第262話 優柔不断

 三者会議も結局良い結論が出なかったので、この話は持ち越しと言うことで、その日はエリーとの戦いもなく素直に、別々に就寝することになった。


 だが俺は今回の発見はこの先のこの世界の発展に絶対不可欠だと思い疲れていたが、寝付けず、深夜まで色々考えていた。


 サラの言うように転移の魔法陣のことを公表しなければ何も問題は起きないし、現状が維持できる。だが、俺はこれもヒントではないかと思えてならないのだ。


 科学の知識をこの世界に持ち込めば、それなりにはこの世界も産業革命が起きるだろう。だがそれの根源となるものが違うのだ。前世なら石炭や石油、電気、核分裂というエネルギーを使って進歩してきたが、この世界では似たものはあるが、根本的に違う物がある。そう魔力=魔素だ。根源となるエネルギーにこの魔素が大きな役割を果たせるのだ。


 だからこの世界の産業革命には絶対と言えるように魔素が大きな影響を与えるものでなくてはいけない。それは魔法であり、魔法陣でもある。


 実際魔法陣がこの世界の文明を少し進めている。だがそれは前世の科学を基本に考えたものだ。ですが今回ダンジョンで見つかった保存の魔法陣は魔法が根源にあるもので全く違う。


 エネルギーは魔素でも根本は全て魔法を基本にしなくてはいけない。科学を基本にすると限界が直ぐに来るが魔法を根本にすると魔法はイメージですから限界が少なくなる。


 今回の発見でそれを痛感した。今までは前世の知識のアニメや漫画の知識に対してもそこで制限を掛けていた。科学の知識が出来るのか? 世界が許すのか? そういう気持ち的な部分で制限を自分では意識していなくても掛けていたように思う。


 保存の魔法、これって科学を完全に無視している魔法。ティムの魔法でも精神干渉だから、暗示や催眠術の類の様に感じながら制限を掛けていた。


 それをはなから魔法なんだから何でもできるという考え方だったら、制限を掛けないからイメージも自由になって、魔法の開発も簡単に出来たかもしれない……。


 学校でも魔法はイメージと教えているのに、どうして俺がそれに制限を掛けているのか? 


 もっと自由でいいじゃないか! ティムの魔法でも意思疎通ができるように出来ないか考える事をなぜやめる。本当に俺って優柔不断で何処か臆病だ。


 慎重にやっても結局戦争に成りかけたし、国同士で揉め事は起きている。それならいっそのこと公表できることは全て公表して、後は成り行きに任せてもいいんじゃないだろうか? 国内的にはもうビクターにはある程度公表しているから、当然今後国中に広まる。その結果今度は大陸中に広まっていくのだから、なるようにしかならない。


 前世でも、大航海時代、産業革命後には奴隷制や大きな戦争は起きている。この世界は歪に発展したから、これまでそういう事が無かっただけで、これからは当然起きてもおかしくない。ユートピアを作る時でさえ多くの犠牲者を出している。


 どんなに気を付けても人間というものはどの世界でも変わらないから、同じようなことは起きるのだ。そうならないようにすることばかりに気を使っていては世界の発展はかえって歪なものに成るかも知れない。


 戦争があるから、人は平和を強く望む。人というのはそういう生き物であるが、またそれを忘れる生き物でもある。歴史は繰り返す。どんなに俺があがこうと一人では世界の変化を止めることは出来ない。それなら徹底的にやって世界の覇者に成れば世界を自由に出来る。


 物凄く物騒な考えだが、前世でも地球人なんていう考えがあったように、この大陸、いや、最終的にはこの世界全てを一つにまとめれば少なくとも大きな争いは避けられるんではないかと思う。


 それにはまず俺がこの大陸の主導権を握る必要がある。以前から考えていた影のフィクサーを本格的にやる必要があるな。表向きは温和な人物であるように見せておきながら、陰では暗殺などもこなす人間に成らなければいけない。


 これからは本当に覚悟を決めてやっていこう。スローライフは全てが終わってからだ……。


 俺もこの世界に染まって来たのかな? 前世の感性は残っているが、それとは違ってきている。これはこの前の大量殺人が影響しているかもしれない。前世ならどんな理由があっても殺人と言うことは否定される。死刑でさえ否定されていた時代だ。


 それがこの世界ではまだそんな感性はない。それなら俺もそれに慣れて行かないと、この世界ではやっていけない。この先形式上でも世界を征服するんだから……。


「おはようサラ、昨日はよく眠れた? 疲れていたからすぐ眠れたでしょ」


「おはようございますユウマさん、それが……」


 なんだやけに歯切れの悪い返事だな。


「お嬢様、昨日ご教授したことは良く復習して、結婚初夜に失敗しないようにして下さいまし」


 OH! NO~~~ なんていう事をしてくれているんだよ。昨日はやけにすんなり引き下がったなとは思っていたが、これの為だったか。本当に貴族の令嬢というのは大変なんだな。庶民はそんなことないんだろうなとその時は思っていたが、後日フランクに聞いたら、庶民でも母親が娘に似たようなことをしているそうだ。


 子供が長生きできない世界だったから、子供を沢山作ることも本当に大事な事だったから、そういう習慣が根付いたらしい。


「それはさて置き、昨日の魔法陣の事ですが、公開することにします。やり方は考えますが公開することは決めました」


「何をさておきなのか分かりませんが、公開することに決めたんですね。でも弊害の方はどうするんですか?」


「それですが、そういう事が起きるかもしれないということも含めて公開するつもりです。それを公開しても信用するかしないかはそれぞれの国が考える事で、俺たちが干渉することではないと思います」


「それだと多くの人に被害が出る可能性がありますよ」


「そうです。ですから公開の方法としては先ずはエスぺランス王国とグーテル王国の二か国だけで公開します。そこからはその国の王家がどうするかに任せます」


 これは責任を王家に丸投げすると言うことです。発見したことは報告するがそこから先は国の主である国王が決めればいい。そこでもし失敗してもそれは王の責任。その責任を攻めるつもりはないが、その失敗を俺が終息すればその国に対しての俺の影響力は数段上がる。


 恩を売って言うことを聞かせやすくするという事です。物凄く卑怯なやり方の様に思うだろうが、これぐらいやらないと短時間で実権は握れない。これは最悪な場合の時であって、国王が上手く運用するかもしれない。それならそれでもいいのだ、それでも恩を売っていることに変わりないから、発言力は着実に上がるからそれでも問題ない。


 その後国外に情報が出た後に起きる事で俺の影響力が増す可能性もある。国によって対応は違うだろうからね。そうやって世界は変わっていくだろう。これからは産業革命的な事だけでは収まらない。本当の意味で世界は変化する……。


「まぁ出来るだけ弊害が起きないように出来るだけ詳しく公開するつもりです。それでも信用しなかったり、やり方を間違えるのならそれはその国の国王や国民が間違ったと言うことです」


「それって国民にも知らせると言うことですよね?」


「えぇ、学校でも教えますから二か国だけと言っても情報としては大陸中に伝わるでしょうね。正式に俺が報告するのは二か国だけと言うことです。俺と親戚関係になる二か国には正式に報告します」


 結婚式では両王家から当然ビクターから伝わったことも聞かれるだろうし、相談もされるだろう。その時に公開すれば全て丸投げできる。


 俺の目指す影のフィクサーは指示を出すフィクサーではなく、後処理や事前準備をするフィクサーになるつもりです。実際に世界を動かすのはそれぞれの国、それが間違った方向に行きそうなら妨害するし、間違ってしまって何も罪のない人に被害が出そうなら、出来るだけ助ける。


 それを人知れず行う影のフィクサー。 前世のアニメ〇〇の実力者のような感じかな? やっぱり違うかな……?

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