第257話 スタンピード
この世界には無いと思っていたスタンピードが目の前で起きようとしている。
正直恐怖はない。好奇心の方が勝っている、どんな魔物がどれくらい出てくるのか、こんなもの見れる自分が物凄く幸運だとも思っている。
「取りあえずエリーさんは俺の後ろにいてください。サラは横で良いですね?」
「勿論です! 私はユウマさんの隣に立ちたいから一生懸命魔法や他の事も学んでいるんですから、その私がユウマさんの後ろにいるなんて絶対嫌です」
まぁそうだろうなと思った。サラは俺の横に立ちたい。守られるだけの存在になりたくないが原動力だからな。
「奥から魔力反応がどんどんこちらに向かっています。物凄い数です!? でも……」
サラが口ごもった理由を俺も理解している。数は確かに多いのだが、どれも魔力反応が大きくないのだ。中にはつい最近覚えた魔力まである。
「見えた! あ~~~、なんだよあれは!?」
「え~~~、ユウマさん、あれって!」
この世界で初のスタンピードだ、どんな魔物が出てくるか期待していたのに……。
俺たちの前に現れたのは……。
「何で? こいつらなんだよ~~~」
こいつら? そう種類は複数、それは良いのだが、先頭はガルス、次がエミュ、その後ろに大陸ではあまり見かけないボアが続き、そのまた後ろにはなんとオックス、最後がオークだった。
分かるよね! これは誰が見ても分かるよね! ここは食肉のダンジョン~~~!
正に魔魚の為の餌放出ダンジョン。だからパルオイスの真珠の色に違いが生まれるのか? だって普通海の中に色んな魔素が含まれているはおかしいのです。それなのにパルオイスの真珠には色のバラエティがある。魔素がミネラルのようなものならあり得るだろうが、違うからな。
ダンジョンから放出される魔物の肉や魔石、魔石に内包されている魔素を吸収することで、真珠は変色する。そうすると魔魚の魔石にも他の魔素が含まれているということだ。それは地上の魔物でも同じだな。土属性の魔石だと言って全て土の魔素ではないからな。これはつい最近の実験で解った。
これは討伐は控えにしよう。だって魔魚の餌を奪うことになるからね。真珠の養殖にも影響が出るかもしれないから、干渉は控えめにするべきだ。
「サラ、嫌でしょうけど、討伐は控えめにしてください」
「聞こえていましたから、大丈夫ですよ。程々にしますから」
その程々が怖いんだよ。少しにするとなぜ言えない。それに俺の癖をいつもの事にように軽く言わないでくれ。地味に傷つくんだぞ……。
それから時間にしてどれくらい経っただろうか? 兎に角弱い魔物ばかりなんだが、如何せん数が尋常じゃない。途中までは数えていたが、ある水準を超えたら数えることを放棄した。やめたじゃなく体の方が勝手に止めたのだ。
ただ討伐した物の中にはこの後使えそうにない物も沢山ある。そりゃそうだよ後ろからどんどん来るんだから、前で討伐されたものは踏みつけられる。時々波のように休憩タイムではないが流れが止まる時があるから、その時に原型を保っていようがそうで無かろうが、全て俺のインベントリで回収した。
スタンピードが終わってから、使い物になりそうにない物は、改めてその時に海に投棄すればいい。しかし、何で? こんな所に食肉ダンジョンがあるんだ?
食肉ダンジョンが大陸にあったら、これほど国を豊かにすることはないだろうに、それなのにどうしてこの島で、魔魚の餌になるような場所に在るんだろう?
ひとつは神様のミス、もしくは海の魔物への優しさ? もう一つ考えられるのはこの島はかつて大陸と陸つなぎだったが、一部が水没したことで隔離され、ダンジョンの入り口が海に面してしまった。普通に考えればこれが一番常識的考えだけど、この世界に気候変動や地殻変動があるかは知らないからな。
まぁ今はそれを気にしてる暇は無い。スタンピードが収まるまでひたすら魔物を間引くだけだ。
「ふぅ~~~、もう終わりでしょうか?」
「そうだね、今までの間隔が決まり事なら、ここまで出てこないなら、一応終わったんじゃないかな?」
それにしてもスタンピードの間中サラは狂気とまではいかないが、わき目もふらず魔物の首をはね続けていたな。途中MPポーションも飲んでいたようだが、以前に比べたら、量が減っている。レベル的にはそう上がるはずないんだが、どうしてだろう?
魔法の習熟度があがっていて一度に使う魔力量が減っているとは思うけど、それだけでは説明がつかない……。
まさか、パルオイスに関係してる? でもあれは討伐していないもんな。活かして返しているから、でもサラに変化を与えそうな事ってあれしかないんだよな~~。
「わぁ~~、嫌だな。この後始末をすると思うと憂鬱になる」
あ! よし、ここからは口に出してはいけない。そう自分に言い聞かせて、注意しながら考えた。インベントリの中なら多少踏みつけられて原型がおかしくなっていても、問題なく解体できるのではないか。それに生き物は入らないのだから、ばい菌も入れた時点で、綺麗になっている。
二人には言えないがこっそり少し残して解体してしまおう。ガルスやエミュの羽で布団でも作ろうかな。物凄い量が取れそうだからな。新婚様に寝具一式新調するか?
「やっと片付きましたね、エリーさんは大丈夫だった?」
「はい、ユウマさんが前に居ましたから殆ど私の所には魔物は来ませんでした」
「それにしてもあの光景は凄まじいですね」
エリーが言った凄まじい光景とは崖下に群がっている大型の魔魚やその周りでおこぼれに預かっている、中型や小型の魔魚の群れの事だ。それはもうなんて言った良いだろうか、前世で漫画などにあった、ピラニアが獲物を食い散らかす光景によく似ている。
「あれは骨も残らないんじゃ……」
サラのその一言はまさにその通り、骨まで魔魚の癖にバリバリと食っているのだ。
魚系といってもやはり魔物なんだな。全部じゃないけど肉食の魔物、魔魚……。
「さてこれからどうしましょう? 予期せぬことが起きたので調査どころではなくなりましたが」
「そうですね。運がいいのか悪いのか分かりませんが、時間的にこのまま調査は無理ですね。野営は出来ますから、絶対に無理ではないですが、正直、精神的に満腹です」
分かるよ、その気持ち。もう暫く、ガルスやエミュは見たくない。他にも魔物はいたけど、この二種類が格別多かった。俺たちがガルスやエミュを利用しようとしてるから、神様が寄越したのかと思えるほど多かった。
当分鶏肉には困らない。結婚式で大盤振る舞いしてやる! これ神様の結婚祝いじゃないだろうな。時々変な時に変なことが起きるからな……。
「しかし、このまま帰ってまた来るのも勿体ないんですよね」
「そうですね。帰るのにも二時間掛かりますし、又出直しても二時間。本当に悩みどころです」
精神的にお腹一杯だし、面倒だけど、ダンジョンじゃなく崖の上に戻ってそこで野営しよう。此処ではどうしても落ち着かない。
「サラ、取りあえず、ダンジョンから出ましょう。いくら魔物は片づけたと言っても、臭いは残っていますから」
「そうですね。この臭いは……。戦闘中は気になりませんでしたが、今は物凄い血と内臓の臭いです」
帰りも俺が二人を背負って順番に崖の上まで運んだ。崖の上で少しゆっくりしていたら、もう海の向こうに太陽が沈みかけていた。そう言えばこんな日没見たことなかったな。魔境の森付近だとこういう日没とか日の出を直接見る事は殆どない。
飛行船で飛行してる時はみたけど、それとは全く違うんだよな。地上で見る水平線に沈む夕日。こういうのを見ると、さっきまでスタンピードと対峙していたなんて忘れてしまいそうだ。人ってそう意味では上手く出来ているな……。
「サラどうします。テントにしますか? それとも拠点代わりにトーフハウス作りますか?」
「お嬢様、テントになさいまし、ユウマさんと同じテントでゆっくりお休みください。私は一人で大丈夫ですので」
まだやるか~~~! 本当に勘弁してくれ~~~!
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