第252話 久しぶりの島

 ガルスの捕獲でひと悶着あったが、何とかそれも収拾出来たので、急いでガルスを分けてそれぞれの村に連れて行った。


 ユートピアでもミルでもお騒ぎにはなったが、俺が魔法で取りあえずの囲いを作ってあげたし、人間の命令を聞くようにしてあるから攻撃されることもないと説明し、養鶏のやり方を教えて、肉と玉子を効率的に増やし、これからの生活に役立てる為の指導をした。



 最終的には全て丸投げ、ここからは彼らがどうするかで発展具合が変わってくる。勿論、これからも相談には乗るが、俺は此処にいつもいるわけではないので、彼ら次第という事には変わりはない。


 ラロックに連れて行くガルスに関しては、今回二つの村に分けた数よりかなり少ない。だってどう考えても飛行船に乗りきらないし、そこに置いて行くわけにもいかないからね。俺達はまだこれから移動があるから、俺達が持ち帰る分はユートピアで一時預かって貰う事にした。


 目的は達成したのだから、直ぐに持ち帰れば良いと思うだろうが、旅立つときに言われている、例の真珠の件があるから、島に行かなくてはいけないのだ。


 言われたからというのもあるが、俺も一つ気に成っていることがあるから、島に行くことに異存はない。


 ユートピアを経って暫くすると……。島が見えてきた。


「お~~、そんなに時間は経っていないのに、何だか凄く懐かしく感じるな」


「そうですね。それって多分、あの時の滞在が期間に関係なく濃厚だったからではないでしょうか?」


「そうかもね」


「お嬢様あれが真珠の獲れる島なのですか? 想像していたものより大きいですね」


 そうだよな。普通島と言えば、半日もあれば一周出来る大きさを想像するだろうが、この島は外周を回れば、2~3日はかかる大きさだ。体力のない人ならもっとかかる。


「看板もトーフハウスも残っているね。あれから誰もこの島には来ていないようだ」


「ユウマさん、そう簡単に人が辿り着くような島だったら、あの状態は保っていませんよ」


 そりゃそうだ。原種が残っている程の島だ。何百年どころか、何千、何万、それ以上誰も踏み込んでいないからのあの状態なんだからな。


 でも、あのような島もこれからは少しづつ減って行くんだろうな。世界の文明を俺が進めたことで、色んなことが変わってくる。


 それが良い結果を生むか、そうでないかはこれから先の人々が決める事。俺はその手助け、嫌、刺激を与えるだけ。今は手助けの部分が多いが、いずれ全て丸投げする予定だから、未来についての責任は俺は負わない。


 無責任のようだが、世界を動かしているのは俺一人じゃない。それは何処の世界でも同じだ。前世でも歴史的発見、発明をして来た人達はいたけど、その人達が未来の結果に責任なんて負っていない。


 ようは全てにおいて、使う人によって未来は変わるという事。まぁそれでも俺の場合は他の人より長生きするし、この世界では力もあるから少しは手を出して出来るだけ間違った方向に行かないようにはするけどね。


 だって小心者の俺が耐えられるわけないからね。国が一つ滅びましたなんて聞かされたら、ひと月位寝込む自信がある……。


「ユウマさん、一人で黄昏ていないで、着陸しますよ。この島でやることがあるんですから」


「あぁごめん、そうだったね」


 やる事って真珠の採取だろうと言いたかったが、ここで余計なことを言ってはサラの機嫌が悪くなるのは目に見えているから言わない。


 女性に美に関する事の邪魔をすればどうなるかは、これまでを見てきているから身に染みて分かっている。これは前世でもそうだった。ある女性の同僚に、化粧品にお金かけるの大変だねと言った時の冷たい視線をよく覚えている。


 彼女にとって化粧品にお金を掛けるのはもったいなくもないし、当然の事だから、それを否定するようなことを言えば、当然何言ってるんだになる。


 父や祖父が生きている頃に良く言っていた。最近は男性も美容やファッションに気を遣う時代に成ったなと……。


「また! ユウマさん! 着陸ですよ!」


 拙い! どうも最近考え事をする時間が増えている。それも時間と場所を無視して……。


「はい~~。ただいま~~」


 居酒屋のような返事をして、何時もの様に飛び降り、飛行船を着陸させた。


「サラは真珠の確保をするんでしょ?」


「そうですね。それが目的ですから」


「その捕獲する場所なんですが、以前とは違う場所でお願いしたいのです」


「違う場所というと、かなり此処から離れないといけませんね。ユウマさんがそういうと言うことは何かあるのでしょ?」


 サラは忘れているようだが、以前真珠を採取した後に魔魚の魔石を貝に入れたものがあるから、それを採って欲しくなかったのです。


 真珠の養殖には核を入れる、その代わりに此処では無尽蔵に近い量の魔魚の魔石があるし、魔魚の魔石は殆ど魔力が抜けているから魔石自体の影響は受けにくいでしょう。ただ一部魔力入りの核も入れてある。サラの入れた奴は特に気になる。でかい魔石入れたからな……。


 ただ、今回は経過観察です。いくらなんでもこの短期間で真珠が出来ることはないと思いますからね。ん? なにやらフラグを立てたような……。そんなことはないよね? まさかね……。


 魔石を埋め込んだパルオイスは目印で一応囲ってあるけど、封鎖しているわけではないから、そこにいるのが全部そうだとは限らない。でも貝の行動範囲何て知れているだろうから、そう気にしていない。


 広くてもこの海岸沿いの何処かだからね。サラが真珠を採ろうとしている所まで行ってるのも極僅かだろう。いたとしてもね……。


 その時だった!


「ユウマさ~~ん! ちょっとこれ見てください!」


 遠くからこう叫びながらサラが走ってきた。そしてサラが手に持っていた物を俺に見せた時……、


「オー・マイ・ゴット!」 と叫んでしまった。


 それはどうみても普通のパルオイスの倍はあるパルオイスなのだ。これってもしかして、嫌、もしかしなくてもサラが魔石を入れたパルオイスだ。それしか考えようが無い。以前あれだけ確保したときでもいなかったのだ。それが今回いきなり見つかるなんて都合が良すぎる。


 そんな偶然早々あって溜まるか! 


「サラ、それってどう思います?」


「自分でやっておきながら考えたくはないのですが、これは私が大きな魔石を入れた奴ですよね。そうとしか考えられません」


 まぁ流石にこの状況で自分のやった事を棚には上げないだろうが、その顔は何だ。どう見ても考えたくない、怖いというような顔じゃないぞ。どうみてもウキウキ、ワクワクしてる顔だ。言葉と気持ちが一致していないんだよ!


 最近良く見せてくれるサラの本当の性格はギャップ萌えなんだが、今回のような事はそれだけでは済まされない。ゴブリンの魔改造の時はあれ程俺を卑下していたのだから、今回は俺の番だ。


「サラ、だから言ったじゃないですか、あの魔石は大き過ぎると。これは一度真珠を見て見ないと拙いですよ」


「そうですか? ただパルオイスが大きくなっているだけで、真珠には影響ないと思いますよ」


 何という楽観視。それはどう考えても危機感なさ過ぎですよ。まぁ真珠がどうなってもそれが危険と言う訳では無いが、その真珠が引き起こす影響が計り知れないという危機感は持って欲しい。


 黒真珠の事もう忘れたのか? これはどう考えても真珠の確認は必要だな。


「サラ、これは真珠がどうなっているか、今すぐ確認が必要ですよ」


「そうですよね! そうしないと!」


 なにをそんなに浮かれているのか? 開けてびっくり御玉手箱状態なんだぞ。何が飛びだすか分からないのに、そのテンションはやめて……。


 サラは慣れた手つきで貝を抉じ開けた。その瞬間俺はぎょえ~~これどうするんだよ? こんな物世の中に出せないぞ。永久秘匿にした黒真珠なんてもう普通に出しても大丈夫だと言えるほどの大きさ。


 まして真珠の色は物凄く原色に近い青。サラが魔石を合成して入れたものだが、恐らく水属性の魔力が残っていたか、俺が知らないうちにサラが自分の魔力を入れていたかだ。


 水属性の補助魔法? そんなものあったかな? アニメやラノベだと治癒魔法系が水属性というのはあるけど、補助魔法だからな……。


 水、補助、水、海水、……。嫌、それだったら風属性だろう。ん! そういえば水属性の魔石で水中呼吸できる魔道具が漫画にあったような? 何考えてるんだよ俺は、それはあくまで漫画の事だろう。


 水中呼吸が補助魔法か……?





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