第49話 突然の訪問者

 辺境伯の後ろ盾が決まって、一息ついた頃ラロックのフランクの店に突然見知らぬ訪問者がやって来た。


「御免!ここにローズという錬金術師がいるだろうか?」


 いきなりこんなことを言えば店の客ではないのは一目瞭然ですが、そこは良く教育された、フランクの店の従業員。


「ローズという方は確かにうちで働いていますが、どのようなご用件で?」


 この時にはフランクの店の従業員は全員守秘義務の契約を済ませていたので、ローズが拠点で錬金術による商品を作っていることは知っていた。


 だからこそ、そう簡単に会わせる事も出来ないのだが。


「実は先日ローズから手紙を貰ってな、そのことでどうしてもローズに会わなくてはいけなくなったのだ」


「もしかして王都の薬師様ですか?」


「薬師様と言われるのは烏滸がましいが、一応王都で薬師をしておる」


 これは先日旦那様やご隠居様が言われていた、薬の件でしょうか、それなら過ぐに知らせなければ。


「そうですか、でしたらこちらで少しお待ちいただけますか、直ぐに呼んできますので」


 従業員は薬師に椅子をすすめ、他の従業員に対応を任せ、すぐさま拠点へ馬車をだす。


 暫くしてフランクとグラン、ローズを連れて馬車は店に戻って来た。


「ニックおじさんどうして此処に?」


 戻ってくる成りローズは店で待っていた薬師に声を掛けた。


「どうしてもこうしてもあるか、あの薬はなんだ?」


 ローズの質問に質問で返された。


「まぁまぁ二人とも先ずは落ち着いて、私はグラン商会のグランと申しますが、王都の薬師様でいらっしゃいますか?」


「これは失礼、王都で薬師をしております、ニックといいます」


「そうですか、ローズからお話は伺っていますよ。横におりますのはこの店の店主で息子のフランクと言います。私は隠居して領都ゾイドの店を長男に譲って今はこちらで面白い事をやっています」


 グランは落ち着いてこちらの紹介と含みも混ぜながら挨拶をした。


 薬を送った薬師が此処に来た、それは薬について何か結果がでたということにグランは直ぐに気が付いた。


「お送りした薬のことでしょうか?」


 この時点でグランは薬は効いたと確信していた、そうでなければ薬師が此処に来る理由がないと。


「そう、その薬だ!あれはいったいなんだ? いきなりローズの手紙と一緒に送られてきて、試しに使ってみろと言われたから害がないのであればと思い使ってみたら、今まで病名も何もわからず、これ以上はどうしようもないと思っていた病気が翌日にはいきなり治っていたんだ」


 やはり王都で広まりつつある病気はシャーロットの病気と同じだった。


「それはそれはお役に立てたようでようございました」

 薬師の興奮とは反対にのんきに返事するグラン


「それで今日わざわざ辺境の此処までいらした訳はどのような事でしょう?」


 薬がただ欲しいだけなら此処まで来る必要はないから、当然薬の製法や病気について知りたいのだろうという予測は出来ているが、敢えてグランは聞いた。


「あぁ! それは薬が無くなってしまってまだ必要だから製法を教えてもらおうと思ったのと病気について聞きたいと思ったからだ」


 言ってる事は至極当然の事なんだが、いずれも手紙で済むことなのに、それに気づいていないこの薬師は何というか……


 だがこちらとしては良かった、病気の話は手紙でも良かったが、如何せん製法は手紙では無理があったからだ。


「病名は結核というものです。これはある方がお付けになった病名です。手紙にもあったと思いますがフランクの嫁が王都ではやっていると言う病気の症状と同じでして、手の施しようがないという状態でしたがその方の薬で全快しました」


 この後、グランはローレンが作った流浪の薬師の話を織り交ぜながら事の経緯を説明した。


「結核というのか、それで薬の製法は教えてもらえるのだろうか?」


 ここからが問題だ、流浪の薬師はもういないが製法は知ってると言ってもあの材料だ、信用してくれるかどうか? グランは思案した。


「製法をお教えすることは出来ます。ですが薬師様がそれを信じてくれるかどうか?」


 グランはどう説明していいか解らなかったのでこう言うしかなかった。


「信じる? それはどういうことだ?」


 もうしょうがない全部正直に話して後は薬師の判断に任せようとグランは決めた。


「それはですね、薬の材料が特殊なんですよ。今から材料をお教えしますがそれを信じるかどうかということです」


 グランは薬の材料、現在の認識では雑草であったり毒茸の名前を並べて行く。


「ギリク草 スリラ草 パーム草 カイエン茸 ベム茸 タム茸」


 材料の名前を並べるたびニックの顔が険しくなっていく


「ちょ! ちょっと待て、何だその材料は!雑草に毒キノコだと!」


 フランクは素人だったからまだ良かったのだ、とんでもない材料だが素人だからこそまだ何とか受け入れられた。しかし今回は専門家そうは簡単ではない。


「そうです、材料に間違いはありません。」


 そう答えたのはフランク、実際には聞いただけで現物は見ていない。


 薬もユウマが材料も全て自分で揃えて作ってしまったから作るところさえ見ていないのだが、妻の完治と知り合ってからまださほど経っていないがユウマへの信頼は相当な物だった。


「ニックおじさん、薬の材料はそれで合っていますよ。信じられないかも知れないけど」


 今まで黙っていたローズがここで割って入った。ローズも薬のいきさつは聞いていたし、ローズもまたユウマへの信頼は高かった。


 当然であろう、この世の中にない物を知り、今それを自分が作っている。


 それを教えてくれたのがユウマだ、信頼しないわけがない。


「う~ん、ローズは嘘をつくような子じゃないとは思うが……」


 ローズは息子の幼馴染、子供の頃から知っている。王都で男尊女卑の中でも錬金術を学び立派に錬金術師になっている。


 ローズが言うから信用したいが……悩むニック


 グラン、フランク、ローズはユウマとの付き合いで未知の物を沢山見てるし、携わっているからユウマがとんでもないことを言っても信じるだろうが、ニックは違う。


「そうだ、薬師様を拠点に案内しましょう」


 フランクがそう言った。フランクはどうしたら薬師が信用してくれるか考えた時に自分達は何故ユウマを信用してるのか?それを考えた。


 いくら新しい物好きのフランクでもあの材料を信じたのには理由があった。


 勿論、妻の病気がどうしようもない所まで至っていというのもの一つだが、燻製やベーコンという今までになかった物を見せられたからというのも理由だったからこの発言に……

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