第291話 ユートピア改造計画開始
「皆さん、片付けは終わりましたか? 飛ぶ鳥後を濁さずと言いますから、綺麗にしてユートピアに向かいますよ」
「ユウマそんな言葉があるのか? 聞いたことがないが何となく意味は分かるな」
しまった! 前世のことわざ何て知らないよな。確かにこの世界にもことわざらしいものはあるけど、それ程多くはない。ことわざは、観察と経験そして知識の共有によって、長い時間をかけて形成されたものだから、この世界はそれがまだ未熟だから、ことわざも生まれないんだろう。
鋭い風刺や教訓・知識などを含んだ、世代から世代へと言い伝えられてきた簡潔な言葉なんて、知識という基礎が無いんだから無理な話だ……。
「そういや、帰ったら俺達に従者が付くんだよな。貴族や王族のスーザン様やマーサ様は慣れているだろうけど、俺達庶民にはどうすれば良いのかさえ分からん」
「そう難しく考えなくても良いと思いますよ。従者と言っても公の場に出る時の体裁みたいなものです。実質は弟子だと思えば良いのです」
「男爵か……。実感がないな」
そりゃないよ。俺だって自分が伯爵だなんて一度も思ったことないからな。それどころか貴族だと思った事さえない。今までと何ら変わらない一般庶民的思考しか出来ないよ。特に俺のように身分制度がなかった日本で生きた経験があると、逆に貴族や王族に対してもそういう接し方が出来ない。まぁ今できているのは会社の上司を相手にしている感覚でやっているからかな?
「では帰りましょう、ユートピアに」
島を後にして数時間、大陸の外れユートピアが見えてきた。
「ユウマさん、今回は何時もより早く着きましたね」
「えぇ、今日は良い風に恵まれたようです」
この星にも気流はあるのでしょうが、そこまで高度の高い所を飛行していませんから、気流よりも風向きの影響を受ける事の方が多い。今回は運よく風向きが飛行船の後部から前方に吹いていたから加速したようです。
「着いたら、誰かに教師と従者をミル村まで迎えに行ってもらわないといけませんが、誰に行ってもらいましょうか?」
本来は俺が行くつもりだったが、堀も埋めて通れるようにしておいたから、必ずしも俺が行く必要が無い。結果迎えは誰でも良いのです。それでも女性だけという訳には行きませんから、誰にするかな? やはり男性でそこそこ戦闘力があるとなれば、フランクかロイスだからフランクかな。ロイスには学校の件をスーザンと任せたいから、自然とそう成る。
一人は決まったけど、後一人か二人は行ってもらいたいな。結構な人数来るからな。従者だけでも14人、教師が家族も含めて15人、30人近い人が来るのに一人で迎えは厳しい。
グーテル王国の人もいるからここはマーサにも行ってもらおう。もう一人は……、ローズだな。ローズは人見知りしないし、一番元気が良いから旅で疲れている人の気分も和むだろう。
この三人に行かせるのは良いが、一つだけ困った事がある。行きは身体強化で走って行っても良いが帰りはそうもいかない。王族のマーサがいるから帰りも走りでは、グーテル王国の人が気にするだろう。王族が走っているのに自分達が馬車では……。
馬車は俺のインベントリにあるけど、馬がいない。ミル村で借りるか? そのついでにミル村の村長ルイーザさんを連れて来てもらえば、ミル村からの留学生の話も出来る。
飛行船が山脈の駐機場に着いたから、早速この事をフランクに伝え、行ってもらうことにした。
「フランクさん宜しくお願いしますね。教師一行がミル村に到着するのが正確に何時になるか分かりませんから、少し向こうで待機になるかもしれませんが、その時はミル村の手伝いでもしながら待ってください。もし向こうが先に着いていればミル村で待っているはずです」
トンネルの事は伝えてあるけど、一応山脈の手前の森には魔物もいるし、山脈にも魔物がいるから決して教師一行だけでは来るなと伝えてある。冒険者に化けた国の護衛はついて来ているとは思うけど、信用できないからね。
「それじゃ、行ってくる。何かあれ伝書クルンバで連絡するから、心配するな」
「はい、お願いします。馬車はマジックバッグの中に入れて置きましたから」
駐機場でフランク達と別れた後、俺達はユートピアに急いで帰り、ユートピアの改造計画を進めた。
「ミランダさん達は取り敢えず防水塗料を完成させてください。エマさんも結界の方をお願いしますね。ニックさんは俺が診療所を作りますから、それまでは住民の健康管理をお願いします。後のメンバーは学校の設備のチェックをそれが済んだら、各自素材集めとか出来る事を始めてください」
「ユウマさんはどうするんですか?」
「俺はこのまま山脈の鉱物資源を採りに行って来ます。次回からは別の人に任せますが、今回はその準備も兼ねて俺が行って鉱山までの道を作ったりしてきます」
「私は当然ついて行って良いのですよね?」
サラが自分は夫婦なんだから当然ついて行くという意思を込めて言ってきたが、サラの本当の目的は魔銃の練習をしたいからだと、分かっている俺は苦笑いをしながら、
「勿論ですよ!」
今度はミランダ達とも駐機場から少し下ったところで別れることにした。昔は全部自分でやらなっければいけなかったが、もうこういう別行動が出来るぐらい、皆が成長しているので本当に助かる。
「あぁ、ロベルトさんとマックスさんに宜しく言っておいてください。直ぐに戻りますから」
「はい、後は任せてください」
いや~~、思っていた通り忙しい。やることが一杯で時間がいくらあっても足りない。それでも昔に比べれば進捗のテンポが早い。
「サラは自由にやりたいことをしていて良いですよ。俺は道を作りながら、資源を採掘して行きますから」
「鉱山予定地までの道作りに邪魔な木の伐採くらいは手伝いますよ。その後は私は役に立ちませんから、魔銃の練習でもしています」
「じゃ、魔銃の練習の時に、この俺用に作った魔銃もテストしてください。使い方は教えますから」
「もう~~、どうしてその魔銃の事は教えてくれなかったんですか?」
「いや~~、これはついでに作っただけですし、サラには必要ないかと……」
確かに俺用だからサラには言っていなかった。まぁ本当は言うのを忘れていただけなんです。サラ用の魔銃を見せた時のサラの反応が、凄すぎて実弾タイプの魔銃の事を言い忘れただけです。俺が海岸で実弾を作っている時も、サラは一人で魔物討伐をしていたから、俺のしていたことに気づいていなかった。
島に戻る時も俺はすっかりこの魔銃の事が頭から消えていたので、テストもせずサラの練習に付き合っていた。それにサラ用の魔銃も改造して、サラの希望通り、他の魔法も撃てるようにしたから、それのテストの方に意識が行ってしまっていた。
俺が実弾タイプの魔銃の使い方を説明すると、ニコニコしながらこれも良いな~~と言わんばかりの顔でサラは俺を見つめていた。サラ用の魔銃はファイヤーボールのような魔法も撃てるようにしたから必要ないと思うんだけど、これも欲しいのだろうか?
「ユウマさん、ユートピアに戻ったら私にもこの魔銃作って下さい」
「サラには必要ないでしょ?」
「私が頂いた魔法タイプの魔銃は、魔方陣の交換で発動する魔法を変更出来る大変良いものですが、類焼の危険がある場所では火属性魔法を風属性魔法などに交換するのがちょっと面倒で、この実弾タイプも頂戴出来ればいざという時に森で火事を起こさない為にも場所による使い分けが出来て便利だと思ったんです」
いや確かに言ってることは間違っていないけども、それって森に入る時に魔方陣の選択を間違えなければ良いだけでしょ……。まぁ魔物によって有効な魔法が違うという事はあるかもしれないけど、今の所そういう魔物には出会っていなし、森に入るのなら初めからウインドカッターの魔法陣をセットしておけば済むことだよね。
高濃度の魔力帯の所なら、レーザーの魔法陣だけで良いと思うし……。ようは理由なんてこじつけで、ただこれも欲しいというだけでしょ。
もし相手が人間だったら、実弾タイプは有効だよ。魔法だと確実に殺してしまうからね。それだったらテーザー銃みたいな電撃系の魔法の撃てる魔銃の方が良いんじゃないのかな?
いや待て、そんな事を今言ったら、それも作れと言いそうだよな。それこそ俺には必要ないものだからね。俺は普通に電撃系の魔法を撃てるからテーザー銃なんて意味がない。まぁサラが言っていたように魔銃で魔法の練習をするという意味でならあったも良いとは思うけど、それなら今のサラ用の魔銃に電撃の魔法の魔法陣を加えれば良いだけ。
ん~~、サラの身の安全や使い勝手考えれば、全部あっても問題ないが、これじゃサラがミリオタみたいになってしまう……。
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