第250話 そうだよね
久しぶりの野営も意外に楽しく三人で夜遅くまで結婚式の話などして夜を明かした。
結界の魔石を持っている俺達だから出来る気楽な野営だが、まだ世の中にはあまり広まっていない。
付与術を使った結界の魔石なら作れる人が限られるが、魔法陣を使った結界の魔道具なら、量産も出来るから販売も出来ているが何故かそこまで需要がないのです。
それは魔境以外なら殆ど必要がないからです。通常の場所での野営なら今まで通り交代で見張りをすればお金を掛ける必要がないので、単独の人以外は冒険者も商人もあまり買わない。
その代わり、貴族には売れているんですよ。それも高額な物がです。屋敷全体をカバー出来るような大きな結界の魔道具です。当然それに必要な魔石も大きなものになるのですが、貴族ですからそれが可能なのです。
勿論、ひとつで屋敷全体をカバーなど出来ませんから、それなりの数が必要になりますが……。
それじゃなぜ、庶民には売れないのか? ただ単に必要ないからと思うでしょうが、そうじゃないんです。それはそれなりの値段がするからです。でもこれって悪循環の賜物なんですよ。
前世の歴史でもそうですが、最初は結構な値段がしていたものが、段々安くなるという現象。そう白物家電でも初めは高かったですが、沢山の人が頑張って買うようになったことで、技術革新も進み、大量生産できるようになったことで安くなりました。
それがこの結界の魔道具では出来ていないのです。生活に必要な照明の魔道具のようなものは普通に売れるのですが、結界の魔道具のように使う人が限定される魔道具は数が売れないから安くできない。
これが前世のように、ホームセキュリティーのような使い方をするように成れば数が出るんですが、如何せんこの世界ではその必要が殆どない。
庶民の家に泥棒に入るような人がいないんですよ。だって基本町や村は囲われていますから、逃げようがないんです。それに盗んだものを販売するのにも危険が伴う。一般庶民でも持っている高額な魔道具ならと思うでしょうが、全ての魔道具にはシリアルナンバーが振られているので、直ぐに盗品だとバレルので割に合わない。だから盗賊も町や村の外でしかそういう行為を行わない。
これじゃ一般庶民には売れませんよね。盗品売買を防ぐ意味でシリアルナンバーを入れるようにした俺の発案がこういう場面では裏目に出てしまっている。
まぁそれも今の内だとは思っています。この世界の文明が進んだり、この世界の人の平均レベルが上がってくれば、色んなことが変わって来ますからね。良くないことですが、その変化には治安もはいっています。
清々しい森での朝を迎えて
「おはようございます。今日は山までの道を造るんですよね」
「今日は予定通り道を完成させて、ユートピア側に行きます」
それから始まった道路作りは、驚愕ものでした。森の木の伐採はサラがやる気満々でMPポーションまで多用して、こちらが引くぐらいのペースでやっていくんです。それに触発されたのか、エリーまで風魔法の練習をしてるのですから、俺の周りの人達は性格というか人間性が変わって来てしまっている。
そんな感じでしたから、俺が少し手伝っただけで予定より早く道路は完成してしまった。あの村までは結構な距離があったのにこんなに早く完成したのは、あの村に行く時もサラは練習だと言いながら、邪魔になった木を切り倒していたから、それも早く完成した理由です。
「流石に今日は疲れたでしょう。予定通りではありますが、こんなに早く出来上がるとは思っていませんでしたから、まだ時間は早いですが、ここで野営をしましょう」
「まだまだ大丈夫ですよ。もう少し先まで行ってから野営しても」
嫌々、ユートピア側はすることないですからゆっくり行きましょうよ。今からガルスの捕獲は無理ですから、そんなに急ぐ必要はないんです。
「ガルスの捕獲は今からだと中途半端になりますから、明日朝からでいいので、今日はこの辺でゆっくりしましょう」
「ユウマさん、それなら尚更近くまで行ってそこで野営した方が、効率が良いじゃないですか」
何だなんだ、サラが物凄くやる気満々だけ? その状態のサラを不思議そうに見ていたら、エリーが俺の近くに来て小声でその理由を教えてくれた。
「ユウマさん、お嬢様があれ程やる気なのは、ルイーザさんに教えて貰ったことがあるからです」
何を教えて貰ったらあぁなるんだ? エリーに詳しくその説明をしてもらったら男の俺には呆れる理由だった。
それは卵白パック、そう美容に役に立つそうだ。内容は気に成ったので検索してみたらこんな感じ。
卵白を指でクルクルとかき混ぜて、そのまま肌の上に乗せるだけ。 そのあとにいつもの化粧水をつけると、グングンと肌の中に入っていき、肌がしっとりと潤うのを実感できます。
嫌々、何だか最近の俺の鑑定EXの検索が、前世のAIの回答のようになって来ている。しかし、ルイーザも良くそんなこと知っていたな? あの村にはまだ化粧品はそんなに普及していないだろう。
あ!そうかその逆だ。普及していないからこその知恵なんだ。米ぬかを良く触る人の手がスベスベなことから米ぬかから化粧品が作られたのと同じだろう。
エミュの玉子を良く使う人が、偶然手かどこかに着いた卵白を洗い流したら肌がスベスベになったという落ちじゃないだろうか?
しかし、サラはまだ若いし、レベルも高いからそんな事気にすることないんだけどな。そう思っているとまたエリーが。
「ユウマさん、結婚式が間近の女性はそういう事に敏感なんですよ。一生に一度の事ですから」
まぁ確かに女性にとっては一生に一度の大舞台だもんな。前世でも結婚したことがない俺には全く分からない世界だ。
でもその話ってエミュの玉子の話だろう、ガルスの玉子の卵白でも同じ効果があるとは限らないんじゃ……。
そしたらまたエリーが。
「ユウマさん、それは言ってはいけませんよ」
おいおい、何で俺が考えていることが分かった? サラは時々俺の表情を読んで俺の考えていることを見透かしたように言うことがあるけど、エリーにまで読まれるなんて……。俺ってそんなに顔に出るの? 考えていることが……。
嫌そんなの無理だろう。いくらなんでも顔に書いている訳じゃないんだから。今回は俺の癖の無意識に口走るもやっていない。それなのに……。サラとエリーはそんなスキルでも持っているのか? 鑑定では分からないスキル。
そんなのあったら、マジこえ~~、絶対この二人には隠し事できないぞ。サラのこの読唇術みたいなのはエリー譲りなのかも? それなら納得できる。
そこまで聞いてしまったら、止めると良くないというのが必然的に分かるから、サラの希望通り、もう少し進んで明日朝から直ぐに捕獲できるようにしよう。
そうと決めれば休憩後にまた移動を開始し、ユートピア側の山を少し下って、例の魔力反応が多くあったところを目指した。
「ユウマさん、魔力反応が物凄くあります。一つ一つは小さいですけど物凄い数ですよ」
「俺の索敵に物凄い数の反応があります」
でもこれ全部ガルスのものか? ガルスらしい反応よりもっと小さい物もあるぞ。そんなことを考えながら、その目的地に近づいた時に全てがはっきりした。
そこにいた? あった? まぁどちらもなんだけど、その反応の正体はガルスとその玉子だったのです。
「ユウマさん、あれ玉子ですよね」
「はい、恐らく……」
何で俺の反応がこんなにテンションが低いのか? それは……。た・ま・ご・の……、色! 俺の期待していた白でも赤(茶)でもない。き・い・ろだったのです。それも原色に近い黄色。
それだけでもかなりのショックなのに追い打ちを掛けるように、まばらだが、その玉子の中に水玉模様のように黒い点があるものがあった。
正に、前世の草〇 彌〇のアートの様な模様。そんな玉子だよ、俺のテンションが下がるのも無理ないよね。
アートじゃないんだよ! 人が食べるた・ま・ご! こんな事思っていると段々腹が立ってきた。でもこれがこの世界の常識。その常識に腹を立ててもしょうがない。
そうなんだよ。此処は異世界なんだよ! それを改めて痛感させられてこの日の移動は終了した……。
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