第163話 対策

「それじゃあ、お父さん屋敷をお見せします。ここでゆっくり暮らしてくださいね」


 その言葉と同時に門を開け、皆さんにお披露目。


「「「おう~~」」」 「「「わぁ~~」」」


「な! 何だあれは! ユウマあれは拙いぞ! お前やらかしてくれたな」


「ユ! ユウマ君! あれは誰にも見せられないよ」


 そうでしょ、そうでしょ……。 分っていますよ。多分その反応になるとは思っていたから。


 あれ? お父さんの反応がない? お母さんも……。


「お! お嬢様! ユウマ様というのはいったい……」


「婆や、気にしたら負けよ。私が好きになった人はこういう人だから」


 この婆やがサラの機嫌が良かった最大の理由。この人はサラが生まれてから、ずっと傍にいて、サラが病気になってからもひと時も離れず世話をしてくれた人。


 ある意味第二の母のような人。その人が此処に移住してきてくれるのだ、サラが嬉しくないわけがない。サラが最後の望みでここの病院に来ることが決まった時も、自分がついていくと最後までお父さんに頼んでいたらしい。


 それをサラが断ったそうだ。この人には自分の最後を見て欲しくない。最後を見ることで、悔いが残ることをサラがして欲しくなかったから。


「ユウマ君、こ……れ……は、どういうことかね? わしの屋敷は王宮より豪華だが」


「ユ、ユウマ君、私は夢でも見てるの?」


 まぁ皆こうなるよね。だって大きさは王宮よりも小さいらしいけど、総石作りのような建物なんだから、豪華さでいえば王宮を軽く凌駕している。


 サラから聞いた話だと、王宮はこの三倍ぐらいある木造三階建だそうだ。三階建と言っても壁も木造だから豪華さはない。これが石作りじゃなくても、壁が塗り壁だったら違うんだろうが、木の板を張ってるだけだから、悪く言えばみすぼらしい。


 粘土で窯は作っていたんだから、壁に塗るという事を考えなかったのか不思議に思うが、レンガも作れなかったんだから、しょうがないのかな?


「どうです、凄いでしょ。でもここで驚いていては身がもちませんよ。中はもっとですから」


「婆や、お母様についていてあげて、気を失うかもしれないから」


「お! お嬢様、わ!分かりました」


 その後の屋敷内部の案内でもお父さんをはじめ、移住者の人達は驚愕し続けて、全てを見終わった時には、もう誰も一言の声も発することなく、疲れ切っていた。


「ユウマ、この屋敷の事は当分誰にも言うなよ。屋敷の住人にも口止めして置け。さもないと間違いなく仕事が増えるし、王宮から呼び出しが来るぞ」


 フランクの言う事は予想済みだから口止めは初めからするつもりだけど、その対策も考えてある。


 魔境の森の開拓を始めた頃、魔法について考えた時に思いついた、学校の普通科と冒険科の魔法の進捗具合が良くない事で、在学年数が増える可能性の対策として考えたことが、今回の対策にもなる。


 冒険科の協力者である、冒険者のサイラスに再度お願いして、引退間近か引退した属性魔法が使える冒険者を探してもらったんです。


 冒険者でも属性魔法が使える人は少ないが存在する。そういう人は主にダンジョン探索の冒険者に多い。この世界の属性魔法の魔法が自然現象に近いものが多い事が原因です。


 自然現象に近い魔法だから、魔法の威力が強力すぎるのです。普通の森とかで使えば、魔物は討伐できるが、自然も破壊してしまう。


 だから、魔法を使っても自然破壊にならない、ダンジョン専門の冒険者に属性魔法を使える人が多いのです。


 サイラスが知り合いの冒険者に連絡をとって、探してもらったら、割とすぐにこちらが思っているより多く見つかったんです。


 その人達に俺は普通科、冒険科の授業も面倒みてもらう予定ですが、その前にこの世界には存在しない属性魔法を覚えて貰った。


 教える方法として使ったのが……、漫画! 絵本を作る時に協力してくれた絵の上手い人に苦労したが口で説明して、魔法を漫画として具現化した。


 絵にするのに一番簡単なボール系とアロー系を描いて貰って、それを冒険者にイメージしながら魔法を使う練習をしてもらった。


 物理とか科学何て知らなくても絵があればイメージは出来る。火の玉が飛んでいき目標にぶつかる。ただこれだけイメージすれば良い。


 魔法はイメージなんですからイメージさえしっかり出来れば後は魔力量があれば使える。


 練習の結果、早い人は10日も掛からずマスターした。これが属性魔法がステータスに表示されている人の力なんでしょう。


 スキルと同じですね。スキルが無くても木の椅子は作れるけど、スキルがあると出来上がりや作る早さが違う。


 属性魔法も理論的には誰でも使えるが、ステータスに表示されていると使るようになるまでの速さが違う。勿論、魔法の場合も魔力量が関係してくるが……。


 これのどこが対策なのかというと、学校に来期から魔法科を作ることにしたからです。


 これが実現出来そうなことが分かったのは、来季の生徒の応募状況が一気に少なくなったからです。


 特に少なくなったのが職業科、その原因は一度廃れた弟子制度に似たことが起きているからです。


 学校に通うにはそれなりに学費がいる。学校設立当初は各領が援助していましたが今はもうしていないので、従来の弟子制度だとそれを嫌って、別の職業でお金を貯めて、学校に入る人が多くいたのですが、学校の卒業生が工房を構えたことで、その工房では賃金は安くても2~3年もあればスキルが発現するから、お金を貯めることを考えれば、殆ど変わらないとそちらを選ぶ人が増えた。


 だから職業科の生徒が激減したんです。


 本当に奇妙な話だが、今起こっていることが、本来の弟子制度なんだよね。昔の弟子制度が異常だっただけ。特にこの世界の物はね。


 前世でも職人になるには10年とか掛かる弟子制度もあったけど、学校というものも存在していた。そして学校を卒業した人には選択肢があった。卒業してすぐに開業する人、そこから新たに有名店に弟子入りする人。


 同じ弟子入りでも0からと5からでは10になるまでの早さが違う。0から10になるのに毎年1上がるとして10年、学校で5になるのに2年、そこから10になるのに5年掛かってもトータル7年。


 学校には下積みが無いからね……。


 今は職業訓練校のような学校ですが、これもいずれは前世の専門学校のようなものが出来るでしょう。工房を開かないで、人に技術を教えることを職業にする人が出てくるからです。


 そうなると、此処にある学校も殆ど必要が無くなる。その代わり、普通科、魔法科がメインの学校になる。


 冒険科もいずれは冒険者育成の学校になるでしょう。そうなれば基礎を学べるので死傷率も下がることになる。


 話が大きくずれたが、今回来てもらった冒険者の中には土属性の人も数人いた。その人達にはボール系ではなくバレット系を覚えて貰ったが、それとは別に土魔法での建築方法、土木に使える魔法を覚えて貰った。


 この世界では土魔法は非常に地味な魔法だった。スライム養殖場の件でも分かるように穴を掘るというのが殆ど、これは自然現象ではない珍しい魔法でもあったけどね。


 俺は土魔法程、応用が多い魔法は無いと思っている。誰でも作れるようにと思ってレンガを作ったが、これだって俺が初めに使ったクリエイトブロックでレンガ以上の物が出来る。


 イメージさえ出来れば、石畳の道路も作れる。石畳でなくても土を固めることが出来れば、今の道路より丈夫なものが出来る。


 これが対策、土魔法士に土木建築の魔法を覚えさせる。そうすればもし屋敷や王宮の建築を依頼されても俺が出ていく必要はない。














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