第269話 ミル村改造
「ルイーザさんまた村人を集めて貰えませんか、行商がてらこれからやることを皆さんに話して了解を得たいので。それに参加する人も募集しますから」
「まぁあんたの好きにするがいいさ。あんたは悪い人じゃないからね」
ルイーザには前回この村をどういう風にしたらよいか話をしているし、具体的に牧畜の話までしているから快諾してくれたが、今回は改良馬車も持って来ているから村の人達は行商が来たと思って、ルイーザが集める必要がない程に早く集まって来た。
改良馬車は今回は改良牛車になっているけどね、オックスに牽かせているから。
それも村人にはインパクトがあったみたいだ。馬車を馬以外の魔物が牽いているのだから驚いて当然。ましてオックスなんていう魔物を見たこともないし、聞いたこともないだろうから驚きと興味の半々かも知れないが……。
この村での牧畜計画の要であるオックスですが、ひとつだけ重大な不安要素がある。それは何と言ってもオックスが暑いのを嫌うからです。暑さを嫌って北上する魔物ですからね。それがこの南国フリージアに定着できるかが計画の成功のカギを握っている。
今回連れてきたオックスはその中でも暑さをそこまで嫌がらなかった物を選んで連れてきてはいる。当然魔物にも個体差はあるから、そういうのもいる。
それとこのミル村は山脈に近いから標高が高い位置にあるので、気候的にはフリージアの中でも涼しい方で魔素が少し濃いから何とかなると思ってはいるが、こればかりはやってみないと分からない。
村人に行商を一通り行った後に今回俺達が来た目的を話して、これからの一週間で牧畜と養鶏の基礎を教えると説明した。その他にもこの村に不足している技術力なども基礎を伝授するから学びたい人は立候補してくれとお願いした。
他にも用水路の工事もするし、村全体の防備を固める為に木材で壁を作ることも説明した。この村の周りにはそこまで危険な魔物はいないが、これから先この村が発展したら良からぬことを考える輩も出る可能性はあるから備えておくに越したことはない。
説明を聞いた村人たちは殆どが半信半疑の様ではあるが、中には積極的に参加を希望してくれた人もいた。まぁ現状が変われば、気持ちも変わるでしょうから、今はこれで良いでしょう。
特に参加を希望した人たちは専門的技術を身に付けたい、スキルを発現させたいと希望する人たちが多かった。この世界の悪習慣だった子弟制度の影響でこの村には極端にスキル持ちが少ない。持っている人でも高齢な人で弟子に入らなかったが自己流で何十年も試行錯誤してやっと手に入れたという人。
それがスキルには発現条件があるからそれを重点的にやれば良いだけだと言われれば、手に職を付けたい若者は希望してくる。中には読み書き計算を覚えたいという人もいた。このミルはラロック以上に辺境なので読み書き計算すら出来ない人が多くいる。
「それじゃ皆さん打ち合わせ通り各自の分担通りに行動してください。村の分からないことはルイーザさんに聞いて臨機応変にお願いしますね」
「あなたそれじゃ私達もやりましょうか」
「そうだね先ずは用水路から始めますか。牧畜、養鶏には水が必要ですからね。ついでにスライム養殖場の準備だけはしておきますか」
この村まで俺が開発して広めたものがまだ届いていない。特許制度も国際的にしたのにまだ広まらない。特にスライム系統は広まっていないな。広める為にはスライム養殖場が必要だから理解も出来るけど、かれこれもう俺が転移して6年以上経っているのに……。
これってやはり情報の伝達手段がないことが大きな理由なのかな? この世界では手紙か直接伝えるしかなかったからな。漸く改良馬車や冷蔵、冷凍輸送が出来るように成って物流や人の動きは変わって来たけど、それでもそれが本格的に出来ているのはエスペランス王国とグーテル王国だけだ。
他の国では国の動きが遅いのと情報が庶民に迄行き渡っていないから、変えようとする人が現れない。実際この村でもこういうことが出来ますよと教えただけで、何人もそういう人が現れた。
商業ギルドは大陸規模なのに、情報伝達能力が劣っているから役割を十分に果たしていないな。それは冒険者ギルドも同じような状況だから両ギルドとも不正がはびこってしまった。
ただその解決策はある。クルンバやアクイラなどを使った情報の伝達なんだが、これを世界に広めると軍事的に有利さを持てなくなる。動乱の世の中が来る可能性があるから気安く広められないというジレンマがある。
それは魔法も同じなんだが留学生には教えているからそこまで気にすることはないのかとも思える。しかし、秘匿していることもあるからな……。
属性魔法が後天的に発現するという事は物凄く戦略的にアドバンテージになる。それ以外にもまだまだ秘匿している事はある。今回全ての事を国に丸投げしたことで、これまで公開していないものまで国は把握した。その結果が俺達の秘匿だ。
こう考えるとやっぱりミルもユートピアに併合した方が良いのかもな……?
どの道この村は国から見捨てられている。税金だけ取って何もしてやっていないのだから、話の持って行きようではビーツ王国のような事にはならないだろう。でもそうなると王様かカルロス辺りに動いて貰わないといけない。
動いてくれるかな……?
そう思うだけでカルロスの物凄く嫌そうな顔が目に浮かぶな。俺達を秘匿している意味がなくなりかねないからな。
国との会議の終わりにくれぐれも余計なことはせず、報連相をしてくれ的なことを言われたからな。ユートピアの件は知らぬ存ぜぬで何とかなったけど、それは俺が変装して異国の人を演じたから出来たこと。
しかし、それは争いを前提にした交渉に成る可能性が大きいから出来るだけしたくない。でも王様やカルロスに依頼するとユートピアとエスぺランスの関係がバレてしまう事にもなるな……。これじゃどっちもどっちか?
そうなるとエスペランスを巻き込まない方がいいかな? 必殺の黒騎士登場がベストかもしれない。好条件を初めから提示すればいらない村くらい手放さないかな?
税金を取るより国にとって良い効果をもたらす事を証明できれば、余程頭の悪い国王で無ければ条件をのむだろう。幸いこの村は現状殆ど人は来ないから、その間に隔離してしまっておけばもし争いに成っても、ビーツ王国のように出来る。
何だか世界征服でもしそうな状態になって来たな……。
「あなたまた恐ろしいことを考えてますのね。まぁそれぐらいは覚悟していますから好きにされたらいいと思いますけど」
「聞いていました?」
「はい、何時ものように」
考え込むと口に出る癖は本当にどうにかしよう。この旅の間に絶対誓約魔法を完成させて自分自身に使おう。ん? 誓約魔法? 制約魔法でも良いのか?
この二つは似ているようで意味は違う。行動を制限するだけなら制約魔法で十分。どちらにしても奴隷を作ることは出来るけど誓約魔法で無ければ罰はない。
おぉ~~、良いことを思いついた。これも俺だけが知っていれば良いことだから奴隷云々の事を気にする必要もないな。これってティムの魔法と似ているな。行動を制限するけど、罰は無いからな。
それから一週間で村の周りには木製の壁ができ、村の中や周辺には川から引いた用水路も完成していた。村で個別に講義をしていたメンバーも基礎の基礎とも言うべきことは教え終り、オックスとガルスの育て方やバターやチーズの作り方まで教え終わった。
始めのうちは少人数だったのに、最後には村中の人が協力的に成り、熱心に学ぶ人も増えていた。
「ルイーザさん、今回の村の改造は此処までですが、今後もちょくちょく訪問しますからそれまで、今回学んだことを続けていてくださいね。それに例の話も考えておいてください」
「あぁ分かったよ。あんたがほら吹きではないことは十分わかったから、この村の為になるなら考えるさ」
「あぁそれと言い忘れましたがこの村から少し離れた所に溝を掘っていますから買い出しに行くことは出来ませんよ」
「な! なんだって! それは……。困らないか」
「そうですよ。もう買い出しに行く必要がないくらいの物資はあるでしょ。それにどうしてもという事に成ったら例のあれで連絡してください」
今回行商もしたが、それ以外にもルイーザの家に大量の物資を置いている。村人が半年は生活できるほどの小麦や塩など保存できる物を大量にね。それとクルンバも一羽預けている。何かあった時用の連絡手段としてね。
「それじゃ、近いうちにまた」
「またおいで、待っているよ」
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