第50話 薬師の協力者

「薬師様を拠点に案内しましょう」というフランクの発言にグランとローズも賛同した。


 グランが賛同したのは、この際だから薬師の協力者を作るのもいいかと思ったからだ。ユウマは多分これからも未知の病気の解明や薬を作るだろうから、薬師の協力者は絶対に必要になる。そう考えた。


 一方、ローズは何も考えていない。雇い主がOKを出したなら、幼馴染の父親に自分の職場を見てもらって如何に凄い物を作ってるか自慢したいだけだった。


「それじゃ準備してくるから、その間にそろそろ昼食だから薬師様にお昼を食べてもらってから拠点に案内しよう」


 フランクはそう言った後グランに耳打ちをした。


「父さん薬師様に燻製品やベーコンを食べさせて」


 グランはその言葉にニヤリとして頷いた。


 拠点では燻製やベーコンは作っていないが未知の物ではあるので、先ず此処でインパクトを与えておこうと思ったからだ。


 フランクが拠点に訪問者がある事を知らせるのと、まだ見せるのには躊躇する物を隠す為に拠点に向かった後、店ではケインによるユウマ直伝の燻製品などを含む料理が振舞われた。


 その時のニックの反応は……


 昼食後まだ呆けているニックを連れてグラン、ローズは拠点に向かった。


 フランクの指示は拠点では既に初級ポーションの改良版の製作に取り掛かっていたがそれはまだ見せる事が出来ないので、それは隠して今後発売予定の石鹸関係の製作を見せる準備をさせた。


 ポーションに関しては本当に極一部の人間しかまだ知らない。錬金術師とグラン一家だけだ。拠点でも錬金術師の作業場はフランクの店の従業員でさえ入室出来ない。


 今日はユウマも拠点に来ていない。拠点が仮完成してからは従来のように7日ごとの取引以外は森から出てこない。


 ユウマの思い通り、極力人と関わらない生活に今はなっている。


 勿論ただ生活してるのではなく、ユウマは森で色んなことをしている。錬金術師と知り合ったので、本に出ている以外の公開されている、中級や上級のポーションのレシピは教えてもらったので日々研さんしている。


 いずれ必要になるだろう、女性向け化粧品も何かに押されるように研究している。


 ユウマの1日のスケジュールはフランク達が森の拠点に来ていた時のように午前中は自分のレベル上げ、午後からは色んな製作物の研究とのんびりスローライフはしていない。


 38歳だった頃ならのんびりスローライフも良かっただろうが、17歳の今はそんなことしてると勿体ないと思うのだ。肉体にそう言う所は精神が引かれているのだろう。


 拠点に到着したグラン達は、ニックに拠点で何をしてるのか見せた。


 この時はまだ他の人とは違ってニックとは守秘義務契約は結んでいない。何といっても王都の薬師様だこちら側が有利とは言ってもいきなり契約を結べとは言えない。


 ある程度見せて秘密の必要性を認識させた後、辺境伯の後ろ盾なども話した後に結んで貰うつもりだ。


「どうニックおじさん凄いでしょう。えっへん」


 ローズは無邪気に胸を反らして自慢する。


 ニックは無反応、嫌、拠点に来てからずっとだ。無反応というより呆けている。


 当然だ。王都でさえ空堀何て存在しないし、拠点の内側では未完成だがレンガによる壁が作られている。建物は全てレンガ。錬金術で石鹸なども作っている。未知の物オンパレードなのだから……


 この状態は全てを見学し終え休憩場所の建物に着くまで続いていた。


「薬師様どうです? 此処ではこの世の中にはまだ存在しない物を沢山作っています」


 休憩所に着いてユウマ特製のハーブティーを飲んで漸く戻って来たのかニックがその言葉に反応した。


「何なんですか此処は? 見る物全て見たことも無い物ばかりで……」


 ニックはそれしか言えなかった。本当は聞きたいは沢山あるがどこから聞いたらいいか解らなかったからだ。


「そうですね、それでは一つずつ説明しましょう」


 グランは此処で作っている物を全て説明した。その知識をもたらしたのがある人物というだけで、流浪の薬師ともユウマとも言わず濁した形で。


 そして今現在石鹸などは辺境伯の後ろ盾を貰ってる事、いずれは此処で作っている物全ての後ろ盾になって貰うことなども説明。


「良く解りました。これだけのものですから後ろ盾がいるのは明白ですね。それにしても凄いですね、ローズが自慢するのも頷けます」


 ここが好機だろうか? グランは思った。薬の材料の話に触れるのは。


「薬師様どうします? ここに先ほどの薬のレシピと製法が書いたものが御座います。お受け取りになりますか?」


 これはこれからの事も考えて薬を王都に送ってから直ぐに、ユウマに頼んで羊皮紙に材料名と製法を書いて貰っていたものだ。


「う~~んどうすべきか? あなた方が嘘をついているとも思えないし、まして嘘をつく必要性も無いのも解るのだが……」


「ニックおじさん私が信用出来ないの? エリックのお父さんだから薬を送ったのに……」


 ローズが悲しそうな顔をしていう


「そうだなローズが俺を信用して送ってくれた薬で多くの人が救われたんだここで俺がローズを信用しないなんてないよな、すまんローズ有難く使わせてもらうよ」


 良し! これで薬は何とか広められる。しかしこれも無料と言う訳にはいかない、どうするか考えてグランはニックに伝えた。


「薬師様この薬は新薬です、多くの人が助かる新薬です。ですが拠点で見て頂いたように此処には未知の物ばかり、薬も同様これらの物がこの先世の中に広まれば膨大な利益を生みます。ですからただと言う訳には行かないのですよ」


 この世界にはまだ特許という仕組みは無い。だがこれからは必要になるだろう、今直ぐという訳ではないが、グラン一家がユウマに燻製品や石鹸などの利益の一部を渡そうと思ったように、発案者には利益が合って当然だろうとグラン一家は思っている。


 ユウマは善意で色々教えてくれるが、これが別の人だったらそうはいかない。

 今でもグラン一家は全てを秘密にしている。秘密にしなければ全てを取り上げられると言うことを解っているからだ。


 それにグラン一家はユウマに触れて、研究や改善の重要性を認識した。それに付随して何でも知識という答えを教えてしまうと進歩がないと言うことも解ってしまった。


「ではどうすれば?」


 ニックが少し懐疑的な顔で言ってきたのでグランはこう答えた。


「薬は安価です、出来るだけそうあるべきとは思います。ですがこのような画期的な薬にはそれなりの価値があります。ですから材料費、製作費、薬師様の利益に加えて発案者の利益を付け加えて欲しいのです」


「え? それだけでいいのか?」


 もっと凄い事を言われると思っていたニックにとっては拍子抜けのような事だったのでこの言葉になった。


「そうです、それだけです。ですがもう一つだけ守って頂きたいことがあります」


 それは秘密の厳守である。特許制度がないからニックは良いとしても他の薬師に材料や製法が知れ渡ったら、発案者の利益はニックだけからしか入ってこない。

 特許制度が出来るまではこれは絶対に必要なこと。


「それは決してこの薬の材料と製法を他の人には教えないと言うことです。いずれは広めようと思ってはいますが、今はその時期ではないのです」


 そこまで言われればニックも解る。新たな薬を作っても自分に利益が無ければ好んで研究しようとは思わない。


 その結果がこの世界なのだから、流石に此処まではニックも思っていないが。


「そこで私共と守秘義務契約を結んで頂きたいのです」


 その後ニックは快く契約、此処に薬師の協力者が誕生した。


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