第261話 三者会議
転移の魔法陣を発見してしまった俺は、この事をサラに告げるかを一瞬迷ったが、どのみちこの魔法陣で地上に帰るのは確定なんだから話すことにした。だってまたこの最深部から走って帰るなんて時間の無駄でしかない。
おっと! その前にもう一つ確かめることがある。普通最深部、ダンジョン踏破と言えばお宝でしょう。何もないなんて言う事があったら、俺以外の他の奴なら怒りで核を壊しかねない。命を懸けて到達した場所に何もご褒美が無いというのはこのダンジョンの仕組みからしてあり得ない。
そこで俺は此処に到達した人間なら当然祭壇の核に目が行くだろうが、敢えて俺はその奥に目を向けた。祭壇に近づけば直ぐに気づく場所だが遠くから祭壇を見るだけでは分かり辛い場所に大きな宝箱が置いてあった。
あれ? この魔法陣もしかしてトラップの役目もしていない? 真っ直ぐ祭壇に近づけば必ず魔法陣の上を通るから、ダンジョンが生き物だと考えれば、侵入者全員が魔法陣に乗った瞬間発動するなんて言う事も出来そうだ。
「サラ、エリーさん、今から言う事を良く聞いて指示通りにしてください。詳しいことは帰ってから全て説明しますから、今は何も聞かず指示に従ってください」
「ユウマさんがそこまで言うからには何かあるんでしょうから指示通りにします。婆やも良いわね」
「はい、お嬢様」
俺の指示は単純だ。魔法陣の上に乗らずここで待機、それだけだ。宝箱の回収も核の観察も全て俺一人でやる。転移トラップ程酷いものは無いだろうから三人で近づいても良いのだが、もしもという事もあるから俺一人で対処することにした。
力だけで踏破するような人間にもし宝箱の中にある物が悪用されたら何が起きるか分からない。宝箱に何があるかは分からないが、既存のダンジョンからは最深部でもないのにマジックバックなどが出る位だ。最深部だとどんなものが出るか分からない。
そういう時の為のトラップだと考えれば、思慮深いか用心深い人間ならそう悪用される可能性低いと判断しているのかもしれない。だから一人で行くことにした。
魔法陣を迂回して、先ずは祭壇に近づき祭壇周りを鑑定、トラップなどがないか調べた。次に核自体を鑑定。その瞬間、俺は即座に鑑定を中止した。鑑定を開始したと同時に膨大な量の情報が表示されると同時に俺の脳内にも流れ込んできたのだ。
恐らくあのまま止めないでいたら俺の脳は壊れていただろう? その位膨大な情報量だった。
不用意に鑑定などした俺がバカだった。生き物の情報だよ。それも何千、何万という歳月を生きている一種の魔物の記憶でもある物だという事を忘れていた。自分でダンジョンの頭脳だと言ったのにそれを忘れるなんてどうかしている……。
しかしこれによってまた一つ魔法のヒントを得た。これを研究して上手く使えるように成れば、人の記憶を読み取ることも出来るという事です。かなり研究する必要はあるでしょうが、条件を絞っての記憶の抽出は可能ではないかと思います。
俺が鑑定EX持ちだったからこのようになったけど、これが習熟度の低い鑑定持ちならダンジョンの核とだけ表示されたかもしれない。時と場合によってチートも不便になるという戒めかな?
核以外には他に何も祭壇には無かったので、目的の宝箱を鑑定もせずインベントリに回収してその場を離れ、サラ達の所に戻って来た。
「サラ此処でやることはもう終わりましたので、地上に帰りましょう。詳しい調査は次回のお楽しみという事で良いよね?」
「調べたいという気持ちはありますが、やるならとことんやりたいので、今回はこれで我慢します」
「それじゃ二人は手を繋いで俺がサラの手を引くからそれに合わせて付いてきて」
俺の言うのように二人が手を繋いだのを確認したらゆっくりとサラの手を引いて三人で魔法陣の上に乗った。その瞬間辺り一面が光り出し目をつぶってしまったが、次に目を開けた時には俺達はダンジョンの入り口ではなく海の中だった。
そう本来なら地上にあるはずの魔法陣が現在は海の底にあるのだ。なんでこういう所は律義に守るのかね~~~。まぁ冷静に考えれば魔法陣から魔法陣というのがセオリーなんだから、当然の結果と言えばそうなんだが、それにしても急に海水に体に触れれば、嫌がおうにも目を開けることになって現状の把握が早く出来たのだから全て悪い結果とも言えないが……。
現状に気づいた三人は当然のように海上目指して必死に泳いで浮上。浮上した場所はなんと島から10mも離れていなかった。その時の俺達の気持ちは10m位なんとかしろだったが、こればかりはどう言っても変わらない現実。
ダンジョンが生き物ならこの事を知らない訳がない。絶対わざとだ。許すまじダンジョン核。今度、核に接触できる機会があれば転移陣の位置を改変できないか挑戦してみようと俺はその時心に誓ったのだ、仕返しに何かすることも含めて。
地上に戻った俺たちは、先ず濡れた衣服を乾かし、休息をとることにした。帰還した時間が太陽の位置からもう午後を過ぎているようだったので、これから帰るより、ここでもう一泊して帰る方が良いだろうと言うことになったからだ。
正直、色んな意味で疲れていて、これから帰るというということに心も体も拒否していた。
結界を張ってダンジョン調査に向かったので、テントも全てそのままして行ったから、特別準備することも無かったので、エリーにお茶を入れてもらって一服しながらダンジョンで約束していた後から話すと言っていたことをサラ達に話した。
転移魔法陣に乗っての帰還だから、魔法陣については説明する必要はないんだが、これの使い道については別だ。
「サラ、エリーさん、もう分かっていると思いますが、あの魔法陣は転移の魔法陣です。そして魔法陣は複製できます。ではどのような使い道があって、その結果何が起きるか分かりますか?」
「あの一瞬で地上? に帰れたのですから人や物を一瞬で移動できる魔法陣と言うことですよね。でも使い道と急に言われても何に使えるかは分かりません。いえ、分からないというか使い道が多そうで何かに絞れないと言った方が良いかもです」
「そうですね。人や物の移動と言えば物流だけですが、単純にそれだけの利用では収まらない。俺が一番に考えたのはダンジョン内での移動に使えないかでした」
「ダンジョン内の移動? あ!そうですね。ダンジョン内で移動が楽になれば人も物も簡単に移動できるから、ダンジョンからの資源をもっと回収できますね」
それはそうなんだが、逆に今度はダンジョンの性質というかダンジョンが生き物だということで、弊害も出る。
「サラ、それはそうなんですが、ダンジョンは生き物ということを考えてください」
理解するにはまだ情報というか知識が足りないよな。ダンジョンが生き物であって、自分である程度スタンピードの調整もしているし、自己保身も行っているということを……。
弊害の一つは、ダンジョンを資源として見る冒険者ばかりならいいのだが、ダンジョン踏破やレベル上げを目的とする冒険者が転移陣の影響で増える可能性もある。そうなるとダンジョンは自己防衛のため階層ごとの魔物の強さを変えてくるかもしれないし、深度を変えてくるかもしれない。
現状はバランスが取れているから何も問題ないが、このバランスというかダンジョンの制御が遅れたりしたら、スタンピードも起こりかねない。
もしもだがダンジョンを踏破するような冒険者が出たとして、ダンジョンが生き物であり、神様の贈り物であると言うことを知らなければ、ダンジョンコアの破壊や持ち出しをやりかねない。
しかし、これも物凄い発見であるが、これを公表し証明するにはこの島やダンジョンのことを公表しないといけなくなる。これが二つ目の弊害。
サラ達に俺が考えている弊害について話したら、二人とも黙ってしまった。
「そうなる可能性は十分にありますね。でもこの魔法陣は物凄く有用なものです。これを使わないというのも勿体ないです」
「さようですね。ダンジョンは抜きにしても一瞬で人や物が送れるように成れば物凄く便利な世の中に成ります」
「エリーさん、それはそうなんですが、俺の予想では地上で転移の魔法陣を使うには膨大な魔力が必要だと思うんですよ。ダンジョンの中だからダンジョンの膨大な魔力で普通に使えますが、外だとそうは簡単に使えないと思います」
「ユウマさん、それならなぜそこまで心配してるんですか? ダンジョンの移動に使えば問題が起きるなら、このまま公表しなければ良いだけですよ」
サラが至極簡単な答えを言ったのだが、俺としてはこの転移の魔法陣は出来れば活用したいから、二人の意見も聞いてみたのだ……。
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告知 明日朝7より新作公開いたします。
「ドワーフ転生 物作りは楽しい」
初日5話一挙更新 その後は毎週土曜日更新となります。時間は朝7時これは変わりません。
宜しければこちらもお楽しみいただけると幸いです。
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