第296話 ごめんなさいから島へ

「あの~~、お義父さん。少しお話があるんですが良いですか?」


「ほらきた、やっぱり何かあるんだ。今度は何をやったんだね?」


「それがですね、非常にこの状況下では言いにくいのですが、実はここの山で鉱物が取れることが分かったんです」


「ほう~、鉱物が、それは良い事じゃないか」


「その鉱物が問題なんですよ。色々採れるんですがその中に金もあるんです。これは問題でしょ?」


「き、金! それは確かにこの状況では拙いな。独立、同盟の話が進んでいるのに……」


 ヤッパリそうだよな。でも金以外はそうでもないような反応だったから、これは意外だ。鉱物資源は普通国の財産だろう? それなのに金以外は気にしないなんて、これもこれまでの資源の使い道があまりなかったことの弊害かな。


 これからというか現状でもかなり使われてきているけど、資源の枯渇という心配をしていないから、こういう反応なんだろう。


 マジでこれからは金に限らず鉱物資源は重要になるんだからそういう認識は早く改めた方が良い。エスペランスなんて岩塩の事で身に染みているはずなんだけどな……。


「どうしましょうか? これやっぱり国に報告した方が良いですかね?」


「ん~~、流石に即答は無理だな。ゆっくり考えてみるから、少し待ってくれ。それまでは視察団への報告もしないでおいてくれ」


「でもお義父さん、結構この事を知っている人はいますから、どこから漏れるか分かりませんよ」


「それなら、出来るだけ早いうちに島へ連れてって行ってしまった方が良いな。そうすればその間だけでも秘匿できる」


 島か……、それが良いな。島なら最低でも1~2週間は滞在するだろうから少し余裕が出来るな。その間に口止めもある程度は出来るし、もし公表することになっても良いようにこちらも対策を考えられる。


「本当にすみません。鉱物の探索に向かった時に偶然見つけたものですから」


「まぁこればかりはしょうがないな。見つけようとして見つけた訳でもないんだから、やらかしたとは言えないしね。それに普通の状況ならでかしたと褒められることだから」


「ご迷惑をお掛けします。それじゃ早速フランクさんに知らせてきますね」


「そうだな。準備は早い方が良いだろう。こちらはそのつもりで視察団にも準備をさせるから、後は任せなさい」


 そう言えばお義父さんも当然行くんだよな? それにもしかしなくてもお義母さんも……。どうしようかな? サラも行かせた方が良いのかな?


「お義父さんも行くんですよね? それにお義母さんも」


「勿論、そのつもりだよ。あいつのたっての頼みでもあるからね」


 やはりそうだよね。これはお義母さんのレベル上げが目的と言って良い感じか……。それなら、別にダンジョンに拘る必要はないんだよな。サラを行かせるかどうか迷うぐらいなら、飛行船で魔境の魔物を討伐した方がレベルは一気に上がる。そうすれば、お義母さんのお肌ぷりぷりの目的は達成されるから、文句は出ない筈。


 しかしそれをお義父さんに言うとどうなるか? お義父さんの目的はレベル上げというより若いダンジョンに興味があるのと、戦闘をしたいという事、脳筋だからね。だけど、お義母さんだけ魔境に連れて行くと、場合によってはお義父さんよりお義母さんの方がレベルが上になる可能性もあるんだよな。


「サラ聞いていたと思うけど、どう思う?」


「それを私に聞いてきたという事で、あなたが考えていることは何となく分かります。でもそれをやるなら二人とも連れて行った方が良いですよ。結局もう一度行く羽目になりますから」


 流石親子だ。二人の性格を熟知している。俺も多分そうなると思うんだよね。だからと言ってあの若いダンジョンではそんなにレベルは上がらないし、お義母さんの目的は達成できないから、行っても意味がないんだよな……。


「それならこの際だから、お義父さん達にも事実を分かって貰う意味で魔境に一緒に行きますか? 帰って来たばかりだけど」


「それで良いと思いますが、そうなると今度はフランクさん達が僻みひがますよ」


 あぁ~~~、それもあったか。あの人も戦闘狂だからそれを聞けば視察団の案内よりそちらを選ぶよな。ワイバーンの話は知っているしな……。だからと言って視察団を置き去りには出来ないし、これは困った。


「誰か他の人に任せたらどうです? フランクさん達以外で」


「それは俺も考えたんですが、ニックさんは病院の準備で無理だろうし、他のメンバーも色々やることがあるでしょ、学校とか色々……」


 グーテルのメンバーも殆ど駄目だしな――、あ! それならマーサとロベルトなら大丈夫か。この二人はグーテルの王族と役人だから視察について行くには丁度いい。王族と役人の立場でも物事が見れるし、マーサがいれば抑制も効くだろう。何といっても王族の命令だからね。


「いい人材がいましたよ。マーサさんとロベルトさんです。二人とも国の運営には知識がありますし、視察団の要望も理解でき、それを止める権力もある」


「それは確かにいい人材です。あの二人なら島を守ることも出来て、案内も出来る実力がありますからね」


「何をごちゃごちゃ先ほどから小声でサラと話しているんだい? 早く行かないと視察団が帰って来るよ」


 おう、そうだった、急がないと全てが水の泡になる。折角良い案が出来たのに遅れては意味がない。


「それじゃ俺はフランクさん達に話してくるから、サラはマーサさん達に伝えてきてくれる」


「分かりました直ぐに行って来ます」


 それからの俺達の行動は早かった。フランクとロイスは直ぐに了承、魔境に行けるとフランクは狂喜乱舞、ロイスなんかワイバーン、ワイバーンと叫びながら躍る始末。いくらロイスが頑張っても今の魔力量じゃティムは出来ないんだけどね。


 それを横で聞いていたフランク達の従者は、話について行けず、益々怯えることに成ってしまった。それにしても、直接戦わせるわけじゃない、パワーレベリングなんだから、拠点の人なら経験はある筈なのに、何故こんなに怯えるのかな?


 サラの方もマーサ達には話が直ぐに付いたようだが、ミランダ達がかなりごねたらしい。まぁ気持ちは分かるから今度連れて行くという事で納得させたという。結局はまた行く羽目になったので、この案も最終的に正解では無かったという事なんだろう。


 ミランダ達もそうだが他のメンバーも魔力量が多いと出来る事が増えるのを知っているから行きたがるのも無理はないが、現状連れて行けるのは俺とサラぐらいだから簡単ではないんだよ。


 この今度連れて行くと言った時点で暫くは秘匿するつもりだった、魔銃を公表することに成るのが確定してしまって、俺は折角たてた計画がボロボロと崩れ去っていくのが分かった。もうそろそろ色んなことが隠せなくなってきている。サラに俺が転移者だという事も話さなければいけなくなりそうだし、色んな物が隠せないように成って来たな……。


 こうなる原因も粗方分かっているんだ。隠し事が一向に減らないのと、行き当たりばったりで行動しているからなんですが、それも仕方がないのです。次から次に発見や発明をやってしまうから、自業自得の結果と言うやつ……。


 こんな風に自暴自棄になるのはこの辺にして、俺達は魔境に行く準備をすることにした。


「サラ、魔境に行ったら魔銃を使いますよね?」


「どうしてそんなこと聞くんですか? 使って欲しくないんでしょ?」


「いや、当然使うとおもっていたので」


「使いませんよ。当分は秘匿すると決めたじゃないですか」


 おう~~何という内助の功。魔境に行けば当然サラも魔物を討伐すると思っていたので、魔銃は使う物だと思い込んでいた。しかし本当にそれで我慢できるんだろうか?


「でもそれだとサラの今の魔法では魔境の魔物を討伐するのは厳しいですよ」


「だって今回は飛行船からの攻撃だけでしょ? いくら何でも父や母を地上に降ろすわけにはいきませんからね」


 そう言われればそうなんだが、俺が心配してるのはお義父さんやフランク達なんだよ。あの人たちがそれで我慢できるか? そう思ってしまう。お義母さんだけなら単なるパワーレベリングで良いと思うんだけど、戦闘狂のあの三人が一緒に居るんだからそうもいかなくなりそうで不安になる。


 それにサラもこうは言っているが、いざその場に行ったら豹変しそうなんだよね……。サラが言っているように行動できれば魔銃は秘匿できるが、多分無理だと俺は思う。


 戦闘狂だものサラは……。

















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