第19話 領都にて
やっぱり領都の外壁も石じゃなかった、この世界はまだセメントに近い物が作られていない、そう確信が出来る外壁だった。
何でだろう? 地球じゃローマ時代でもあったのに、やっぱり小説とは違うな。
魔法のある世界とない世界では文明の進み方も違うんだな。小説は地球の中世とかの文明を参考に書かれているんだろうが、ここは現実、小説とは違うのだ。
そう思うと俺の思ってる異世界あるあるって本当にあるのかな?
確かに初めから違っていた。だって初めて村に行った時入村料は取られなかった。
確かに村だと取られないだろうが、あの村は殆ど町と言っていいほどの大きさだし、門番だって、自警団とかではなく領兵だからな。
この国の税制も知らないから、何とも言えないが小説とは違うと言うのも頭に置いておかないといけないような気がする。
王制で貴族がいるのは解っているが、それが小説のような王制なのか、貴族もそうなのか? 一度ちゃんと調べないと失敗や損をしそうだ。神様もそこまでは教えてくれなかったからな。
あくまで○○のような世界であって、同じではないのだから。
魔法やスキルにレベルはないが、習熟度という似たものはある。
まだ聞いていないし、見てもいないが奴隷というものは存在するのだろうか?
もし存在して、小説のように従属させられるのであれば、かなり楽に情報が得られる可能性もあるが、今はまだ何とも言えない。
そもそも日本人の俺が奴隷? 異世界なんだから、「郷に入っては郷に従え」と言われて、はいそうですかと言えるか?
転生ならまだそう思えるのかも知れないが、若返ったとしても自我あるまま、ただ場所が変わったというだけだからね。
極端な言い方をすれば海外旅行に行ったのとそう変わらない。
だって獣人でさえまだ見たことがないんだから。俺の行動範囲が狭すぎるのも原因だろうが、そういう意味ではファンタジー感を実感してない。
魔法があるから多少は感じてるけど、猫耳、エルフを見て初めて完璧になるような気がする。
決して萌え~とかではないからな、あくまで知的好奇心だからな。
町の入り口には馬車の列なんてことはなく、門で身分証を提示したら直ぐに許可が出た。
フランクの実家の店は町の中央付近にあるそうだ。町ではそれなりに大きい店で商売は繁盛していて、今はフランクの兄が経営してる。
両親はまだまだ若いんだが、若い時に苦労したからゆっくりしたいと、早々に息子に店を譲り、楽隠居してる。
今はフランクの嫁の看病とかもしてくれている。優しい両親に感謝しかないというフランク。
店に着くまでに町を観察してたんだが、解ったのは、町の中も石づくりの家はない。それに中世のように臭くない。何故だろう?
セメントがないから下水は作れないだろうし、俺のようにスライム処理システムを構築してるようにも思えない?
こういうのも地球の歴史とは違うし小説とも違う。本当に気になる事ばかりだ。
マジで早急に何とかしないと、とんでもない失敗をしそうだ。
そんな事を考えていると、馬車は目的地のフランクの実家に着いた。
馬車はそのまま店の裏に行き、フランクが近くにいた従業員に声をかけ、馬車の片づけを頼み、裏口から俺を伴って店に入った。
店に入ると、また別の従業員に自分が帰ってきたことを、兄に伝えるように言い
その足で、嫁の居る部屋へ向かった。
いきなりノックもせずに部屋に入る。
ノックもせずにドアを開けて入るほど、フランクは気が気ではなかったのだろう。
いきなりドアが開いて人が入って来たので、中にいたフランクの両親らしい人とメイド風の人がびっくりして振り返った。
「父さん! シャーロットは」と叫ぶように父親に言った。
フランクの慌てぶりを見ても流石に動揺せず、父親は冷静に静かに。
「落ち着きなさい シャーロットは大丈夫 今眠ったところだ」
その言葉でフランクも少し冷静に成れたのか、静かにシャーロットの顔を覗いた。
俺はそこまで近くに寄れないが少し近づいて、シャーロットを観察した。
顔色は悪く、痩せていた。もし俺が思ってる病気だとこのままの状態は色々問題があるので、直ぐに鑑定をすることに。
名前 シャーロット
種族 人族
状態 衰弱(結核)
職業 商人
レベル2
HP 35/150
MP 150/150
スキル 裁縫 料理 計算
称号 -
やっぱりそうか、思っていた病名だった。地球ではイソニアジド、ストレプトマイシン、パスの薬を併用すれば治せる。
流石に俺もこの三つの薬を作り出せなんて言われても出来ないが、ここは異世界、それに俺の鑑定EXは優秀、ステータスの結核という文字に意識を集中すると、何を調合すれば薬が作れるか教えてくれる。
出てきた薬草や魔物素材は俺が持っていない物だった。さてどうするか?
フランクに材料を告げて揃えさせるか、薬師に言って揃えさせるか、それとも俺が自分で採りに行くか?
そんなことを考えていると、フランクの母親が気まずそうに
「ところでフランクそちらの方は?」と聞いてきた。
そりゃそうだ、いきなり息子が帰って来たと思えば見知らぬ青年を連れてるのだからフランクもその言葉で我に返ったのか、俺の紹介を始めた。
「このユウマがシャーロットの病気が治せるかもというので連れて来ました」
いや~ちょっとそれでは、端的過ぎるでしょ。いくらなんでも初対面の人にする紹介じゃないぞそれしょうがないので自分で自己紹介。
「ユウマって言います 最近ラロックの村でフランクさんと取引させてもらってる者です」
「奥様の病状が私の知ってる病気なら、治療薬が作れるかもと思い声を掛けましたところ、是非にと言われそれではということで一度病状を確認したいと、同行させて頂きました」
ここまでいうと母親も納得、父親の方は治療薬があるかもという言葉に驚いていた。
信用出来ないよな、納得はしたがどこか疑っている顔をしている。
ここは一気に行く方がいいな、下手に躊躇するともっと疑われかねない。
主導権は今俺にあるんだ。
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