第270話 次はユートピア
ミルの訪問を終えた俺達は次の目的地ユートピアを目指した。
ユートピアへは身体強化による移動ですから俺以外は初めてトンネルを使います。
「ユウマよ、良くもまあこんなトンネル作ったな。出口が見えないじゃないか」
フランクがあまりに長いトンネルを見て感心というより呆れたように俺に言って来た。出口が見えないのはトンネルが長いだけじゃなく、トンネルの中央から両側に勾配を作っているから。急いで掘ったから内部の作りがあまいので漏水の可能性もあるし、勾配を作っておかないと雨が内部に流れ込むからなんだけどね。
この世界にこれ程のトンネルは存在しない。人力でやれば何十年いや百年は掛かるかも? 魔法も遅れていたから魔法で掘るという発想が無かったからね。
「出口が見えないのは中央から両側に勾配が付いているからですよ。勿論長いのもありますけど。それにしても良くトンネルという言葉覚えていましたね?」
「そりゃ、地下通路をお前が作った時に教えてくれたじゃないか」
この世界に地下通路という言葉は存在したけど、トンネルという言葉は存在しなかった。言葉遊びのようだけど地上に掘った通路と地下に掘った通路の呼び分けの為に俺が教えた。地下通路とは言うけど地上通路では意味が分からないからね。
このトンネルを見ると俺はサラのあの仁王立ちを思い出すから、ちょっとしたトラウマなのだ。トンネル、ダンジョンと穴に関係すると仁王立ちも付いてくるというトラウマ……。
「トンネルを抜けたら少し休憩しましょう。多分ユートピアに着いたら忙しくなると思いますから」
ユートピアに着いたらやることが多いのもあるが、恐らく異常な歓迎を受ける気がしているからだ。彼らにとっては俺という存在は救世主だし英雄でもある。悪徳領主からの解放、更に国からも独立して自分達で町を作って行けるという自由をくれた存在だから、物凄く尊敬、嫌、崇拝されている。
特に代表と副代表の三人の崇拝ぶりは今思い出しても身震いがするほど凄かったからな……。
それはそれとしてユートピアには楽しみにしていることもあるから、その分モチベーションを保てている。そう、米だよ米! 前回は種籾にしなくてはいけなかったから断腸の思いで食べるのを我慢したけど、今回はもしかしたら食べられる可能性がある。気候的にも二毛作も出来る気候だし、この世界の麦は成長が前世より少し早いから、米もその可能性はある。
ただ水田での栽培は初めてだからどうなっているか不安ではある。一応俺が知っている限りの栽培方法は教えてきたけど、俺だって素人だからね。アイドルのTVや米栽培の達人のTVなどから得た程度の知識しかない。細かいことは知らないから上手く行っているか心配もしている。
彼らの主食用の麦畑は減らしていないから、飢饉に成ることはないけど仕事が倍に成っているからその辺も気に掛かっている。あの三人が住民に無理をさせていなければ良いのだが……。
「そんなに心配ですか?」
「聞いてた?」
「えぇ、米の栽培についての所ははっきり聞こえましたから」
おぅ? これは補正か? それとも初めの方はぶつぶつ言っている感じで本当に聞こえなかったのか? マジで分からん?
休憩後、ガルスの繁殖地を一度観察に寄ってからユートピアに向かった。流石に期間が短いからガルスに変化は無かったが、玉子はそれなりにあったし、幾つか鑑定してみたら全て有精卵だった。以前捕獲前にあった卵は無精卵が多かったから、やはり群れで調整しているんだろうな。しかしそうなると気に成るのはその無精卵はどうしているのかという事?
一番可能性があるのは放置して他の魔物の餌に成っているなんだけど、玉子を食べる魔物ってなんだろう? 何処にでもいるゴブリン? 鳥の卵の天敵ヘビ系の魔物かな? 魔物の図鑑は図書館で見たことあるけど、生態とかは出ていなかったからな、ただの魔物の特徴位しか出ていなかった。絵もあったけど本当によく見る魔物ぐらいで他には殆どなかった。
というか魔境の森に殆ど入らないのだから知られている魔物自体が少ない。それでも入った人はいるから幾らかは知られているし、ダンジョンで確認されている魔物もいる。
今度魔境の探索に入ったら魔物の調査もしてみたいな。大型のワニの魔物もいたぐらいだから大型のヘビとかカエルの魔物もいそう……。
俺はうまい絵は描けないから、転写魔法でも作って写真のように魔物の姿を写すほうが良いかもな。
写す……! これってあれも写せるな……。
「あなた顔がにやけていますが何かいやらしいこと考えていません?」
今回は声には出ていなかったが、顔に出ていたか。何年振りかに前世のグラビアとか〇ー〇写真を思い出して、妄想してしまった。サラの……は無理でもこれを商売には出来るかも知れない。普通の写真は良いけど、流石にグラビヤやあれはこの世界にはまだ早いよな。でも前世の大昔でも裸婦画はあったな……。
嫌、しかしこれの発案者が俺だとバレたらというかバレるよな。そんなものを世の中に出せば、サラからどう思われるか? でもな~、男の欲望というのは世界が変わっても変わらんだろうし、物凄く売れるはずだよな。フランクに話したら最後必ず売るというだろうな。嫌、その前にその魔法を教えろと言われるか?
「嫌、でもな~~」
「何が嫌なんですの? 声に出さないように口まで抑えて考える事って何です?」
これは拙い。下手に嘘は付けないぞ。後でバレたらとんでもないことに成る。どう誤魔化すか?
「嫌、魔物の生態を調べたり、その姿を残す方法を考えていて新しい魔法を思いついたんですが、悪用されないかなと心配に成っただけですよ」
「心配? その割にはにやけていてそうは見えませんでしよ」
相変わらずそういう事には鋭いな。初夜の過ごし方とかには積極的なこの世界の女性でも流石に男の欲望のみに使う魔法は嫌悪されるだろうな。嫌、のみではないんだが、どうしてもその使い方を一番に考えてしまう男の
あ! そうだ!
「魔物を姿を写しとる魔法なんですが、それを見合いの絵姿に使えないかと思ったんですよ。それにサラの美しい姿も残せるなと思ったらにやけてしまったんです」
悪用という部分を無視した答えだがこれで納得してくれ。そうすればどこかでそういう写真が出回っても俺の発案だとは思わないだろう。誰かが悪用したんだと思ってくれるかもしれないからな。後は知らぬ存ぜぬで通せば何とか……?
「まぁ、美しい姿だなんて嬉しいですわ」
ちょろい! 女性というのはこういう事をいうと機嫌が良くなるからな。だからと言って決して女性をバカにしている訳ではないからね。前世の外国人は女性をナンパする時に褒めちぎるというからね。それと同じだよ。
サラの機嫌が良くなったのでそれ以上の追及は無くなったので、この先の事は今度フランクと二人だけの時にしよう。絶対食いつくはずだから……。
そんなこんなで危機を脱した後、漸くユートピアが見える位置まで来た時、俺は自分の前に広がる光景に息をのんだ。
一番初めに訪問した村から見える範囲の水田には小麦色のじゅうたんが広がっていた。ここでこれなら仮の城壁の先に作った水田も同じような状態の可能性が高い。後は近くで観察して稲穂に身が入っていれば豊作確定である。
その確定が意味することは念願の米が食えるという事! 尚且つ日本人なら絶対やりたいTKGも出来るという事だ!
もうそうなっては我慢など出来ない。皆には悪いが皆が追い付けない俺の最高速で村に一人で向かった。
「こんにちは。誰かいませんか?」
おかしい? 誰もいないみたいに静かだ。何かあったんだろうか? 村の中を誰かいませんかを言いながら歩き回ったら漸く一人の老女に会えた。
老女は家から出てくるなり俺を見ると土下座して来た。これがあるかもしれないと思っていたので、本当は静かに訪問したかったのだが、この状況では仕方ない。人がどこにもいなかったんだから。
「おばあさん、そんなこと止めてください。俺はそんなことされる身分じゃないですから。それにしても人がいませんが何かあったんですか?」
「これは宗主様。良くおいで下さいました。皆がおりませんのは宗主園の刈り取りに総出で出かけておるからです」
宗主園? 何だろう?
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