第258話 食肉ダンジョン
昨日も、エリーとの攻防を何とかしのいで、清らかな体で朝を迎えられた。普通こういうのって女性の感じる事じゃないの……。これ何時まで続くんだろう?
「さて、今日は本格的にダンジョンの調査をしますが、正直魔物との戦闘は避けたいので、身体強化で走っていきます。サラは大丈夫でしょうから、エリーさんを俺が背負っていきます。くれぐれも戦闘は控えてくださいよ。お願いしますよ、サラ!」
「分かりました! 私も昨日の後遺症で魔物との戦闘に飽きていますから大丈夫です!」
本当にそうかは分からないが、まぁ今回は信用しておこう。サラの言ってる魔物の後遺症というのも分かるからな。俺も正直それに近い状態だ。ダンジョンの魔物が地上の魔物と同じなら、魔力を放出するだけで、弱い魔物は寄ってこないんだが、ダンジョンの魔物はそうじゃないらしいからな。
サイラスに以前聞いた時にそんなことを言っていた。ダンジョンの魔物は恐怖心というか、本能もないので、ただ敵と認識したものを襲うらしい。
まぁ流石に、ダンジョン内の魔物同士では戦わないらしいが……。
「先頭は俺が走りますので、サラは後ろから来てください」
何でこうするのかは昨日の夜、既に創造魔法でダンジョン内をマップ化できる魔法を開発しているからです。地上ではもう地図魔法はあるけど、使えるかどうか昨日試したら、ダンジョン内では無理だったので、ダンジョン専用のマップ魔法を開発した。
地上で出来たんだから、ダンジョンでも出来るのは確定していたが、どんな感じに出来ているかは今日試してやっと分かった。
「なるほどね。このダンジョンはこういう構造なのか」
「ユウマさん? 何を言っているのですか? ダンジョンの構造?」
「これはまだ秘匿魔法ですが、地図を魔法で作っているんですよ」
「地図を魔法で……?」
どう説明したら良いだろうか? 魔力感知と記憶魔法の合成魔法なんだよな。魔力を薄く延ばすのは魔力感知と同じなんだが、その時の魔力を記憶して自分が記憶している魔力と照らし合わせて、そこにある物を特定して地図化している。
いちいち物質の魔力を全て記憶しているわけではなく、記憶したと認識させているだけなんだが、この説明が難しい。
「そうですね。例えば、この周りの風景を記憶したとするでしょ。そしたらそれと同時に魔力も記憶したと自分に思い込ませるんです。そうすると地図を造ろうとすると世界が勝手にそれを表現してくれるんです」
これじゃ分からんよな……。正直これチートなんだよ。チートとして説明できれば簡単なんだが、それは出来ないからな。俺は前世の記憶で、地図がどうやって出来ているかも知っているし、航空写真、人工衛星からの衛星写真、電波や音波による海中や地下の構造を調べる方法も知っているから、そういうイメージをすれば作れる。
ではこれをどう人に説明するか分からなかったから、この魔法を鑑定EXで鑑定したんだ。そしたら魔力感知と記憶魔法の合成だとでたんだよ。
人は視覚で見たものを一時的に記憶する。それを何処まで覚えているかは人それぞれだが、見たという認識、記憶は確かに残っている。それを世界が補完してくれるんだ。それが記憶魔法。
でもこれは脳にずっと残っている訳では無いから、脳の記憶領域は変わらない。これが出来なければ、脳がパンクする。
だけどこの記憶魔法は地図なんかにしか使えない。本を見て瞬間で記憶するなんてことは出来ない。あくまでも自然に存在する物。自然の魔力を持っている物に限られる。
良く出来ているよ。正にチート魔法。これも理解出来れば範囲は狭くなるだろうが、サラ達にも出来るようになる。
「なんとなく難しいと言うことは分かりました」
「え! もしかして全部聞いていた?」
「えぇ、全部。途中分からない言葉もありましたから全部は理解できませんでしたけど」
あれ? 全部聞いたと言っていたよな? それなのに前世という言葉は聞いていないように感じる答えだ……。
絶対に喋れないから、口に手をあてて考えた。もしかしてこれも以前フランクが俺の鑑定をさせないように何かの力が働いた話と同じか? 転移とか前世とかの言葉は他の人が認識できないか、聞こえないのかもしれない。
そうじゃないと説明がつかない。俺は確かに前世と言った。サラが理解出来なかった言葉は、そのまま聞こえたんだろう。ただそれも部分的じゃないかと思う。違和感がない程度には聞こえた。それだけだ……。
これだったら、誓約魔法はいらない? 神様が補正を掛けてくれているなら、気にしなくて良さそう!? 嫌、でもその補正を信じ切っていて、もし! 補正に期間が有ったりしたらその時はどうしようもない。やっぱり作ろう。
「じゃ、行きますよ」
このダンジョンはまぁ前世で言うアリの巣ダンジョン。ところどころ分かれ道はあるけど、間違うとそこは行き止まり。でもそう言う所って行き止まりだけど、お宝があったりする。当然モンスターもいるパターンだけど。
「さてどうしようか? この先を左に行けば行き止まりだけど、何かあるかも知れない。どうする?」
「何かあるなら行けばいいじゃないですか? 何故聞くんです?」
「嫌、行き止まりということは、お宝がある可能性もあるけど魔物が居る可能性が高いと言うことでもあるんだ。まぁ可能性ではなく確実にいるんだけどね。地図魔法に反応が出ているから」
「そういうことですね。魔物か~~~、まだほとんど進んでいないのに、もう魔物と交戦するんですか……。」
そうとう昨日の後遺症が残っているな。俺もそうだから聞いたというのもあるんだよね。俺もお宝は気になるけど、こんな序盤で出るお宝に良いものが有るとも思えないしね……。あってもHPかMPの初級ポーションぐらいだと思うんだよね。
あくまで普通ならだけどね。さっきから誰かに言われてるわけじゃ無いんだけど、いけ~~、いけ~~、って言われてるような気がする。
「気は乗りませんが、最初の分かれ道ですから試しに行くだけ行ってサクッと魔物を倒して、お宝があれば取って来ましょう」
「そうですね。お試しと言うことなら、行ってみますか」
二人ともやけにお試しを強調しているが、そうしないと行く気にならないからだ。
別れ道の奥に行くまでには、昨日嫌というほど倒した、ガルスがちょくちょく出てきたが、魔法を使うのも勿体ないので、エリーにレベル上げを兼ねて、鉄の棒で撲殺してもらった。剣を持たせればいいことなんだけど、洞窟自体が広くないから、鉄の棒で撲殺した方が、勢い余って壁に棒をぶつけても問題ないからね。
剣だと刃こぼれはしないと思うけど、勿体ないという貧乏性が出てしまった。
「わあ~~~、こりゃ来ない方が良かったかな?」
「この数は流石に……」
俺とサラが同じような感想を言ったのは、通路の奥にあった広間にゆうに100羽を超えるガルスがいたからです。普段なら大量の肉が手に入ると喜んだかもしれませんが、昨日の今日ですから、魔物の討伐をしたくない気持ちの方が大きいのでこの発言に成った。
「めんどくさいな。これでサクッと終わらせます」
そういうや否や俺は火魔法のインフェルノを放って広間のガルスを焼き尽くしました。普通洞窟内やダンジョン内で使うのは火魔法は不適切ですが、そんな思考さえ無視というか考える気すらなく、自分達を結界で保護した状態でインフェルノを放っていました。
「ユウマさん、流石にこれは無茶苦茶ですよ。ローストチキンさえ出来ていません。全て炭化してしまっていますよ」
これがダンジョンのまだ入り口付近だったから良かった物の、もっと奥だったら酸欠に成って自分達も窒息死するところです。それぐらい過剰な魔法でした。
「面倒くさいというのが最優先だったし、ここなら酸欠にもならないと思ったのでつい……」
サラのローストチキンという言葉で思ったのが、もう少し威力を落とせば、一度に大量のローストチキンを作ることが出来ると思うサラの思考も俺と大差ないように思えた。内臓がある状態で焼いたら正直食べれるかどうか……?
俺とサラの思考はそれぐらいおかしくなっていたのです。スタンピードを経験するとこんな思考に成るというひとつの良い記録に出来ました。
スタンピードを経験した人類初めての記録です……。
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