第254話 島でひとり

 久しぶりに完全一人行動。最近は一人になることが非常に少なくなっている。自分の家でさえ一人でいることが殆どない。まぁこれからはサラと結婚するんだから、それが当たり前になるのだが、こういう時間はこれからも出来るだけ作って行こう。


 それでも当分は無理だと思っている。しょうがないよね、俺の立場がこれからはもっと違ってくるから。ただでさえ、ユートピア、ミルという場所に俺の影響力が吐出していくからね。勿論、町や村より大きいエスぺランス王国とは密接になるからそれい以上。既に辺境伯のビクターとは関係を結んでしまったから、俺も少しは表に出ることになるだろうから、一人でいる時間はそう簡単には作れない。


 そう思うからこそ、この貴重な時間は大事に使う。


 スライムは正直簡単に短時間で目標数以上確保できたが、そこで引き返したのでは俺ではない。フランク達が調査出来なかった、島の残り半分の調査をすることに。


「どこからやろうかな?」


 フランク達に聞いた調査済みの場所は島の海岸寄りの半分。だから俺は一旦海岸と反対側の島の外れまで行ってそこから調査をすることにした。


 この島は出来るだけ手つかずで保存したいから、移動に邪魔でも木を切ったりもしないし、出会う魔物も討伐はしないように移動した。だから普段なら二時間も掛からず到着できる距離なんだが、丁度二時間ぐらいで到着した。


「おっと、こちら側は断崖絶壁かよ。これじゃこちらからこの島に上陸することは不可能だな」


 そう思ったその時だった。


「あれ? あそこに洞窟がある。どうしてあんなところにあるんだ」


 普通島の周りの洞窟といえば潮の満ち引きや嵐などで浸食されて出来る物が多い。だけど、あの洞窟は海面から相当高い位置にある。地下水による浸食なら水が流れている形跡があるはずだがそれもない。


 物凄く不自然だ。これをどうする? 調べるでしょ、いつ? 今でしょ!


 一人芝居をして行動開始。この世界に転移して以来こういう習慣が身に付いたのがいけなかったのかな? 独り言、無意識のしゃべりが癖になったのは……。


 洞窟がある場所の崖の上に着いたが、ここからどうやってあの洞窟に入るかだ。普通に考えればロープで降下するなんだが、ここは魔法の世界そんなことする必要はない。こういう時ほこそ創造魔法の出番だ。まして周りには誰もいないのだから……。


「崖、降下、帰りの上り、全てが出来る魔法、ん~~! あれじゃなちょっと怖いけど、あれなら今後も役立つ」


 飛行魔法でも良いが、それだと基本一人の時しか使えない。飛行魔法何て絶対人には見せられないよ、人が空を飛ぶ、この世界の人にそんなこと理解出来る訳がない。飛行船でギリギリ、ガスや物を使うからまだ理解できるだろうが、人だけで飛ぶというのは理解する知識が無い。まぁ重力というものを理解出来ればあるいは……。


 そんな希望的観測より、知識のない人から見ればそんなこと出来るだけでバケモノ扱いだろう。そういう風には出来るなら見られたくないからね。だから今は、少しづつ広まりだしている結界魔法の応用を使う。


 俗にいう空中歩行、結界を足元に作っては消してを繰り返して、空中を歩こうというもの。かなりの集中力がいるけど慣れれば空中を走る事も出来るようになるだろう。

 これを選んだ理由は魔力量をそこまで多く必要としないという利点があるからです。


 結界を一瞬出すだけだから、消費する魔力が極端に少ない。途中で停止する時だけ消費量が増えるだろうが、移動手段としてなら問題ない。


「これエマに見せたら、絶対自分もやるというだろうな。一種の結界オタクだからな……」


 簡単に出来る魔法のように思えるが、流石に俺も初めての魔法は怖いから、始めは地上で少し練習して問題なく歩けるようになってから、崖を降りることにした。


「何だこの洞窟は? 洞窟の入り口に来ただけで物凄い魔力を感じる。魔力、洞窟、!! まさかね……」


 入る前から、確信に近い嫌な予測が浮かんでしまったが、ここまで来て入らない俺ではない。


 入り口付近には生物らしいものはいない。まぁ普通に苔は生えているが……。


 少しづつ奥へと入りながら、魔力感知での索敵は欠かさない。こんな暗闇でいきなり襲ってこられたらびっくりするからな。もしここが予想通りの所でも入り口付近にいる物なんて俺には傷もつけられないだろう。防御系の付与魔法を施した服も来ているし、結界魔法も体の周りに瞬時に張れるからね。


 この付与魔法を施してる服は皆には内緒だ。此処まで出来る事を知られたら、俺の自由な時間が無くなるからね。フランクもまさか服に付与してるなんて思もしないから鑑定しない。


「お! この先に少し強めの魔力反応があるな。この魔力は? 魔物なんだけど今まで感じたことのない魔力の種類だな?」


 魔力の反応があったから、そこからはゆっくりと勘づかれないように、抜き足差し足で近づいた。少し前まではライトの魔法で周りを照らしていたけど、今は暗視で進んでいる。


「な!」


 やべ、思わず声を出しそうだったのを堪えて、前方に見える見たことも無い魔物を観察した。


 あれは~~? なんだ? フランク達も言っていたけど見たことも無い魔物がそこそこいると。見たことがないと思っているだけで、俗にいう進化していない魔物と言うことなんだろうか? それもおかしいんだよな。進化した魔物が今大陸にいる物なら、その魔物も進化した結果だということになる。


 魔境でさえその形跡はないんだよ。レベルが違うというだけで、進化している訳では無いと思う。DNAの構造を調べられたら、どういう進化をして来たのか調べようもあるけど、現状は出来ないから形跡がない以上進化していないと思うしかない。


 一番理屈に合うのは、進化とは関係なく、ここにしかいない。大陸にいたかもしれないが、絶滅した。これが一番合理的な考え。


 確かに植物には原種が存在したから、魔物もと考えがちだが、そうとは限らない。これが今のところの結論かな……。


「あれは~~ あ! 俺は馬鹿なのか? 俺には鑑定EXがあるじゃないか」


 ん? それは良いとして、それなら何故? フランクは鑑定していない?


 あ~~ 鑑定はしたんだ。だけど聞いたことも無い魔物だったから、知らない魔物といったのか。そうだよフランク達は進化してない原種とは一言も言っていない。


 これは完全に俺の早とちりだ。魔物まで原種と言っていないんだからな……。


「あの魔物は何々……、モグラ系の魔物でタルパというのか」


 でもなんでタルパはこんな入り口に近い所にいるんだ? 洞窟を作った張本人じゃないのか? そうなるとこれは益々、俺の予測が当たりそうだ。


「この洞窟は……、ダ・ン・ジョ・ン!」


 ダンジョンならタルパが此処にいてもおかしくない。ダンジョンだから弱い魔物が入り口付近にいるこれは普通の事だ。他の場所の事はあまり知らないが、サイラスの話だと、エスペランス王国のダンジョンの一階層にはスライムやホーンラビットがいるらしい。


 それにしてもあのタルパ、大きさが尋常じゃない。入口の最弱魔物があの大きさかよ。どうみても前世のイノシシクラスはあるぞ。モグラ系といったら普通前世のモグラと同じぐらいの魔物を想像するだろうが。


「ところであいつはあそこで何をしているんだ?」


 良く見ると、タルパは一匹ではなかった。見えているタルパの前方には空洞があってそこから何かをかき出している奴もいた。


 ダンジョンって普通掘れないよな? 嫌、掘れる設定の物もあったな。


 まぁ掘れてるのだからそれはいいとして、それでもなんで掘っているんだ? モグラの習性だからか? モグラの移動用だったり、住居だったりするのか?


 一番入り口にいるのだから最弱なんだろう。でもジョンの魔物って魔力(魔素)で生まれるんだから、意思も無いのだから習性的な行動はしないだろう?


 奇妙だ! ダンジョンことを知らないのもあるが、これはおかしい。


 というか俺この世界に来て初めてダンジョンに入っていることに今気づいた……。












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