第255話 ダンジョンからの……
ダンジョンに入ってどのくらい経っただろう? 俺は何もせずにずっとあのタルパの行動を見続けている。
嫌、ダンジョンなんだから普通に魔物を倒せば良いことだとは理解しているんだよ。だけど、どうしてか観察を止められないんだ。
ダンジョンで魔物を倒せば、ドロップ品じゃないが、普通に肉や素材は得られる。ただ地上と違うのは無限に魔物は増え続けるから、絶滅すると言うことがないだけだ。それに一定数の魔物を狩り続ければスタンピートも起きないから、資源の宝庫としてこの大陸では重宝している。
でもそう考えるとこのダンジョンは誰も魔物を狩っていないから、スタンピートが起きてもおかしくない。あぁそういう事か! 此処のダンジョンは崖の途中にあるからもしスタンピートが起きても魔物の行き先は海の中ということになる。
そうなれば海の魔物の格好の餌だ。飛行系の魔物でもいない限り影響が出ることはない。
「どうするかな? 一度戻って、サラたちを連れてくるか? かなりの時間此処にいるから、戻った時には……! やばい! サラがまた仁王立ちしてるかも」
スライムを捕獲してくるとだけ言って出て来ているのに、この時間は本当に拙い。今から戻っても二時間近く掛かる。普通の方法で戻っている場合ではない。超速で帰れる方法を考えなければ。
今は非常事態だ。実験はもう済んでいるから、今回はしょうがないあの魔法で時間短縮を図る。
「テレポート」
その瞬間、ダンジョン入り口にいた俺は、一気に崖の上に。それが出来るなら何故、降下する時も使わなかったと思うだろうが、人に見せられない魔法は出来るだけ使いたくないのだ。いざという時に人前で使っても問題ない魔法は開発しておきたい。
「良し! 実験通り成功だな。消費魔力もそう多くない。これなら原理を理解できる人がいれば他の人も使えるな」
そこからは急いで帰るために、空中歩行で森の上空に上がって、テレポートを連発、邪魔なものがなく、直線に進めるし速度が早いから、おおよそ20分ぐらいで海岸近くまで戻って来れた。
が! そこには一番見たくなかったサラの仁王立ちがあった。まさに二度目だからか頭に角生えているように見えるサラの形相。
「ユ・ウ・マさん! どこまで行っていたんですか? スライムなんてそこらじゅうにいるでしょ。どこまでスライムを捕獲しに行っていたのですか?」
嫌、間違いなく、分かっていて言ってるよね。スライム以外で遅くなったことを見抜いているよね。最近のサラは厳しいのよ、結婚が決まるまでは遠慮していたのかな?
釣った魚には餌はやらないとか? 嫌、サラは俺のことを心配して言ってくれているんだ。そうさ、そうに違いない……。 本当だよ。
「嫌、それがねちょっとのつもりで島の調査をしたらね、物凄い物を発見してしまって、それをちょっと調べようとしたら時間がちょっと掛かってしまったんだよ」
「何度もちょっとは必要ありません。そのちょっとは言い訳にしかなりませんから。それでその発見とやらはなんですか? 大した事じゃなかったら、今晩の夕食は抜きとは言いませんが小魚の塩焼きだけです」
小魚の塩焼きがどのくらいの物かは分からないが、食事が質素になるのは辛い。この島の楽しみのひとつなのだから。
「聞いて驚かないでくださいよ。本当に物凄いことなんですから、そ、それはダンジョンです!」
「え! え~~~~~‼ ダンジョン……。婆や~~~‼」
「何です、お嬢様そんな大きな声で、はしたない」
「婆や聞いてください私の将来の旦那様がとんでもない物を発見されました。帰りが遅くて心配しはしましたが、それを帳消しにするほどの発見です」
「だから、淑女たるものどんな時もお淑やかに平静を保たなければいけないと言ってるではありませんか。いつまでものろけていないで何を騒いでいるのか説明して下さい」
「婆やごめんなさい。でも、うちの旦那様がダンジョンを発見したというのです。冷静でいる方が難しいです」
「え!え~~~~~~、ダンジョンですって!」
二人の会話を聞いていた俺は、結局二人とも同じ反応じゃないか。淑女……?
これは口には絶対に出さないけど、心の中では悪態をついていた。
「それでね、サラたちを連れて行こうと思って帰って来たんだよ。まだ殆ど中の調査はしていないんだ。どうする?」
「行くに決まっているじゃないですか! 歴史的発見ですよ。ダンジョンある所に王都が出来るというぐらい、ダンジョンというのは資源の宝庫なんです」
それは俺も知っていたけど、この島に王都は出来ないだろう。嫌、作っちゃいけない。この島は俺の物だ。誰にも此処を荒らさせない。
これはまた困ったことになりそうだな。この島の事はフランク達も知っているから、話さない訳にはいかないが、彼らはそう問題ではない。問題なのはエスぺランス王国の国王とや身内になるお義父さんたちだ。
ダンジョンを個人が所有する? これバレたら戦争物だよな……。自分で火種を作るのを好きだな俺……。
兎に角今はそれより調査が先だ。それがまだ終わってもいないのに考えすぎだな。
「それでサラさん、今日の夕飯はどうなりますでしょうか?」
「ん? ん~~~。大発見をしたということで許してあげます。だけど三度目はないですからね」
仏の顔も三度までと言うことわざがありますから、もう一度は許してほしいものですが、今それを言うのは藪蛇ですから言いませんが、今度それとなく偉い人の言葉だと何だとか言って、匂わせておきましょう。
「この貝は素晴らしいですね。食べて美味しく、真珠も作れる優れものです」
「そうなんだけど、私のやり方だと、貝は死なないから食用にはあまり回せないよね。違う貝も食べてみてこれも美味しいから」
二人の会話を聞きながら、俺はもくもくとサラが用意してくれた海鮮を食べていたのだが、その時ひとつ大事なことを忘れていたのを思い出した。
あれどうしようかな? あれから時間が経っているから、解体は別の所でしたという言い訳はできるが、ここで食べる? それとも大物だから結婚式で披露する?
マルリンなんてエスペランスの人は食べたことないだろうから、やっぱり結婚式だな。丁度今回島にも来ているから、サラたち以外には今回の旅での収穫だと勘違いされるだろう。
フランク達には話していないよな……? 人には秘密を守れと言いながら、俺自身が一番危ないという情けなさ。絶対、恐らく、多分、話していない。段々自身が無くなる俺でした……。
そうだダンジョンことですっかり忘れていたが、サラの報告を聞いていない。サラの方はあの後どうだったのだろう?
「サラ、今日はあの巨大パルオイス以外に発見はなかったの?」
「あ~~、私もすっかり忘れていましたね。あの後も少しだけ発見はありましたよ」
少しだけ……? 本当にそうだろうか? サラも俺といる時間が増えたからか知らないが、何ていうのか、基準? 発見や驚きの基準が変わってきているんだよね。
フランク達もその傾向はあるがサラほどでは無い。ましてグランあたりだと物凄く驚く事でも、今では軽く流すからな。流石にダンジョン発見はその範疇を超えていたから、あの驚きようだったようだ。
「どんな発見ですか?」
「えっと、そう大した発見ではないんですよ。珍しいというだけかも? 金色の真珠があったんですよ。珍しいだけですよね?」
ちょっと~~~、金色の真珠! そんなもの珍しいで片づけないで~~。
どう考えてもおかしいでしょ。真珠の色は魔素、属性魔素によって色が変わるというのは現状の研究で解明してる事なんですよ。それが金色が出ているのに、無視しないで欲しい。
「サラ、真珠の色は何で決まっているか覚えていますか?」
「えっと、確か吸収する魔素によって変わるでしたよね」
「そうです。では金色の真珠はどの魔素を吸収しているのでしょう?」
俺からそう質問されたら、一度目を見開き、驚いたように、いきなり考え込んでしまった。
そりゃ分からんよな。聞いている俺だって分からないんだから……。
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