第295話 ユートピア視察

 フランク達の従者の紹介が済んだので、ミランダ達やグーテル王国のメンバーの従者にも会いに行ったが、その結果はフランク達の従者と同じで、何故か最後の挨拶では俺に対しての挨拶が怯えていた。


 どんな話をしたのか分からんが、勘弁してほしい。俺は極普通の人間だぞ!


「ユウマさん、諦めましょう。何処の世界に魔境の奥まで行って、普通の冒険者では絶対に倒せない魔物を簡単に倒す人がいますか? それにそれを私達にもやらせたんですから、怯えられて当然です」


「それって俺にそれをやらされると思っているという事? 嫌々、もうフランクさん達の弟子なんですから俺は手出ししませんよ。手伝えと言われれば手伝いますが、そうじゃないなら俺から何かすることは有りません」


 知識やそういう事を教えることはあっても、レベル上げはもうフランク達の仕事だ。勿論、魔境の奥にフランク達が行く時は、援護位はしますけど……。


「もしかして、フランクさんはあのオークやオーガの集落の事を恨んでいるとか?」


「恨んではいないでしょうが、そういう事があったという事は当然話してるでしょうね。だからさっきも言ったように怯えられているんですよ」


「でもそれって、出来るという確信があったからですよ。俺だっていくら何でも新人にそんなことさせませんよ。人を何だと思っているんですかね」


 フランク達がそんな話をしたのは心外だが、まぁしょうがない面もないことはないと諦め、本命の国の調査団の所に足を運んだ。


「お義父さん、国の調査団の方々は今どちらに?」


「あぁそれなら、船の建造施設やガルスの飼育場所の視察に行っているよ」


「そうですか、それなら戻るのを待った方が良いようですね。それは良いとして、お義父さんとお義母さんの本当の目的は何です?」


「本当の目的? そう言われると答え辛いが、娘や君に会いに来た事が一番だけど、確かに別にやりたいことがあって来たのも理由の一つだね」


 ほらね、この人もどちらかと言えばグランタイプの人だから、俺に会う為だけにここに来るような人じゃない。自分の目的がなければね……。


「もう一つの目的はダンジョンですか? お義母さんの目的も似たようなものでしょうが、それに加えて真珠の事もあるんでしょ?」


「ユウマ君は流石に鋭いね。その通りなんだが、決してそれだけじゃなく、国からも調査してくれと頼まれての事なんだよ。特にこのユートピアについてね」


 ユートピアの調査? 島の調査なら分るけど、何故ユートピアなんだろう? 特別変わった事は報告もしていないし、学校もラロックと変わらないから調査することはないと思うんだけどな。


「ユウマ君は分からないか? 何故ユートピアの調査が必要か? それはねビーツ王国との今後の関係やフリージア王国のミル村の件があるから、どのようになってもエスペランスとグーテルは対応に困らないようにしたいんだよ」


「それって俺が此処の宗主という事に関係あります?」


「あるね。今は良いけど此処に学校や病院が出来た事で当然いつかはビーツ王国にもバレるから、その時にエスペランスとの関係を疑われるし、ミル村の件はフリージア王国との関係に火種を起こすことに成るからね。だから今のうちに対処を考えたいんだよ」


 そうなるから俺は此処の責任者をロベルトに任せようと思っている。俺の名前が出ないように黒騎士で通すつもりだし、あくまでここは別大陸のユートピアという国の占領地にしたいと思っているが、そうもいかないかな……?


「それで国はこの先どうするつもりなんですか? 調査をするという事はそれなりに考えはあるんでしょ?」


「確かに考えはあるんだが、かなり大きな計画なんだよ。それも世界規模のね」


 世界規模? いったいなんだ? 急に話が大きくなり過ぎているぞ。


「世界規模の計画、それはどんな計画ですか?」


「それはね……」


 その後お義父さんから語られた話はとんでもなく大きな話だった。俺達がラロックを留守にしている間に、色んな問題が起きて動かざるを得なくなったらしい。その一つに異例の男爵の叙爵も関係しているそうだ。


 まず一番に起きたことは、全部の国に分裂して集落を形成している、エルフやドワーフ、獣人に至る人種以外の人達がエスペランスへの移住を希望したそうだ。国に属しているようでそうではない中途半端な存在だという事で、学校などにも多くの人を送れないし、当然差別のある国もあるから、その打開策として一つの国に住んだ方が良いという事に成り、エスペランスが選ばれた。


 二つ目はやはり帝国、共和国、神聖国からの圧力が凄いそうだ。知識の共有や特許について不満がかなり出ているらしい。勿論、学校や病院に関してもね。


 三つ目はユートピアとミル村の件でビーツ王国とフリージア王国との関係に不安要素が出てきたこと。今のところは両国とも友好的ではあるけれど、この先、二つの領地の事がバレた時にどうなるか分からないという事。


 他にも細かい事はあるようだが、大きなものはこの三つ。その上で出てきた方針が、世界規模という事らしい。


 この三つの事で共通するのはエスペランスがグーテル以外の国から孤立するという事なので、それを回避する為に此処を利用したいという事のようだ。先ずは此処とミル村いったいの領地をビーツ王国とフリージア王国から割譲して貰って、正式にユートピア王国の領地にし、そこに人種以外の人達を移住させるという名目を作り、その上で大部分をエスペランスとグーテルで引き受けるという事みたいだ。


 その為にはここを正式に独立させる必要があるし、此処との同盟を結ぶことが条件になる。まぁ簡単に言うと此処を目くらましに使わせろという事だが、それが上手く行けば、此処に学校や病院があっても違和感がないし、ビーツ王国とフリージア王国からも近くなるので全てが後付けでも、他国から文句が出しにくいという事みたいだ。


 確かにこの方法なら、大きな軋轢を生まない程度に色んなことが解決できる。誤魔化しではあるが、良く出来ていると思う。


 それにこの話は既にビーツ王国とフリージア王国は了承済みだそうだ。ビーツ王国は現状は変わらないから問題ないし、フリージア王国も人口のわりに土地だけは余るほどあるので問題ないという事で、直ぐに了承したそうだ。


 勿論、それだけが理由ではない。エスペランスとの関係を良くすることは両国にとってメリットはあってもデメリットが殆どない。特にフリージア王国は位置的に不利な場所にあるので、これを機にエスペランスとユートピアとの同盟が結べれば国が発展するからだ。


 このように世界的に動きがあるので、俺を含めたフランク達にはそれなりの爵位が無いと都合が悪い場面が出てくるので男爵に叙爵したそうだ。まぁそうだろうな、これからビーツ王国やフリージア王国との折衝の時に平民という立場では格下に見られるからね。当然それ以外の国からも接触がある可能性はあるから、無茶をさせないためにも爵位はあった方が良い。


 それにしても良くここまで考えたな。中々大胆な計画だし、ギリギリを狙っている。


「その話は分かりましたが、それと視察がどう結びつくんですか?」


「勿論、現状を直に確認したいというのが主だが、ユウマ君の場合はちょっとの期間でも色々やらかすから、それの確認もある」


 それを言われた時に一瞬反論しようかと思ったが、直ぐに思いとどまった。だって確かにこのたった1か月でも色々やらかしてるからね。魔境の事や魔力スポットについては話さなくても、ここが鉱物資源の宝庫だとは言わないといけないからね。特に金鉱脈については話さないと後から何を言われるか……。


 あ! やべ! これはやばいな。金鉱脈があるなんて言ったらビーツ王国が黙っていないぞ。これは隠した方が良いのか? でもいつかわバレる事なんだよな……。


 独立を認めているんだから、もう大丈夫か? いやこれは悩む、どうするのがベストだろう?


 そう言えばビーツ王国とフリージア王国の国境ってどこなんだろうな? 山脈の頂上か? 鉱山の鉱脈がどこまで続いているかの問題もあるから、これは暫くは黙っている方が良いのかもしれない。もし話すにしてもこれは秘匿するのが条件だな。


 独立後、暫くしてから見つかった事にすれば文句は付けられないだろう。自分達が調査していなかったのが悪いんだから……。














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