第253話 真珠養殖

「サラ、これは大問題ですよ! 自分でも分るでしょうがこのことは決して公言してはいけません。何時かは誰かが気づくでしょうが、今はまだ早いです。真珠の養殖が可能だと言う事だけでも騒ぎになりますから、絶対魔石の合成と魔石の属性変化は公言出来ません」


「それだとどうするのですか? 魔魚の魔石を入れることは公開しないと養殖は出来ませんよ」


 この前の実験が養殖の為だとバレてしまったが、この先をどうするかだな? 今の所サラが知っているのは魔魚のクズ魔石をパルオイスに入れたということだけだ。俺が

 属性変化させた魔石を入れている事は知らない。


 しょうがないか? 此処まできたら、全て話して口止めする方が安全だな。


「まだ確認はしていませんが、俺も実はクズ魔石の属性変化させたものを入れているのです。ほんの少しですけどね。それを確認してから今後についてもう一度話し合いましょう」


 そう言った俺に向けるサラの目は、自分もやってるじゃんと言う様な冷めた目をしていた。やったよ、確かにね。でもサラのように無茶なことはしていない。現実味のある実験で、実用も出来る範囲の物だ。まぁこの後の確認次第だけど……。


 で、その確認後が今……。


「拙いですよ!」


「拙いですよって、ユウマさんがやったんじゃないですか?!」


 それはそうなんだが、サラは自分のやった事を棚に上げてるだろう。そう思いはするが口には出さず、この後どうしようか必死に考える。


 何故ここまで必死かというと、俺が入れた魔石全てがもう真珠になっていたのだ。確かにその予兆はサラのやった異常な真珠であったのだが、あれはあくまで大きな魔石と属性魔力の影響だと思っていたのですよ。


 まさかクズ魔石で、魔力が殆ど空の魔石がこんなことを引き起こすとは思わなかった。俺はあくまで核の代わりになればというのと、属性魔力が入っていたらどうなるかを長期的に観察できれば良いと思っていたのだ。


 それが長期の観察どころか数か月? で真珠が出来るなんて思いもしなかった。


 これは本当に拙い。真珠養殖の常識を大きく覆している。ん? 常識? 常識ってそれは前世の話、この世界にその常識は存在しない。存在しないが……、やはり早すぎる。


 これをそのまま養殖技術として公開して良いものだろうか?


「ユウマさん、流石にこの方法で養殖を広めるのは拙いですよね。私の何て絶対ダメだと分かりますから。でも養殖は広めたいんですよね。それなら魔石の代わりになる物を探せばどうでしょう?」


 サラの言うことが一番正しいのだが、養殖のペースが早まるというのは別に悪いことではないんだ。量産できれば価格を下げることができる。真珠自体の値が高ければ、それに付与を付ければ価格が跳ね上がる。しかし、言ってみれば原料の部分のコストが下げられれば全体的に安くなる。


 ただ、サラの言うように魔石を核にしなければ、サラのような事をする好奇心旺盛な人も出ずらくなる。俺も人の事は言えないが……。


 こうなると、二択だな。核を魔石にするか別の物にするか? 別の物にすれば適した物を探す手間がいる。一方、魔石なら今後の発展に気を付けなければいけない。


 ここでもノーベルの事を持ち出して責任逃れするか? でもこの場合とノーベルの発明では違うんだよな。どう考えても、自分たちの都合が先なんだよ。時間を掛けても問題ないなら、当然サラの方をやるべき。それを量産というこちらの都合を優先させるのに、ノーベルは持ち出せないだろう。楽を追及してるのは同じでも、個人の楽と大勢の人の楽とでは、その後の責任の取り方に違いがある。


 良し決めた‼ 此処は回り道をしよう! 真珠の養殖自体此処でする訳では無いのだから、どこででも手に入る物でなければいけない。魔石も手に入るがそこは考えない。考えたら元の木阿弥もくあみだからな……


 前世の真珠の養殖に使う核はミシシッピ川に生息するイシガイ科の二枚貝を使うらしいが、この世界にも似たような貝はいると思う。でもあえて俺は違う物を使いたいと思っている。そうスライムの核。


 スライムの核はこれまでにも色々と利用してきたが、これほど今度の真珠の養殖に向いているものはないと思う。魔力も持っているし、肥料にするのに粉々にするのを一部手間をかけて削ればいいだけだからね。削りカスは肥料に使えるからロスはない。


 それに何と言ってもスライムは養殖出来ているから、乱獲の心配もない。何処にでもいるしね……。


 まぁこれもスライムの核で真珠が出来ることが証明されたらが前提だけどな。


「サラ、核には魔石を使うのは此処だけにしましょう。広める真珠養殖には別の核を使うことにして、代替えの物を探しましょう」


「ユウマさん、探す? 違うでしょスライムの核で実験するんでしょう。それとノーベルって誰です?」


「嫌なんでそれを?」


 あちゃ~~~~~また全て口に出ていた……。サラは俺の方を向いて、うん、とういう仕草をして無言の返事を返して来た。


 これはどうにかしないと本当に拙い、無意識に口に出す癖はどうやったら治せるだろうか? そんな方法ないよな? 無意識の行動って、違う意味での本能のようなものだものな。意識していないのだから、自分で止めることは不可能だ。


 催眠術、暗示、精神干渉、やべ~、これって自分に自分で闇魔法を掛けろと言うこと? しかしこれも考慮して対策を考えなくては、絶対に口にしてはいけないことがあるからな、俺が転移者だということは……。


「ノーベルというのは夢の中に出てくる人物で、その人の発明が将来危険なものを作り出す切っ掛けになったけど、本来は人の役に立つために作られた物だったのです。ですからその発明に責任はないという考え方の見本のような人ですね」


「それって、ユウマさんも同じですよね。ユウマさんによって色んなことが変わってきているけど、それは人の役に立つために考えたことだけど、結果が違って来る。それと同じですね」


 サラの言う通りなんだが、本人の心境はそう簡単に割り切れないんだよ。だからノーベルの子孫はノーベル賞を設けたのだ……。


 やりたい放題なんでもやっていいなら、それが一番楽だが、今俺はこの世界で生きているんだ。ラノベやアニメの世界を俯瞰ふかんしている訳では無い。


 俺の行動がこの世界を変える。文明を進めると言うことはそういう事だ。これまでも色々気にしながらやって来たが、ここ最近行動範囲が広がったことで、この世界に与える影響も大きくなってきている。


 現状本当にこの世界の陰のフィクサーのようになりつつある。大賢者に成るつもりがこれでは将来狙われる人物になってしまう。


 原因は隠し事が多い事なんだが、それも少しづつ公開してきているから何とか回避できると思っていたらこれだ。次から次へと発見や発明が生まれるからいけないのだ。


 それは……、自業自得……、分かってはいるけどやめられない。今はそれに同調する仲間もいるから尚更だ。


「色々先の事は、兎に角実験の後考えましょう。俺は実験の為にスライムを討伐してきますから、サラは続きをやっていていいですよ。ただ変わったパルオイスが見つかった時は俺の帰りを待っていてください」


「分かりました。私は婆やと続きをやって切りの良い所で止めて食事の準備をしておきますね。婆やにもここの海鮮BBQを食べさせたいので」


「それじゃ、船も出して置きましょうか? その方が沢山捕れるでしょ」


 二人と別れて、俺は島の森の中に入って行った。島にも川らしい物はあるので、その付近を探せばスライムを大量に捕獲? 討伐できるだろう。此処にスライム養殖場は作れないからな。討伐し過ぎてもどのくらいのペースでっ増えるのかも分からんから、無茶は出来ん。なにせ此処は島だから……。


 でもそう考えると不思議な事でもある。スライムなんて捕食する魔物もいないのに、どうして増えすぎないのだろう? 餌がないなんてことは絶対にないからな。スライムは雑食何でも食べる? 溶かす……。


 これまで色々利用してきたのに、スライムのことあまりよく知らないな。自然界でのことだが、それを知らなすぎることに今更ながら気づく馬鹿な俺でした。








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