第292話 この世界の?
鉱山予定地までの道を作りつつ、サラの魔銃の練習やテストを見ていたら自分もやっぱり魔銃を試したくなり、道の完成が遅れてしまった。夕方までにはユートピアに行くつもりだったのに、結局予定地で一泊する事に……。
「こりゃ帰ったらみんなに怒られそうですね」
「まぁそうでしょうけど、心配はしていませんよ」
それも少し寂しいが、確かに心配はされないな。その辺の高ランク冒険者よりレベルは高いからね。俺のレベルを知っている人はいないけど、飛行船の事を話した時に魔境の事も話しているから、サラやフランクのレベルは皆に知られている。
その時のお義父さんの嫉妬、羨望、驚愕、何と言って良いか分からないような、目は今でも忘れられない。多分今度ラロックに戻ったら必ず連れて行けと言われるだろうな。下手したらお義母さんも……。従者のエリーの変貌ぶりを知っているから可能性は高い。
この世界の貴族の結婚は早いから、サラやサラの兄の年齢からしても義両親は前世基準で言ったらまだ相当若い。婚姻が殆ど十代だから、40代になる前に孫がいる事も珍しくない。
そんな中、サラの結婚は病気の影響でかなり遅い方だから、あの異常なまでの攻勢があった訳です。まぁそれも医学が進んでいなかったことも関係しています。、当然出産も自然分娩だけ、帝王切開などなかったので人の体を切ったり縫ったりする外科手術なんて治療法は無かった訳ですから、高齢の出産は危険も多かったので、出来るだけ若いうちに出産する方が良いのです。この世界の高齢出産は20代ですからね。
それにこれまでの平均寿命は40~50代。平均ですからもう少し長生き出来ますが乳幼児の死亡率が高かったので、平均が著しく下がってしまってたんです。それもこれからは変わるでしょう。医学の発展とこの世界にあるポーションや魔法によって、乳幼児の死亡率は下がるし、高齢者の死亡率も下がるから、平均寿命も延びるし人口も爆発的に増える。
こんな事を寝る前に考えていたら、男としての機能が膨大して来たので、義両親の願いを早く叶えてやりたいと、野営をしているにも関わらず頑張ってしまいました。まぁそれは良い訳です、正確には男の本能です……。
ただ、事が終わって冷静になった時に、さっき考えていたことに関連して、思いついた仮説があるのです。
それはこの大陸以外に
この星には大陸が三つ存在しますが、これまで大陸間の交流が一切ない。この大陸は文明が遅れていましたから当然なんですが、人類の移動があったなら、他の大陸と地続きの時代が無い限り、船での移動になるけど、その割にこの大陸の造船技術が進んでいない。
もし他の大陸に人類がいるなら、発展してる文明があってもおかしくない。そうすれば船の技術も発達するはずだから、この大陸に来るか途中で難破してもその形跡位は記録に残っている筈。それも一切ないから、俺は人類が存在するのはこの大陸だけだという仮説を立てたのです。
この仮説を立てた最大の理由は痕跡や物証に近い物だけじゃなく、この大陸の人の向上心のなさです。この大陸の人が移動してきた人なら、移動するだけの知恵や勇気があった筈、そんな人達なら文明はもっと進んでもおかしくない。逆にここが人類発祥の地なら、此処の文明の発達具合が、他の大陸に人類がいないことの証明になる。
それに、この世界に魔族という人類が存在しない事だけは転移の時の情報で知っているから、余計に仮説が成り立つ。人間種と違う進化を遂げた、ドワーフやエルフ自体もこの大陸に存在しているから、尚更だ!
これから先人口が爆発的に増えるのは分かっているから、別の大陸に移住できる場所を神が用意しているとも取れる。
そして最後に俺の転移先が此処だという事、それには理由がある筈なんです。ここより文明が発達してる所があるなら、そこに転移させたのではないか? わざわざ遅れている所に転移させるより、ある程度進んでる場所なら、他の大陸に行くのが早くなる。そうすればいずれこの大陸も発展したはずだから、今の状況は合理的でない。
やはり、魔境の調査より、別の大陸を見に行くのが先決かな……?
それによってこの先の大きな方向性が決まる。今までは別の大陸にも人類がいるという前提で動いていたけど、その前提が崩壊したら、やり方も変わってくる。当然、同時に俺の出生の設定も壊れるんだけど……。その時は新しい設定を作るか正直に全てを白状するしかない。
それも嫌なら別大陸に逃亡するかだ……。
これは近いうちにこの仮説をサラに話す必要があるな。そうしないと調査にも出れないからね。そしてこの仮説が証明されたらサラには転移の事を話すしかない……。
横でスヤスヤと眠っているサラの髪を撫でながら、俺はそうなった時の心の準備をする決意をした。
翌朝、昨日の夜の事は今は心にしまって、鉱物の採取と鉱山の基礎を作った。本格的な鉱山にするのは地元の住民に任せないと技術や経験が積めないからね。
「それにしてもこの山脈は鉱物の宝庫だな。特に金鉱脈は凄い発見だ」
「でも、その金鉱脈は争いの種になりそうですよ」
「そうなんだよね。特にここは元ビーツ王国だからね。武力でどうのは無いと思うけど、交渉という名目で何か言ってくるかもね?」
まぁ黙っていれば良い事なんだけど、いつかはバレるよね。今は良いけど、ユートピアが活性化するれば当然貨幣が足りなくなるから、自国通貨を作らないとユートピアの経済が回せない。
「今日は早く帰らないと本当に怒られそうだから、急ぎましょう」
「そうですね。流石に二日も遅れたら、ロベルトさん辺りが心配して騒ぎになるかも?」
うちのメンバーは問題ないけど、ユートピアの住民は俺を宗主と崇めているから、暴走しかねない。
そう思いユートピアに急いで戻ったら村の入り口に沢山の馬車が止まっていた。
「何? 当然教師の一行だろうけど、それにしてはあの馬車の数は多くない?」
「本当ですね。予定の人数なら多くても10台ぐらいですが、あれはどう見てもその倍はありそうです」
今回の教師や家族は完全移住は求めていないから、長くても2年の任期。それに住居や家具などもこちらで用意すると言ってあるから荷物も多くない筈なんだけどな?
考えれれるのはエスペランスやグーテルの関係者が訪問したなんだが、どう見てもそんな高級そうな豪華な馬車が無い。あるのは極普通の馬車と荷馬車だ。
何だか少し嫌な予感がする……? そう思いながらも戻らないといけないので、村に近づき馬車の横を通り過ぎようとしたら、馬車の中から、
「やぁお帰り! ユウマ君」
その声に反応して馬車の方を見た時、窓から顔を出している人物に俺もサラも物凄く驚いた。
「お、お義父さん! どうしてここに?」
「どうしてはないだろう。娘婿と娘に会いに来たに決まっているじゃないか」
いやいや、それはおかしいでしょ。俺達はここに永住する訳じゃないんだから、わざわざ北の辺境から南の辺境まで来る必要はないと思う。どうせ近いうちには戻ることは知ってるはずなんだから、その言葉は言い訳にしかなっていない。逆に本当の目的は他にあるよと言っているようなもの……。
「あぁ、それからこの一行にはグランもいるし、サイラスもいる。勿論国の調査団もね」
そこまで言われて、漸く他の目的が分かった。グランの目的は分からないが、お義父さんを含めた他の人達の目的は島のダンジョンだ。勿論ユートピアの視察も兼ねているだろうが……。
そこへ更なる追い打ち、
「サラ、元気そうね! ユウマさんに毎晩可愛がってもらっている?」
「お、お母様! なんでここにいるんですか? それに会って最初の言葉が何でそれなんですか!」
孫を早く見せろアピールは今も健在の様で、通常運転なお義母さんに安心する一方、この状況はどうしても冷静には受け止められない。
これからユートピアの本格的改造計画を始めようという時に、これは波乱を予感させる一行の訪問だ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます