じるかも知れないから気を付けないと拙い。


 新婚旅行の話をしてたのに、いつの間にか世界の仕組みについての話に成ってしまったが、ここは本来の新婚旅行の話に戻さないと……。






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