第256話 こんどこそダンジョン

「サラ、それはいくら今考えても無理ですよ。俺にも分かりませんから」


「やっぱりそうですよね。金色になる魔素なんて聞いたことないですもん」


 サラの言葉が貴族令嬢としてはおかしいことになっているが、お目付け役のエリーが何も言わない程、二人とも困惑しているのだろう。


 この世界の人は、魔法について詳しくはないが、貴族の学校に通ったことがあったり、貴族家で働いているような人はそれなりに知っている。属性には色の特徴があるということは……。


 この事について何故知っているのか聞いたことがあるが、サラ達も何故か知っているだけで、何故そうなのかは知らないそうだ。おかしな話なんだがそれしか分からないらしい。


 実際魔石に色の特徴はないし、あっても大きさと色が濃いか薄いかの違いだけ。他に違うと言えば魔法が自然現象の模倣だから、それから色を連想するぐらい。しかしそれはあくまで目で見える事。魔素自体は見えないのだから、色の違いは予想でしかない。


 やはり、分からんな。どうして学のある人だけに知られているのか?


 実際魔石の属性を変えるという考えも、魔石の中にある魔素に違いがると分かったからだ。その証明にもなるのがこの真珠でもある。


「金色の真珠も当分の間封印ですね。これは三人だけの時に研究しましょう。エマさんにも今は秘密ですよ。漏れたら大騒ぎになります」


「そうですね。今はこの事より、ダンジョンです。明日は朝から出発してダンジョンの調査をしましょう」


「それは良いのですが、サラの方は真珠はもう良いのですか?」


「はい! 今日で予定よりも多く獲れましたから」


 マジか~~~、いったいどれだけの量かも知らないが、サラが満足してると言うことは相当な数だろう。一生懸命真珠を育てたパルオイスが可愛そうになるよ……。


 ******


 翌朝、昨日のBBQの後、エリーにサラと同じベットで寝るようにかなり強引に勧められたが、何とかそれを回避して一人での就寝を確保して朝を迎えた。


 本当に油断も隙もありゃしない。俺がちょっとトイレに行っている間に、サラを俺のベットに潜り込ませやがって。一度入ったベットから出すのにどれだけ苦労したか、拒絶したらサラが可愛そうだし、なだめすかして、何とか諦めてもらうのに一時間も掛かったんだぞ。


 俺だって男だ、艶めかしい格好の女性を前にして、我慢するのがどれだけ辛いか、もう少しなんだからそれぐらい待てよ。結婚したらもう勘弁してというぐらい俺は盛るさかと思うから……。


 いかんこれはちょっと下品な表現だったな。お盛になる……? これも違うな。


「それじゃ、出発しますよ。ですが今回の移動では木も切りませんし、魔物も倒しませんから、そのつもりでついて来て下さい」


 言っておかないと、最近のサラの言動からしたら、木をどれだけ切るか分からないし、魔物も虐殺に近い討伐をするだろうから、行く前に釘を刺して置いた。


 俺からそう言われたサラはやはり不服そうな顔をしていた。本当にこれは釘を刺して置いて正解だったな。これからはフランク同様サラも要注意人物だ。戦闘狂化してきている……。


 サラの暴走もなく、予定通りダンジョンのある崖の上に到着した。


「ユウマさん、ダンジョンは何処です?」


「あそこですよ。崖の中腹にある洞窟です、見えるでしょ」


「え! あそこですか! どうやって行くんです? ユウマさんはどうやってあそこに行ったんですか?」


 まぁある場所があそこだから、サラが言うことも分かる。それに手段が気になるのもね。こういう時の為に、テレポートではない方法がいるんだよ。サラには見せても良いが、流石にエリーには見せられない。


 これは早いうちに俺用の誓約魔法を開発しよう。そうすれば他の人にも使えるだろう。情けない話だが、もう魔法で癖を縛るしか俺の癖は治しようがないようだからな。


 しかし、それをやってしまうと話したい事も出来なくなってしまうから、誓約魔法も良く考えて造らないと、大変なことになる。


「それじゃ、ひとりづつ俺が背負っていきますから、しっかり捕まっていてくださいよ。怖いことはないですから」


 先ずはサラからだ。サラを背負って崖の外に踏み出した瞬間!


「キャー」


 サラが甲高い声で叫んだ!


「大丈夫、心配いらない。これは結界魔法の応用だから練習すれば出来る人は居る魔法だから」


 そうは言ってもいきなり空中を歩くなんて誰も思はないから驚いて当然だった。先に地上で見せてからにすれば良かったな。


 始めは驚いていたが、流石はサラ、直ぐに落ち着き、そこからは楽しそうに空中散歩を謳歌していた。


「到着、どうだった慣れたら平気だったでしょ」


「はい、ユウマさん私これやってみたいです。今度教えてくださいね」


「分かったけど、少し待ってね。当分はそんな時間ないし、出来るだけ多くの人には今は見せたくないから。特にエマにはね」


 エマに隠し事がどんどん増えるな……。


 一度、サラの事を見ているエリーは全く動揺することも無く、ダンジョンの入り口まで微動だにしなかった。俺の首にまわしている手がちょっと力が入っていたから、全く動揺してない訳では無いようだったが、そこは淑女教育をする立場だから醜態は見せられなかったのだろう。


「さて、いよいよダンジョンですが、このダンジョンの浅い所にいるのはモグラ型の魔物です。名前はタルパ。大きさ的にはそこそこありますから油断はしないでくださいね。ダンジョンの魔物ですから、討伐はしてもいいですけど、出来れば先ずは観察をしてからにして下さい。未知の魔物ですから生態を知りたいので」


「そうですね。どんな魔物か知らないといけませんから、始めはそうします」


 始めはか……。それがいつまで続くか?


 ダンジョンに入って前回タルパを観察していた所に到着したが、今日はそこにタルパはいなかった。その代わり、そこには人間がひとり辛うじて通れるぐらいの穴が開いていた。


 どうするかな? この穴を調査するか、この先へ進むか?


「ユウマさんこの穴はなんです? 人工的に作られたような穴ですけど」


「これは昨日タルパが掘ったものです。俺も何をしてるのか気になってずっと観察していたんですが、帰りが遅くなりそうだったので、途中で観察を止めて帰ってきました」


「それで、どうするんです? どうせこの洞窟を調べるか、先に行くか悩んでいるんでしょ」


 もう、サラには口に出す必要ないんじゃない? どうして分かるんだよ……。怖い。


「タルパの洞窟も気になりますが、今日はダンジョンの調査を優先しましょう。本当に何も分かっていませんからね」


 それからはダンジョンの奥に向かって進んだのだが、何故か魔物には一匹も遭遇しなかった。


「何故でしょうね? 魔物が全然いませんよ。私どもはダンジョンについて詳しくありませんが、ユウマさんはどう思われます」


 エリーの言う通りこの魔物との未遭遇はおかしい。俺がダンジョン経験豊富なサイラスから聞いた話にもこんな事はなかった。これは何かの予兆か?


 各国にあるダンジョンは管理されているから、スタンピードは起きないから、そういう異常な状況になったことがないから記録もない。これはかなり嫌な予感がする。


 あ! あのタルパ! もしかしてスタンピードを回避するための洞窟を作っていたのか? そう考えると辻褄がう。弱い魔物はスタンピードでこのダンジョンの場合外に押し出されれば、海で魔魚の餌になるしかない。


 それなら身を隠して、生存を選んでもおかしくない。ただダンジョンの魔物に意志なんて殆どないはずだ。そうするともしかしてあのタルパはダンジョンの魔物ではなく、ただダンジョンを住処にしているだけの魔物かも?


「これはかなり拙い状況です。スタンピードが起きるかもしれません。取りあえず退避しますか」


「何を言っているのですか、ユウマさん。こんなチャンス滅多にありませんよ。増えすぎた魔物なんですから狩り放題でしょ」


 嫌々、何言ってるのかなサラは。どんな魔物が居るか分からないんだから、そんな簡単な話じゃないぞ。飛行系がいないことは予想できているし、このダンジョンの大きさからして、そこまで大型の魔物はいないとは思うけど、数はわからないんだからね。


 100匹とかなら、何の問題もないけど、これが1000匹とか一つ単位が上がって10000匹とかだったらどうするの?


 前世の記憶からだと、何万匹というスタンピードの情報もある。そこまではないと思いたいけど、こればっかりは遭遇してみないと分からない……。










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