第293話 これからのこと?
予想外の人の訪問で驚いたが、一人を除いて他の人の目的はダンジョンだろうという事は直ぐに分かったので、問題が無い訳ではないが、さほど困る事でもない。
特に目的が分からないグランは不気味である。グランがわざわざここに来る目的がどうしても分からない。時々突拍子もないことをする人だから余計に不安になるのだ。
「グランさん、どうしてこちらに?」
「そんな寂しい事言わないでくれよ。ユウマ君の作る国が見たくて来たんだから」
いやいや、それだけじゃないでしょ。絶対何か他に目的がある筈。グランとの付き合いも長いからそれくらいは隠しても分かる。いったい何だろう? それにサイラスはグランの護衛のようだから、サイラスの目的はダンジョンではないようだ。何故なら、よく考えるとサイラスはダンジョンについて知らない筈なんだよね。島の事を国は秘匿しているから、当然ダンジョンについても秘匿されているからね。
グランが個別に護衛を頼む? それって単独で行動するという事を意味するよね。息子のフランクがいるんだから、皆と行動するなら必要ないもんね。
「国ですか? ここは一応この大陸外の国の領地という事に成っていますから、俺のものという訳じゃないですよ」
「それは建前の事でしょ。ここに来る前から思っていたけど、ここに来て更に確信できたよ。ここはユウマ君の国で間違いないと……。それに君、宗主と呼ばれているじゃない」
確かに宗主とは呼ばれているけど、それは住民が勝手に呼んでいるだけで、俺が此処の主だと宣言したわけではない。まぁ確かに色々とやっているのが俺の発案だったりするから、中心人物ではあるけど……。
「それは住民が勝手に言っているだけですよ」
「ユウマ君、それは君を此処の主だと住民が認めているからだよ。そこまで信頼されているのに、君は逃げるのかい?」
逃げる? ここの住民を豊かにしたいとは思っているから、逃げてはいないと思うけど? 宗主と呼ばせないことが逃げてることに成るの?
「逃げるなんて、此処の人達の生活が良く成れば良いなと思っていますよ」
「だったら、逃げずに宗主として皆を率いれば良い。それが国の代表というものだよ」
それだったらロベルトというリーダーがいるから、それで良いと思うんだけどな?
「ユウマ君の顔を見たら分るけど、僕じゃなくてもリーダーは別にいると思っているようだが、人の心はそんな簡単な物じゃないよ。宗主とまで崇めるという事はリーダーの中のトップという事。貴族がリーダーならそのトップは国王でしょ」
それはそうなんだが、俺は表に立つタイプじゃない。影で暗躍したいんだよ。
「グランさん、俺は表に立つのが嫌なんですよ。だからここでも手助けはするけど、此処のトップになるつもりはないんです」
このままだと最後には言い訳出来ないように成りそうだから、はっきりと自分の気持ちを言っておくことにした。
「それじゃあくまで君は此処の主に成るつもりはないと?」
「そうです、此処はどんな事があろうと彼らのものです。失礼な言い方かもしれませんが、俺はどこの国にも属さない一個人でいたいんです」
サラとの結婚の為にグーテルから爵位は貰っているけど、俺は所詮転移者でこの世界の住人ではない。誰にも言えないけどそこだけは何があろうと変わらない。それは俺自身が変えようとしてもだ……。転移者という事だけは絶対に変わらないからね。
当然自分で言っていることが矛盾していることは分かっている。この世界を変えようとしてるのは俺なんだから、その中心にいるのも俺だと認識している。それなのに中心人物にはならないなんておかしな話だ。
この世界は遅れ過ぎている。だからその針を進める役が俺なんだけど、追いつけばそこから先を動かすのはこの世界の人でなくてはいけない。その為の賢者育成や教育なのです。
それが目標なのに俺がどこかの国に属したり、国の代表に成ったら、出来る事が限られてしまう。言い方は悪いが、俺は全てを利用しているだけ、俺の目標だったり欲望の為にね。
「君がそこまで言うなら、これ以上は何も言うまい。だけど君が此処をどう変えるのかには興味があるからじっくり見させてもらうよ。それに私にもここでやることがあるからね」
ほら! やっぱり他に目的があった。それは何だ白状しろ。
「分かってもらえて良かったです。それでやる事って何です?」
「それは決まっているじゃないか! 君も人が悪いな。酒だよ酒! 君が教えてくれたんだよ米から酒が作れるって」
あぁ! そういう事か! あれ? でもそんな話をグランにしたことあったかな?
「忘れたのかい? ユウマ君がウイスキーやブランデーを作って試飲会をした時に米という穀物からも酒が作れると話してくれたんだよ。他の穀物や野菜からでも作れることもね」
ん~~~、言ったのかな? 言ってないのにグランが知っているはずないから言ったんだろうな。でも……? ここで米が見つかった事や栽培してることは言った覚えがない……。
「グランさん、どうしてここに米があると知っているんです?」
「それはフランク達が従者を呼ぶための手紙に書いてあったからだよ」
達という事は一人ではないな。フランク、ロイスは確実だけど、他にも書いた人がいたんだろうか? いや、今はそんな事どうでも良い。グランの目的が酒だという事が分かった以上注意しないといけないのは、グランの今後の行動だ。酒の為なら何をするか分からない人だからな。
俺の食う分まで酒にされては溜まったものじゃないから、監視するか、俺の分を先に確保しなければいけない。
「グランさん、現状の米の量では酒を作るまでの余剰分は無いと思いますよ」
「それは分かっているよ。だから交渉をしたんだ。次の柵付け面積を増やしてその分を回してもらえるようにね。それとその時に彼らにも米から酒が作れると教えたら、彼らも作りたいと言い出して、コメの生産を増やすと言っていたよ」
「それは分かりましたが、酒の作り方までグランさんに話しましたか?」
「いや、それは聞いてないね。でも当然教えてくれるんだろう? ユウマ君なら……」
そりゃ教えないとは言わないけど……。まぁ日本酒というのは仕込む時の水とか精米具合、酵母で味が変わるというから、色んな所で作るのはありだから良いかな。それに何と言っても俺が飲みたいからグランに作らせるのは問題ないし、作りたいという人がいるんだからやってもらおう。
言い訳のように言っているが、一番の理由は俺には今そんな余裕がない……。
この際だから、芋や麦から酒が作れるのも教えるか、俺は麦派だけど、偶に芋焼酎も飲んでみたくなったからな。あの独特な風味が良いんだよな……。
此処の米は偶々ジャポニカ種だったけど、インディカ米があれば泡盛も作れるんだよね。原種の多い島に無いだろうか?
「酒の作り方は教えますけど、決して食べる分には手を付けないで下さいよ。その代わり、他のもので作れる酒を教えますから」
「おう! それは有り難い。益々、酒を作るのが楽しみだ」
そうだここで作れる酒の代表的な物を忘れていた。ここはサトウキビの産地何だから、ラム酒やカシャッサ・黒糖焼酎が作れるんだから、米の生産を別に持って行く事も考えた方が良いかな。
「グランさん、米を辺境伯領で生産しませんか? 気候が違うから直ぐには無理でしょうが、品種改良が出来れば、作れるように成りますから。ここでは他に酒に出来るものが大量に作れるので、米を増やすより良いと思うんです」
「ここで作れるもの?」
「そうです。砂糖の原料からも酒は作れるんですよ。ですがこの原料はエスペランスでは作れないでしょ。それならここは此処の特徴をいかして、エスペランスは独自に米から酒を作った方が良いと思いませんか? 少し時間は掛かりますが」
「それは面白い。米がエスペランスでも作れるなら、やってみる価値はありそうだ」
「先ずはその下準備として、ここの山脈の低い位置で試験栽培すれば気候にあう米も作れるはずです。それまではグランさんの言うようにここで作っても良いですけど、徐々に減らすことを考えておいてください」
今はしょうがないとしても、将来的に此処でしか作れない物にした方が、特産品に出来る。米は何処でも作れるように成るけどサトウキビは無理だからね。
あれ? 気候の事考えてたら、また疑問が出てきた。この大陸の三分の一にしか人類は住んでいない。それもどちらと言えば南の方に、それなのにこれだけ気候が違うのはおかしいよな?
これも魔力スポットと関係があるのかな……?
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