第260話 ダンジョン最深部
「サラ、エリーさん理解出来ましたか?」
「ダンジョンとはそういうことも兼ねている物だったんですね」
「その事にもっと昔の世代の人が気づいていればこの世界は物凄く違っていたんでしょうね」
この世界というかこの大陸はだけどね。まだこの世界の他の大陸の文明を知らないから、本当の所は分からない……。
サラとエリーにガラス瓶に施されている保存魔法についてやこの島にある物、これまで俺が発表して来たもの等との関連を話していった事で、ダンジョンにはこの世界を発展させるためのヒントが隠されていると分かった後の二人の感想だ。
エリーの言葉を要約すれば、過去の権力者が独占せずにそれを研究させて増やそうとすればもっと変わっていただろうという事。なんにしてもそうだ。恐らく神様は何度も色んな方法でヒントを与えてきたんだろうが、それが歪に広まったから今の世界がある。
特にこの島が大陸から離れなければもう少し違っていたことは確かだ。最低でも付与という概念は伝わっていただろうからね。
この事も世の中に公表すれば世界は変わるだろうか? 変わる可能性はあるが一つ懸念もある。ダンジョンはそれぞれの国にあって、全てが同じではない。違いがあるという事は結果として争いをもたらす可能性がある。
前世の資源がそうであったように……。
今はその事は考えるのはよそう。一人で考えたり、急いで判断する事でもない。兎に角今は目の前の事を処理するだけ。ダンジョンの調査を完了する事!
「サラ、エリーさん、この先は分かれ道があっても行き止まりには行きません。兎に角一度最深部迄到達することを最優先します」
「そうですね。その方が良いと思います。全てを調査するとなるとそれだけ多くの時間が掛かりますし、結婚式までそれ程余裕がある訳ではないですからね」
「それじゃ、戻って正規の通路を直線的に進んで最深部を目指します」
俺はこのダンジョンの構造を地図魔法で把握しているから、これだけはっきり最深部に到達できると断言している。正直このダンジョンは深くないのだ。
サイラス達から聞いている話だと、この大陸のダンジョンはかなり深い。それなのに深い階層に到達して魔物を駆除しなくてもスタンピードは起きない。これはダンジョン自体が深くなることに魔素を多く使っているという事。
このダンジョンも魔物の放出というスタンピードを起こさなければもっと深くなっていたかもしれない。この言い方は語弊があるかな? 魔物が駆除されればダンジョンの深部に人が来る可能性があるから深くする。だがこのダンジョンは人が来ない、だから深くする必要がない。だけど魔素が余るから魔物を多く生産すると今度はその数の増えた魔物が魔素を吸収してダンジョンが魔素不足に成る。
それを防ぐためにスタンピードを起こして魔物を間引く。大陸から離れたダンジョンならではの自浄作用とでもいえば良いのか?
こう考えると、今回このダンジョンの最深部に辿り着ければ、この世界のダンジョンの秘密、仕組みが解明される可能性が多いにある。あくまで今俺が考えているダンジョンの仕組みは仮説の一つにすぎないからだ。
それからの移動は始めと同様にエリーを俺が背負って、ひたすら最深部に向かって走り抜けた。途中出る魔物は出来るだけ無視して、どうしようもない時だけ三人のうちの誰かが討伐するという。正に物凄く効率の良い方法でだ。
「この門って最深部という事でしょうか?」
「そうです。この先にはもう広くなっている部屋があるだけです」
此処まで来て思ったのだが、何故神様はダンジョン定番の階層主や階層ごとの転移陣を設けなかったのだろう? 考えられるのはこの世界のダンジョンは人類の為の食糧庫であって、前世で良くあったような魔素が作り出した一種の自然現象でもなく、魔族の魔王が管理してる物でもない。
人を排除するのが目的ではない優しい作りだという事。それに甘えて人間が進歩しなかったから、死人が出ているだけのこと。
魔境の森だって一種のダンジョンだと思えば、人間が進歩してればもっと資源を確保しているだろうし、人の寿命も延びている。
神様の手の差し伸べ方が間違っていたのか、それとも人の考え方が間違っていたのか、そこは判断し辛いが、その結果が今だという事は分かっている……。
「それでユウマさんこの中には魔物はいるんでしょうか?」
「良い質問ですね。その答えはいますです。ですがという注釈が付きますが」
この時点で俺は推測できていた。魔物と言えばそうなのだが、動かない魔物なのだ。だからサラの質問の答えはいるに成る。だけどその本当の答えはこのダンジョンが魔物そのものだという事。そして最深部にあるのが魔物でいう魔石に該当する核、ダンジョン核、ダンジョンの頭脳だと……。
そこで門の中に入る前にサラ達に俺の仮説を話してみた。ダンジョンとは魔物そのものではないかという事を。
「ダンジョンが生きている!?」
「そう言われるとこのダンジョンに来てからの事やこの大陸にあるダンジョンと比較すると納得できることが多くありますね」
サラは若いだけあって単純にダンジョンが魔物という所に食いついたが、流石にエリーは長く生きているからなのか、自分の持っている知識と経験から物事を判断している。
「それが正解だとすると核を壊せばダンジョンも死ぬという事ですよね」
「そうですね。俺の仮説が正しければそうなります」
「そうなるとこの部屋に入る意味はあるんでしょうか?」
そうなんだよな。核を壊す気がないなら入る必要はない。だけど俺は入る必要があると思っている。何故なら……、何度かあったあれです。入れ、入れと誰かに促されている気がするんです。
この中に何かがあるから入れと神様が仕向けている。こうなるともう確かめるしかない。核は壊さないけど入ってこの違和感の正体を確認しないと、この違和感は消えることが無いと何となく分かるから。
「ここまで来たんですから入るだけ入ってみましょう」
「ユウマさんがそう言うなら私は従います」
「私はお嬢様とご一緒するのが使命ですから」
サラは俺の妻に成る人だから当然の答えだけど、エリーの答えは従者の鏡であり、サラの第二の母? 祖母? そのものだね。
「じゃ、開けるよ」
門の先には想像通りの風景が広がっていた。部屋の奥には祭壇のように成った場所に大きな水晶のようなダンジョン核が鎮座していた。が!それだけでは無かった。俺はそう驚きはしなかったが、まさかここにこれがあるとは思いもしなかったので、驚きより嬉しさの方が勝っていた。
そう、そこにあったのは転移陣! サラ達はそこに魔法陣があるということは気づいてもそれが転移陣だとは思わない。何の魔法陣だろうとは思ってもね……。
そこは前世の記憶がある俺は最深部にある魔法陣は転移陣かトラップしかないと思う。しかし、俺は転移陣をもう作っているから見ただけでそれが転移陣だと判断できた。まだ最終的な完成とまでは行っていないが、何処でもドア的なものはもう試作できている。
ただこればかりはそう簡単には公表できない。俺が作ったなどと知られればとんでもないことに成るからね。だけどこの魔法陣の存在が明らかに出来れば、それを防ぐことが出来る。
まぁこのダンジョンを公表することが条件だけどね。此処にあったのなら、もしかするとというか、かなりの確率で既存のダンジョンにも存在する可能性はあるから、ダンジョンを踏破出来れば、公表もしやすくなる。
しかし、それをする為には結構な時間が必要になるから、これからの俺の計画では不可能なんだよな。正直余計なものを知ってしまったという感じなんだよ。無ければ無くても問題ないものだけど、知ってしまった以上俺の悪い癖だが使いたいんだよね。
物凄く便利になるからね……。
地上で使うなら結構な魔力が必要だろうけど、俺の予測ではダンジョン内の転移魔法陣は魔力をあまり必要としないと踏んでいる。もしそうだとすれば既存のダンジョンへの出入りが非常に楽になるし、素材の回収も大量になる。
マジでこれ大大発見だよ! どうしよう?
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