第259話 ヒント
スタンピードを経験した人間の精神状態がどう変化するかという記録が取れたのは良い事という事に無理やりにして、この通路の奥まで来た目的であるお宝がないか探すことにした。
「見た感じそれらしいものは無いですね」
「そうですね。ローストガルスの山はありますが、お宝のようなものは見当たりませんね。まぁ最初の分かれ道ですから当然の結果とも言えますが」
俺もサラも初めから期待していた訳ではなく、ダンジョン調査の一環だったからと自分に言い訳しながらそれぞれ言葉を発したが、本心はそうではなく負け惜しみ的ではあった。
「ダンジョンでは死骸は直ぐに回収ないし、解体をしないとダンジョンが吸収するはずですから、このまま放置で良いと思いますがどうしましょう?」
「それで良いんじゃないですか、回収するのも面倒ですし、この状態だと使えるのは魔石ぐらいでしょう」
そうか魔石は使えるんだよな。サラは普通の解体での魔石回収しか脳裏に無いから、この発言だけど、俺ならただガルスを回収するだけで、魔石の回収も出来る。
しかし、俺のインベントリの事はいくらサラでも今はまだ言えないし、エリーもいるからインベントリ内での自動解体は公表できない。流石にこれは絶対に俺にしか出来ないことだと思うんだよ。アイテムボックスとインベントリの最大の違いだと言えるのがこの機能だからな。
漫画やラノベではこのインベントリ内で製造まで出来るなんて言うのもある。まぁそういう場合はAIサポートみたいなのが付いている場合に多いのだが、俺にはそんなものないから、出来ないと思う。実際解体でさえ解体すると念じなければ回収した魔物はそのまま保存されているからな……??
まて! 念じれば出来る……? 嫌、流石にそれはないよな……。
でも……。俺の鑑定EXはどうなった。進化したよな……解析、検索、前世検索。
今、俺のインベントリ内にあるもので作れるものは沢山ある。材料としてだが……。
例えば現状使える解体でも、もしこの殆ど炭化したガルスから魔石以外に食べられる部位と念じて解体したら、出来るのだろうか?
見た目は殆ど真っ黒こげで炭化してるように見えるが中には表面だけで内側には食べられる部位が残って入いる可能性もある。物は試しだ!
「サラ面倒だけど魔石はもったいないから、回収だけして後で取り出しましょう。魔石はいくらあっても困りませんし、この黒焦げのガルスにも使い道があるかもしれませんから」
半分以上こじつけのような理由ですが、これでガルスの回収に理由付けが出来る。
「まぁユウマさんがそういうなら良いんじゃないですか。回収もユウマさんがするんですから」
お宝もないし、回収をするのも自分じゃないから、兎に角面倒という精神状態のサラの返事はこうなって当然。俺でもそうなる。
大量のガルスの死骸でもインベントリの回収ならそれほど時間は掛からない。残るは一番大きな山に成っているガルスの死骸を回収したら終わりと思ってそれを実行した時……!
「ユウマさん! それ!」
「お嬢様!」
俺はこの後のガルスの解体の事しか考えていなかったから、サラとエリーに遅れて二人が発見したものに気づいた。
そこにあった物は……。どう見てもゲームやそういう物でよく見る宝箱。
俺達三人はダンジョンに入るのも初めてだから、お宝が宝箱で出るという事は話で知っているだけで見るのが初めてだったから、それが宝箱と認識するまでに時間が掛かった。
俺は二人よりは早かったと思うが、思考が解体寄りだったので、殆ど同時に成ってしまった。
「宝箱ですよ!」
「あったんですね」
「ガルスが大量にこの箱の上にいたのは守ろうとしていたからなのかもしれませんね?」
宝箱の発見にそれぞれの思いを口にした。本当に三者三様である。
「ユウマさん! 開けてみましょう! 開けて良いですよね!」
「嫌、ちょっと待ってください。宝箱には罠がある物もあるとサイラスさんから聞いたことがありますから、ここは鑑定をしてから開けますので少し待ってください」
サラが今にも開けそうな勢いだったが、ここは冷静にゲーム知識を使って留まらせた。サイラスに聞いたというのは実は嘘なのだ。この世界のダンジョンにそんな罠のある宝箱があるという報告や記録はない。だがもしもがる、このダンジョンは特に異常な場所にあるし、生態系も特化している。
そういう時こそ冷静に行動しないと何が起きるか分からない。興奮気味だったサラを何とか嘘で脅して留まらせ、俺は鑑定で罠の有無を調べた。
鑑定の結果罠はないと分かったが、俺の鑑定EXの能力の高さゆえの弊害で宝箱の中身まで判明してしまった。
中身は何と……。日本人の俺にはなじみ深い塩コショウ……。実際ラロックでは俺が肉に塩とハーブで味付けした料理を普及させているが、胡椒は高価な物なので、それ程使われていない。最近はビーツ王国との交易が増えてきたので、以前よりは入ってくるように成っては来たが、まだまだ庶民が気楽に使えるものではない。
それにもう一つおかしなことがある。島から一番近いユートピアなどでは普通に塩と胡椒は肉料理に使われているのです。それなのにダンジョンの宝箱に塩コショウ?
「サラ、開けても大丈夫ですよ。罠は無いようです」
何故? 宝箱に塩コショウなのかの疑問は残っているが、サラが待ちどうしそうにしているので、兎に角開けさせることにしました。
「ユウマさん、これなんでしょう? ポーションの瓶のような物に粉のような物が入っていますけど?」
「瓶!」
それはおかしいだろう! この世界にガラスが普及したのは最近でそれも俺が普及させたものだ。それなのに何故、塩コショウが瓶に入っている?
「あ! ユウマさんが驚くのは当然ですね。瓶は最近作られるように成ったものですね」
「お嬢様、長く生きているわたくしもダンジョンからガラス製品が出たと聞いたことはありません」
これはどっちなんだろう? 以前ダンジョンから出るものは神様のヒントだと考察したことがある。この世界の人達はそう考えなかったから、歪な発展をしてきたのだ。
研究すればこういった物も作れるように成るという神様のヒント、それがダンジョンから出るお宝なのだが、そう考えれば瓶はヒントだったのだろうか? それともガラスがもうあるから容器が瓶に成ったのか? どちらとも取れる。此処は元は陸の一部だった場所だからだ。
これを解明するには現在ダンジョンからガラス容器に入った物が出ているかを調べる必要がある。ガラスが普及しているから話題にならないだけで、実際には各ダンジョンで変化が起きているかを調べないと確実な答えは出ない。
それに此処で発見されたのがヒントなら、俺にはこの意味がもっと大きな物のように思える。ガラスを普及させるだけのヒントではないという事です。
この島の特徴、魔魚の魔石が大量に海岸で採れる。海の砂という事を抜きにすれば海岸の砂からもガラスは作れる。その中に魔魚の魔石の判別できないような小さなものも含まれる。それで作ったガラスにはどんな特徴が出る?
答えは俺が考案した、普通の陶器やガラスに魔石を合成した一種の魔食器。それに付与魔法を施すことで、用途が飛躍的に向上した。
俺がもしこの世界に来ていなくても、この海岸の魔魚の魔石が混ざった砂でガラスを作っていたら、今ほどではないが魔食器の原型は出来ていたかもしれない……。
「サラ、それを少し貸してください。試したいことがあります」
試したいこと、それはこのガラスが魔石の合成されたガラスなら付与が簡単に出来るか効力が上がるという事なのでそれを実験してみたい。
嫌、その前にこのガラス瓶自体の鑑定をするべきだな。もしかしたら付与魔法のヒントも隠されているかも?
関係の結果、俺の推測はズバリ的中していた。塩コショウの入った瓶には保存の付与魔法が掛かっていた。
それは同時にダンジョンから出る物には神様のヒントが詰まっている。これがハッキリと証明された瞬間だった。
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