第294話 従者

 グランとの話し合いは、ある程度終わったから、今後の事はロベルト達も交えて改めて話し合うという事に決めて、その場は終了した。


「男の人ってお酒の話になると見境がないですね」


「サラ、流石にそれは酷いな。見境が無いのはグランさんで俺はその手伝いをしてるだけだからね」


「それで従者に成る人達は何処にいるの?」


「それが……」


 なに? サラの歯切れがやけに悪いな。こういう時は必ずとんでもないことが起きている時に違いない。


「サラ、何が起きてるの?」


「それは婆やがちょっと……」


 エリー? エリーが何をするんだ? エリーはサラの専属従者で立派な淑女だぞ。サラの例の件に関して以外なら、何も問題ないだろう。何かやりそうなタイプじゃないはずだが?


「エリーが何をしているの?」


 これではらちが明かないから直球で聞いてみたら、サラ曰く、エリーが従者教育をしているという事だった。そんな事なら別に大したことじゃないじゃないかと思っていたが、内容を聞いたらそれがとんでもなく、サラの歯切れが悪い事に納得してしまった。


 従者としてきたメンバーの殆どが、平民だから礼儀作法など殆ど知らないので、挨拶から始まって従者の心得までスパルタ教育をしているそうだ。お辞儀の角度まで寸分たがわなく出来るまで徹底的に……。それだけならまだ良いのだが、貴族の従者には護衛の訓練と称して魔物狩りまでさせ、レベル上げをさせている。


 どうしてそうなった? サラも戦闘狂に成っているから、エリーが成ってもおかしくはないけど、最近は一緒に……。あ! ダンジョンに一緒に潜ったな。あれが原因かな? あの時エリー自身は殆ど戦闘をしていないから、逆にそれが嫌だったのかもしれない。従者は主を守る者、それなのに守られる立場だったのが堪えたのかも知れない。だから従者を鍛えている……。でもエリーは年齢が……あれだから気にすることないのに。


 まぁ貴族のマーサやスーザンの従者を鍛えるのはまだ分かるけど、フランク達はそれぞれが強いから、その必要はないんだけどね。勿論、マーサとスーザンもそうだから、本当はそれも必要ない。従者の矜持なのかな? 忠誠心の強い人だからな。


「そこまでしなくてもいいのに……。でもまぁ男爵の従者に成るんだから礼儀作法は必要かな?」


「それはそうですが、そんなに一度に教えなくてもいいと思うんです。私達だって子供の頃から教えられて覚えたことですから」


 確かにそうだろうけど、成人して時間が経っている人に教えるにはその位しないと無理なのかもしれない。人の習慣はそう簡単に変わらないからね。それに商人ならある程度の敬語は使えても、職人などにそれは厳しい事だ。


「それは良いとして、皆はどういう基準で従者を選んだんだろう?」


「全員は知りませんが、女性陣は元から従者だった人か友人らしいですよ」


 王族と貴族なら元からそういう人はいただろうから、その中から気心の知れた人を選んだんだろう。ミランダ達は拠点のメンバーから選ぶと言っていたからそうしただろうし、フランクとロイスも同じだと思う。ニックは病院の人かな? それとも王都の友人という可能性もあるか?


 そうなると全く予想がつかないのはグーテル王国の男の平民のメンバーだけだな。


「一応選ぶ時の条件に、弟子にするという事は言っておいたけど、それは考慮してるよね?」


「どうでしょう? 私はエリーが今何をしているか聞いただけですし、従者の方々に直接会っていませんからね」


「まぁ従者の件についてはまた後で紹介もあるでしょうからその時に聞けば良いけど、あの国の調査団は何を調査に来たんでしょうね?」


 一つはダンジョンだろうと予測がついているが、それだけでは無いような気がするんだよ。


 その話を聞こうと思いフランクを探したが、どこにもいない。このクソ忙しい時にどこに行ったんだ? そう言えばロイスもニックもいないな。暫く探し回って漸く見つけたと思ったら、三人は俺が顔ぐらいは知っている人だが拠点と病院の人と一緒にいた。


「フランクさん、この忙しいのに何してるんですか?」


「すまんな。今ちょっと従者になってもらうこの人達に、弟子の心構えを教えていた所だ」


「従者の人ですか? 確か従者の人はエリーさんの指導を受けているはずですが、何故ここに?」


「それなら、俺たちが頼んで、少し時間を貰ったんだ」


 そう言うことなら問題ないが、何故今弟子の心構えなんだ? 弟子の心構えっていったいなんだよ?


「弟子の心構えって、何なんです? 普通に頑張って学んでもらうだけでしょ?」


「馬鹿いうな! それじゃ困るんだよ。特にお前がな!」


 俺? どうして俺が困るんだろう?


「どうして俺が困るんですか?」


「お前な~~、少しは自覚しろ。俺達は長い付き合いだから、お前の知識や考え方なんか、そういう物をある程度分かっているから、普通に対応できるが、この人達はそれを知らないんだ。いきなり今俺達がやっている事やお前が出来る事を見せられたらどうなる? それに国が秘匿してること以外にも俺達だけの隠し事だってあるんだぞ。そういう事を口外しないという約束は必要だろう? 秘匿する代わりにどんなメリットがあるかも教えてやれば、秘密も守れるしやる気もでる。そういう事を話していたんだよ」


 成る程ね。確かに従者として誘うにしても手紙に色んなことは書けないよね。殆どの事は国家機密だから気軽には言えないし、その為の今回の雲隠れでもあるんだからな。


「それは理解しましたけど、程々にしてくださいよ。皆さん若いようですし、エリーさんの指導で疲れているでしょうから」


 だって到着早々だよ。普通長旅だったんだから少しは休ませてやろうよ。これから従者であって弟子でもあるんだから、長い付き合いに成るんだし、焦る必要はないからね。


「フランクさん達がこんなことしてるという事は他の人達も同じことを?」


「どうだろうな? 多分似たようなことはしてるんじゃないか?」


 何だか俺が相当危険人物のように扱われているな。俺の事を前もって説明しておかないといけないような行動だからね。まぁこれまでの行いがそうさせているんだろうけど、何だか納得できない。俺が偶々他の人より知識があるだけなんだから、危険な人ではないだろう……?


 確かに時々、マッドサイエンティストのような事はするけどさ……。


「あぁそうだ! 大事な事聞くのを忘れていました。フランクさん、今回来ている国の調査団は何を調べに来てるんですか?」


「あぁそれなら、島の調査をさせて欲しいと言っていたな。その他にもユートピアとミル村についてもだな」


 そういう事ね。やはり話だけでは無理という事か? それとこの先エスペランスやグーテルとの関係もあるから実際に見て対策したいという事だろうね。今までも確かに視察には来ていたからね。国王や宰相を筆頭にね……。


「そうなるとまた島に行かなくてはいけませんが、これからこのユートピアの改造計画が始動するのにそれは困りますよ」


「その事は大丈夫だ。島には俺とロイスと此処にいるダニエルとポールで案内してくる」


「ダニエルさんとポールさんというのですね。二人の従者さんは」


「あぁ紹介が、まだだったな……」


 従者の人を無視して話していることに漸く気づいたフランクが、此処にいる従者の紹介をしてくれた。


 フランクの従者は拠点のメンバーではあるが、グラン商会の従業員の一番の若手でダニエルというらしい。一方ロイスの選んだ従者も拠点メンバーだが、ポールというロイスの後輩だった。そして最後に紹介されたニックの従者は王都のニックの薬師仲間の息子ケネスという成人したばかりの男の子と言って良いぐらい若い人でした。一応病院で研修はしているから、成人して何年か経っていて薬師のスキルは持っているのは確かだが……。童顔で小柄だから人によってはショタという人もいるかも……。



 それぞれ色々考えて決めたんだろうが、その人選の意図が分かり辛く、俺は戸惑っていたが、それを今追及してもしょうがない。もうここに来ているのだから、その辺の事は今度従者の人達がいない所で聞いてみることにした。


「ユウマです。これから色々大変でしょうが、頑張ってくださいね」


 俺が挨拶すると三人は化け物でも見るような目で見ながら怯えながら挨拶して来た。


「よ、よ! 宜しく、お願いします!」


 何でそんなに怯えているんだよ? どんな説明をしたんだフランクよ?




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